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5.再会を待つ

 雨でぬれた翼をきらきら光らせながら、船の隣でお影さまは首を垂れてる。


 ぶー……


「はい」


 ぶー!


「はい」


 甲板に立つニーノがお影さまの正面で、また訴えを受け止めてる。

 虹は消えてしまって、日はだいぶ高くなった。


 ――仕方がないのじゃ。虹は消える。


 ぶー……


 ――虹は臆病なのじゃ! そっとしておくのじゃ!


 マナーモードでお影さまが不満を訴えてる。

 せっかく飛んでいったのに、いくら飛んでも近づかなくて、しかも途中で消えてしまった。

 頑張ってきらいな雨の中を飛んだのに、虹に会えなくて残念だったみたい。


「お影さま、虹は消えましたが、いつかまた会うことがあります。別れが惜しければ、再会が嬉しくなります」


 無表情なニーノに、お影さまは首をかしげる。


 ぼ


「はい。必ず会います」

 ――虹は雨と光の近くにおるのじゃ! 影が苦手な雨にも良いところがあるのじゃ!


 ぼっぼっ!


「はい。ですから、今はお休みください」

 ――うむ。ニーノの言う通りである。眠るがよい。

「お影さまは夜更かし……朝更かししてますよ!」


 睡眠サイクルから見たら、お影さまはもう寝てる時間。


 べ、ぼ!


 お影さまは今初めてお日さまを発見したみたいに羽を広げる。


 ぶー!


 一声鳴くと、お影さまは船の影でくるりと身を丸めた。



 朝ごはんを食べた後、カウが船の扉まで呼びに来た。


「朝だな。アミョーを見に来るか? 暇だろ?」

「おはよーございます、カウ! 暇じゃないですけど、行きますよ」


 しばらく空を飛んだから、水や食べ物探し、船の点検、掃除。

 やることはたくさん。

 でも、アミョーはいちばん気になる。


「俺は船の様子を見てから行きます。お屑さまの腕輪をもう一つ作りたいし」

「お屑さまは気にしてねーみたいだけど」


 カウの頭の上で、長お屑さまはみょんみょんしてる。


 ――わしはいつまでここに留まるか分からぬゆえ、腕輪はいらんのじゃ!

 ――わしは(わつぱ)の案内があるのじゃ! 腕輪は便利なのじゃ!

「おくずさま、ありがとうございます」


 両手を上げてアピールすると、お屑さまがぴこんっと伸び上がる。


 ――そうじゃ! 童は深く感謝するのじゃ!

「エーヴェは深く感謝してますよ!」


 カウが長お屑さまを見上げる。


「お屑さまは面白えから、ずっといてもいーよ」

 ――ぽ! わしは偉大ゆえ、皆に招かれるのじゃ! 仕方のないことなのじゃ!

「頭の上だと、アミョーに乗るときが不安だな」


 カウはブツブツ言ってるけど、お屑さまと長お屑さまは大得意でぴこんぴこん、みょんみょんしてる。


「あたしもアミョー見に行くぜ」


 システーナはゆったり笑う。


「おれも」

「お?」

「ナーム!」


 カウがぴょんと跳ねた。

 振り返ると、ニーノに付き添われてナームが立ってる。

 頭のサイズが二倍になっててびっくりした。

 ……髪を洗ったせいかな?

 もじゃもじゃがふわふわになってる。


「もういいのかー?」

「熱があるわけではないから、外に出ても構わない。痛みがひどくなったら連れ戻す」

「おお。じゃあ、ニーノも来ますか」


 ニーノが頷いた。

 ナームはいろんなところを白い布でぐるぐる巻きにされて、薬のにおいが漂ってる。

 カウは嬉しそうに近寄って、ふわふわになったナームの頭を物珍しそうに触った。


「アミョーのふわふわの羽みたいにふわふわになってるな」


 ナームは黙ってされるがまま。


「アミョー」


 ぼそっと言葉が落ちた。

 カウが明るく笑う。


「そうだな! アミョー見に行こうぜ!」

「エーヴェたちも行きます!」

「ついでに水を探しておいてください」


 船に残るジュスタがひらひら手を振った。



 カウに案内された先では、ペードが野原に布を敷いて鞄の中身を干してた。

 手に二本の細い棒を持ってる。

 ……白いから、動物の骨かな?

 動きを見ると、編んでるみたい。


「やあ、ナーム。よくなったの?」

「……まだだ」


 ナームが答えないのでニーノが口を開く。


「アミョー」

「あ、そっか。長いこと竜さん……さまの上にいたから、アミョーが見えなかったんだ」

「ペードは何をしてますか?」


 側にしゃがみ込む。

 ペードの掌の中で編み針はすごい速さで動いてて、何が起きてるかよく分からない。


「これは羽布を作るための準備だよ。羽の毛の枠を作るって言ったら分かる?」

「布に枠がありますか」


 ペードはもふマントを引き寄せる。


「羽って固い骨みたいなところと、ふわふわなところがある。ふわふわはとっても軽くてあったかい。でも、あんまりふわふわだから簡単にどこかに飛んでっちゃう。それで強い羽」


 一枚の羽を振って示す。

 風切り羽ってやつだ。


「こういう羽で外枠を作るんだ。だからこの布、等間隔で固いところがある」

「おお。本当です」


 最初に触ったときは軽さと暖かさにびっくりしちゃったけど、全体を見ると傘みたいに骨が通ってるところがある。

 でも、骨も軽いから全体にはふんわりしたシルエット。


「すごいですね」

「これ編むのがめちゃくちゃ大変なんだよ」

「でも、これができねーとここじゃ暮らせねえ」


 カウも隣でしゃがんで、自分の編み棒を取り出し同じように編んで見せた。


「うわー、細けーなー」

 ――羽と羽が絡まっていくのじゃ! 訳の分からぬことなのじゃ!


 システーナが目をしぱしぱさせ、お屑さまはなぜか自分がこんがらがってる。


「……ストスト」


 また、ぼそっとナームが呟いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ぶー!ってニーノに不満を訴えるお影さまがかわいい! ぶーのトーンで何を訴えてるかなんとなくわかるようになってきた気がします。 ぼ、嬉しかったり、誰かに話しかけたりするときに使ってる感じかな。…
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