9.かけっこ開始
ポッポキが歩くと、右腰が高くなり、左腰が高くなりする。
私が座ってるのは肩の後ろで、その後ろがアミョーの腰だから、足を動かすとお尻を持ち上げられる位置が変わる感じ。
アミョーの背中は肩の後ろから腰に落ちて行くから、ただ座ってると後ろに滑ってしまう。
前屈みの姿勢になるのは、滑り落ちないようにするにもいいのかな。
「エーヴェさん、力は足だけに入れてください。体全体に入れると、ポッポキがバランスを取りにくくなります」
……おお、体幹です。
マレンポーの説明に深呼吸する。
体の足だけ力を入れて、他に力を入れない。
……難しい。
――まだ行かないか? まだ行かないか?
「アミョーの背中、高くていーなー!」
――うむ! アミョーの気分になるのじゃ!
システーナは、ストストに乗って、すでに軽く周りを走ってる。
ニーノと私が入門講習中。
でも、ニーノはたぶんアミョーと意思疎通できてる。
マレンポーも気づいたみたい。
「もしかして、ニーノさんはアミョーと話せるんですか?」
「鳥の共通の言葉で、少し気分が分かる程度だ」
「ほほぅ! それはぜひ、一緒に研究したいですね! 思考の形状や色と結びつけられたら、すごくアミョーの気持ちが分かるようになります」
「……可能な範囲なら、協力する」
……うーむ。ニーノはチートです。
「ポッポキ、走りにくいですか?」
ポッポキは首をこっちに向けて、一時停止する。
みゃう
また、顔を前に戻してしまった。
頭からときどき色の濃い多角形が飛び出してくる。
羽で守られてて、安心感はあるけどやっぱりハーネスがほしい。
「まぁ、大丈夫じゃない? エーヴェは小さいから、ポッポキの負担も小さいよ」
――出発なのじゃ。どこかに出発なのじゃ。
ントゥとアミョーと、尻尾で縄跳びみたいに遊んでたお骨さまが首をあげた。
アミョーはお骨さまの尻尾を軽く飛び越えるけど、ントゥは大ジャンプでも越えられない。
途中から、一回お骨さまの尻尾に跳び乗って、飛び降りる縄跳びになってた。
ペロは尻尾の先で振り回される遊び。
「じゃあ、行きましょうか、ストスト」
――おお、行くぞ! さあ、行くぞ!
――行くのじゃ!
マレンポーの乗ったアミョーが真っ先に駆け出して、それをストストとシステーナとお屑さまが追いかける。
ニーノが続いて、ペードが隣に来た。
「行くよ、エーヴェ」
「はい! ポッポキ、お願いします」
ポッポキがゆっくり走り出す。
手にぎゅっと力を入れそうになって、息を吐く。
……足だけ力を入れて。
最後にお骨さまがひょいひょい追いかけてくる。
何羽かアミョーもついて来るみたい。
「いってらっしゃーい」
――よく走ってくるのじゃ!
カウが杖を振って、ナームが黙って見送ってくれる。
長お屑さまもみょんみょんした。
*
だっ……だっ……
最初に地馳さまが近づいてきたときの地響きの一つ。アミョーの足音が体に響いてくる。
生き物の上に乗って走るのは、生まれて初めて。
前の世界では、一度くらい体験乗馬したかもしれない。
でも、係の人が側で一緒に歩いてた。
走るなんて全くない。
「すごいですねー!」
鳥だから、馬とも違う。
動きが違うけど、何より呼吸の音が違う。鳥も呼吸してるはずだけど、馬のふいごみたいな息の音はしない。
触った感触も違う。
羽毛の内側に手が触れるから、肌のぶつぶつが分かる。そして、えもいわれぬ柔らかーくてあったかーい気配に包まれてる。
肌はとっても温かい。
「ね? 大丈夫だった」
ペードが併走して笑う。
「はい! ポッポキ走るの上手です」
「あはは! まだまだ走ってないよ。助走くらい」
「なんと」
たしかにまだ自転車でのんびり走るくらいかな。
お骨さまもひょいひょい走ってて、余裕たっぷり。
――皆で走るのじゃ。愉快なのじゃ。
――骨さま、一緒に走る。おれとかけっこ、いかが?
「楽しそーだな! やろーぜー」
――かけっこなのじゃ。
もうお骨さまの頭の上にいるントゥが、意気揚々と尻尾をくねらせてた。
頭上をオレンジ色の三角形が飛んでいく。
――今からかけっこなのじゃ! 今じゃ!
お屑さまの微妙なかけ声の下、みんなが一斉にスピードを上げた。
「ぅえ? エーヴェもですか!」
「そうみたいだ! しっかりつかんでて!」
もうしゃべるのは止め。
ポッポキは地を蹴って、前へ進む。
激しくなったバウンドに、ぎゅーっと手に力を込めた。
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