5.再会を待つ
雨でぬれた翼をきらきら光らせながら、船の隣でお影さまは首を垂れてる。
ぶー……
「はい」
ぶー!
「はい」
甲板に立つニーノがお影さまの正面で、また訴えを受け止めてる。
虹は消えてしまって、日はだいぶ高くなった。
――仕方がないのじゃ。虹は消える。
ぶー……
――虹は臆病なのじゃ! そっとしておくのじゃ!
マナーモードでお影さまが不満を訴えてる。
せっかく飛んでいったのに、いくら飛んでも近づかなくて、しかも途中で消えてしまった。
頑張ってきらいな雨の中を飛んだのに、虹に会えなくて残念だったみたい。
「お影さま、虹は消えましたが、いつかまた会うことがあります。別れが惜しければ、再会が嬉しくなります」
無表情なニーノに、お影さまは首をかしげる。
ぼ
「はい。必ず会います」
――虹は雨と光の近くにおるのじゃ! 影が苦手な雨にも良いところがあるのじゃ!
ぼっぼっ!
「はい。ですから、今はお休みください」
――うむ。ニーノの言う通りである。眠るがよい。
「お影さまは夜更かし……朝更かししてますよ!」
睡眠サイクルから見たら、お影さまはもう寝てる時間。
べ、ぼ!
お影さまは今初めてお日さまを発見したみたいに羽を広げる。
ぶー!
一声鳴くと、お影さまは船の影でくるりと身を丸めた。
*
朝ごはんを食べた後、カウが船の扉まで呼びに来た。
「朝だな。アミョーを見に来るか? 暇だろ?」
「おはよーございます、カウ! 暇じゃないですけど、行きますよ」
しばらく空を飛んだから、水や食べ物探し、船の点検、掃除。
やることはたくさん。
でも、アミョーはいちばん気になる。
「俺は船の様子を見てから行きます。お屑さまの腕輪をもう一つ作りたいし」
「お屑さまは気にしてねーみたいだけど」
カウの頭の上で、長お屑さまはみょんみょんしてる。
――わしはいつまでここに留まるか分からぬゆえ、腕輪はいらんのじゃ!
――わしは童の案内があるのじゃ! 腕輪は便利なのじゃ!
「おくずさま、ありがとうございます」
両手を上げてアピールすると、お屑さまがぴこんっと伸び上がる。
――そうじゃ! 童は深く感謝するのじゃ!
「エーヴェは深く感謝してますよ!」
カウが長お屑さまを見上げる。
「お屑さまは面白えから、ずっといてもいーよ」
――ぽ! わしは偉大ゆえ、皆に招かれるのじゃ! 仕方のないことなのじゃ!
「頭の上だと、アミョーに乗るときが不安だな」
カウはブツブツ言ってるけど、お屑さまと長お屑さまは大得意でぴこんぴこん、みょんみょんしてる。
「あたしもアミョー見に行くぜ」
システーナはゆったり笑う。
「おれも」
「お?」
「ナーム!」
カウがぴょんと跳ねた。
振り返ると、ニーノに付き添われてナームが立ってる。
頭のサイズが二倍になっててびっくりした。
……髪を洗ったせいかな?
もじゃもじゃがふわふわになってる。
「もういいのかー?」
「熱があるわけではないから、外に出ても構わない。痛みがひどくなったら連れ戻す」
「おお。じゃあ、ニーノも来ますか」
ニーノが頷いた。
ナームはいろんなところを白い布でぐるぐる巻きにされて、薬のにおいが漂ってる。
カウは嬉しそうに近寄って、ふわふわになったナームの頭を物珍しそうに触った。
「アミョーのふわふわの羽みたいにふわふわになってるな」
ナームは黙ってされるがまま。
「アミョー」
ぼそっと言葉が落ちた。
カウが明るく笑う。
「そうだな! アミョー見に行こうぜ!」
「エーヴェたちも行きます!」
「ついでに水を探しておいてください」
船に残るジュスタがひらひら手を振った。
*
カウに案内された先では、ペードが野原に布を敷いて鞄の中身を干してた。
手に二本の細い棒を持ってる。
……白いから、動物の骨かな?
動きを見ると、編んでるみたい。
「やあ、ナーム。よくなったの?」
「……まだだ」
ナームが答えないのでニーノが口を開く。
「アミョー」
「あ、そっか。長いこと竜さん……さまの上にいたから、アミョーが見えなかったんだ」
「ペードは何をしてますか?」
側にしゃがみ込む。
ペードの掌の中で編み針はすごい速さで動いてて、何が起きてるかよく分からない。
「これは羽布を作るための準備だよ。羽の毛の枠を作るって言ったら分かる?」
「布に枠がありますか」
ペードはもふマントを引き寄せる。
「羽って固い骨みたいなところと、ふわふわなところがある。ふわふわはとっても軽くてあったかい。でも、あんまりふわふわだから簡単にどこかに飛んでっちゃう。それで強い羽」
一枚の羽を振って示す。
風切り羽ってやつだ。
「こういう羽で外枠を作るんだ。だからこの布、等間隔で固いところがある」
「おお。本当です」
最初に触ったときは軽さと暖かさにびっくりしちゃったけど、全体を見ると傘みたいに骨が通ってるところがある。
でも、骨も軽いから全体にはふんわりしたシルエット。
「すごいですね」
「これ編むのがめちゃくちゃ大変なんだよ」
「でも、これができねーとここじゃ暮らせねえ」
カウも隣でしゃがんで、自分の編み棒を取り出し同じように編んで見せた。
「うわー、細けーなー」
――羽と羽が絡まっていくのじゃ! 訳の分からぬことなのじゃ!
システーナが目をしぱしぱさせ、お屑さまはなぜか自分がこんがらがってる。
「……ストスト」
また、ぼそっとナームが呟いた。
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