7.光のひだ
ちょっと短めです。
一生懸命、走る。
蒸気が噴き出してる所を抜けてて良かった。
吸いこむ空気はややくさい。でも、地面が見えるから、赤いマグマの裂け目をぴょいっと飛び越えられる。
「りゅーさまー! りゅーさま、どこですかー?」
お影さまの大きな影はのしのしテンポでずんずん迫ってくる。
「りゅーさまー! エーヴェですよー!」
できるだけ大きな声で竜さまを呼んだ。
ヴおぉぉおー――
お影さまの吠え声が返ってくる。
「わー! 大変なことですよ!」
なんで追いかけるんだろう? 食べられる? でも、お影さまは影だから、食べられないかな? 初めて会ったら、あいさつですよ! どうしてお影さまはおしゃべりしないんだろう?
頭の中に疑問がいっぱい。
「うぎゃ!」
柔らかい地面に足を取られて、またこけた。
「うー……」
悲しくなってくる。
――エーヴェ、どこじゃ?
「おお!」
響いた声に、ぱっと顔を上げた。
揺るぎないこの声は、竜さまだ!
「りゅーさま! エーヴェ、ここですよ!」
立ち上がって、手を振る。
私が探す前に、白銀の光が目の前に揺れた。
ゆらゆら揺れる光のひだから、竜さまの首がぬうと現れる。
――うむ。ここにおったか。
ひだはいつの間にか白いたてがみになって、竜さまの首で揺れてる。
全力で駆けつけて、胸元にえいやっと飛びついた。
「りゅーさま! 大変です! お影さまです!」
竜さまは首を折り曲げて、胸元をのぞき込んでる。
――おかげさまとは何じゃ?
おお、そうだ。お影さまは、あだ名です。
「そこですよ!」
振り返って、ぎょっとした。
「なんと! 誰もいません!」
さっきまで追いかけてきてたシャドウドラゴンが、跡形もなく消えてた。
竜さまの胸から離れて、あっちこっちキョロキョロ見回す。
――誰か、おったのか?
側に寄ってきた竜さまを見上げる。
「影の! 竜さまでしたよ! 影だけですから、エーヴェ、お影さまかなと思いました! でも、全然お話ししてくれなくて、ぶおーって吠えながら、エーヴェを追いかけてきましたよ! 大変なことでした!」
身振り手振りで説明する。
竜さまの目が橙色に輝いて、高く首を持ち上げる。
白銀のたてがみがキラキラ輝いた。
――竜の気配はない。ここに竜はおらぬ。
しばらくして、竜さまが言った。
「ええー!」
竜さまの言うことに間違いはないけど、竜さまがいないなんて!
「でも、いましたよ! 影の竜さまでした! とっても大きかったですよ!」
竜さまは鼻をうごめかせる。
――うむ。しかし、今はおらぬ。戻るぞ。何やらここは腹の空く匂いがする。
竜さまが目を細めた。
腹が空く?
「りゅーさま、ここ、いいにおいですか?」
腐ったような匂いだけど、竜さまはこういう匂いがおいしそうだと思うのかな。
――うむ。しかし、まどろみどきに食べる物はない。戻るぞ。
竜さまにくわえられて、背中に乗せてもらった。竜さまが羽を広げる。
ふわーっと竜さまのたてがみが光った。
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