3.マレンポーはめずらしい
ジュスタは台所に行ったついでに、そのまま夕食の準備を始めたみたい。
「ところで、これは皆、着けているのか」
ジュスタの手伝いに行くかそわそわしたところで、ニーノが白い物を取り出した。
緩やかに弧を描く、白くて薄い何か。
「げー! それ、ナームのやつ?」
「許可を得て、借りてきた」
「あー、この人、あれだ。マレンポーと同じで配慮とかしないタイプだ」
ペードとカウがなんとも言えない顔をしてる。
「え? 何ですか? これ、初めて見ましたよ」
――わしも初めて見たのじゃ! しかし、なにやら見覚えがあるのじゃ!
だいたいニーノの掌と同じサイズ。
内側はつるつるして見える。
「あっはは! お屑さまもご覧になってないでしょうね。これは排泄物を後ろに出すために股の間にはさんでおく物ですよ」
マレンポーが椅子から立って後ろを向く。もふマントをたくし上げると、お尻を見せてくれた。
下半身は頑丈そうなブーツとズボンでがっちり固めてある。腰の所は上着がアヒルの尻尾みたいに跳ね上がってた。
「わ! お尻に穴が開いてます」
ちらっとお尻が見えて、びっくり。
「長距離を走るときは用を足すために止まるわけにはいかないでしょう? だから、アミョーたちみたいに、後ろに向けてウンコやおしっこを出せるととってもいいですよね!」
「おお」
――うむ! とっても面白いのじゃ!
マレンポーはちょっと珍しい。
「……男性の場合、この形状とあっていないようだ」
「そうなんです! そこが問題なんですよね。おしっこやウンコがすぐにはがれるのがこの素材しかなくて、男性の形状に合う物が作れないんですよ。カウは蒸れたりしてませんか?」
「え! いや……俺は、ま、だいじょぶ」
きらきらマレンポーに言われて、カウが口の中で答えてる。
「もしかして、ナームの病気ってこれのせい?」
「いや。一部、これが原因の炎症はあったが、複数の要因がある」
「うーん。確かに衛生上の問題はあるのかなぁ。よく滑り落ちてくれるんですけどね」
「人のウンコって塊だもんな」
システーナは椅子を後ろの足だけで立てて、ゆらゆらしてる。
――鳥の糞は湿り気があり、素早く出せるゆえ、移動に便利なのじゃ!
――鳥は身軽にしておるのじゃ! 糞もあまりためぬのじゃ! ヒトや獣は多くをためるゆえ、出すのに時間がかかるのじゃ!
……お屑さまと長お屑さま、ウンコにも詳しいです。
でも、アミョーに乗ったまま、おしっこやウンコができるのはすごい発明。
「エーヴェもちょっと使ってみたいです」
「ほんとー?」
マレンポーとペードに、高さが違う声で聞かれる。
「はい。面白いと思いますよ」
「その服じゃ難しいけど、なにか余り布ありますかね? ちゃんとエーヴェさんに合った物を作らないといけませんよ」
「材料はありますか?」
「今はないです」
「おお……」
ちょっとがっかりしたけど、マレンポーはにこにこする。
「エーヴェさんはとてもタイミングがいいんですよ! 材料はこれからたくさんできますから!」
「できますか?」
お屑さまがぴこんっと伸び上がった。
――そうじゃ! 分かったのじゃ!
――アミョーの卵の殻なのじゃ!
――わしが言うところなのじゃ! 見覚えがあったのじゃ!
「卵!」
白くて薄い、弧を描いてるこの形。
鶏より何倍も大きいけど、卵の殻だ!
「長期間アミョーに乗らないときは外しておいたほうがいいだろう。可能ならば、複数作って短期間のうちに交換することだ」
ニーノが何事もなかったみたいにアドバイスしてる。
「そうか。たくさん作ればいいんですね。なかなか作業に時間がかかって……」
「何か作る相談ですか?」
ジュスタが台所から顔を出した。
鼻に触れるにおいに気がつく。
「あ、ご飯できましたか?」
「うん。みんなに配るの手伝ってくれるかい?」
「はい!」
椅子から飛び降りて、ジュスタの側に行き、器を受け取る。
船の狭いテーブルにたくさんの器が並んだ。
トウモロコシ粉のクレープに甘辛ソースとナッツが巻かれて、刻んだ干し野菜入りスープ。
……豪華です!
「えー! お前たち移動してるのに、こんなもん食ってんのか! すげー!」
「わー! 甘いのとからいのと香ばしいのがあるー!」
カウはペードは大喜び。
「おお、栽培の気配を感じます! お山さまの座では畑を作っているんですか? いやあ、わたしたちにはできないご飯ですねー!」
やっぱりマレンポーは珍しい。
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