6.吹き荒れる黄色
黄色い丸を飛ばしながら、一羽のアミョーが走って来た。
蹴爪の色を見ると、本当にストストだ。
――ナーム!
ストストはナームの前まで来ると、長い首を上げたり下げたり、ナームの頭の上をあっちからこっちへ飛び越えたり忙しい。
ナームも首を上げたり下げたりしてる。
ストストからずっと黄色い丸が飛んでるから、目がチカチカしてきた。
「ストスト、落ち着いて」
「ナーム、まだ治ってないんだってさ」
――なに!
ストストは飛び回るのを止めて、ナームに顔を向ける。
首を曲げて、左目をぐいっとナームに寄せた。
――なぜ、治らない? ナームのにおい、変わってる。いろいろまぜこぜ。
「皮膚の病は時間がかかる」
代わりに答えたニーノに、ストストはまた顔を寄せる。
今度は右目。
――お前もにおいまぜこぜ。お前、客、ニーノ。お前、何?
「私はニーノ。病や傷を治す術を、少し知っている」
――お、おお!
ニーノと会話してるうちに、他にもアミョーが寄ってきた。
みんなナームにあいさつしてる。
アミョーから飛び出る黄色や山吹色が吹き荒れて、ミモザの花の中にいるみたい。
「ナーム、人気者ですよ」
ふわふわ頭をつつかれてるナームに声をかけたら、かろうじて見えてる口元だけ、にやっと笑った。
――おおい、こいつ、ニーノ! ダールが言ってた、ニーノ!
ストストが首をあげて、羽をバタバタしてアピールする。
「ダール! ストスト、知ってますか?」
ダールは邸のはるか上を飛んでいた大きな鳥だ。
お泥さまの座に行くとき、エレメントと一緒に並んで飛んだこともある。
邸からずいぶん離れたけど、ここにもダールがいる。
――俺、知ってる。ダールは涼しいときやってくる。南の厚い森にニーノがいる、と、聞いたぞ。
「暑い森?」
――厚い。竜さまの森は薄い森。
なるほど、アミョー表現です。
他のアミョーも寄ってきて、ニーノに首を上げ下げしてあいさつする。
ニーノも会釈してる。
「へー、こんなとこまで」
――ダールは北のてっぺんから南のてっぺんまで旅するのじゃ! 変わり者なのじゃ!
空を見上げたシステーナにお屑さまがぴこんぴこんする。
「お屑さまだって、いろんなところを旅してるじゃん」
――わしはゆがみを整えておるのじゃ! 気ままな旅とは違うのじゃ!
――わしは招かれたとこへ行くのじゃ! 気ままではないのじゃ!
「そーなの?」
両方のお屑さまから怒られて、カウは首をかしげた。
「ストストはダールとおしゃべりすんのか?」
システーナに声をかけられて、ストストは首を傾け、また片目でじっと見る。
――そう。鳴き声高いところまで聞こえる。高いところから聞こえる。
「すごいですね」
――そう、アミョーすごい。
アミョーたちが少し落ち着いてきたのか、黄色の形は広がって、薄くなった。
それぞれ、花畑に首を伸ばして花を千切って食べたり、虫を捕まえたりしてる。
――お前たち、南の厚い森からやってきた? そうか?
「そうですよ。竜さまの座です」
ストストはまだおしゃべりしてくれるみたい。
頭を傾け、傾けして考えてる。
――遠くから人が来るのは初めて。羽もないのに、来る。ニーノはいる。ダールの言ってたのホント。
みゃうみゃう
アミョーたちは思い出したようにこっちを見る。でもしばらくしたら、また自分の餌探しに戻った。
ちょっと不思議な気分。
「アミョーたち、今、忙しくないですか? 巣の場所は決まりましたか」
みゃうみゃうみゃう
アミョー同士で話してるけど、分からない。
――おれは一人。巣は要らない。
「ストストは二巡り前くらいに相手が死んじゃったんだよ」
カウがいつの間にかしゃがみポーズになって、羽を編んでる。
――おれ何巡りも生きる。また一人。
ストストも特性を持ってるから、ニーノたちと同じで長生きなのか。
「めぐりって何ですか」
もしかして、一年とか暦が決まってるのかな?
――竜さまはたくさん走る。おれたちがヒナを育てる場所二つ。二つ通って戻ってきたら、一巡り。
「おお! じゃあ、ここに来てるみんな、長生きですか?」
周りで餌を探し始めたアミョーを見る。
「いいや。前の場所で生まれたばかりのアミョーだよ」
ペードが編みながら答えた。
――生まれてちょっと、卵産まない。みんなでヒナの世話手伝うぞ。おれたち、もうすぐ忙しいぞ。
「おおー!」
アミョーの中にも役割分担があります。
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