21.おかげさま、学ぶ
お影さまが吐いた火が、地馳さまの顔に当たった。
ヴァアア……
とっても重いアコーディオンを引くみたいな音が、地馳さまから響いてくる。
また、お影さまが顎を引いた。
「わー――シスー!」
こっちはこっちで、近くなる地面に思わず声が出る。
システーナは背を丸くして、両手両足で地面に着地……、また宙に跳ね上がった。
「おおー!」
地馳さまの額から飛び出したときと違って、余裕があるジャンプだ。
びゅう、と風を切る音を立てて、竜さまが隣を通り過ぎた。
「りゅーさまー」
――うむ。よく逃げた。
システーナは宙返りをして、お影さまのほうを見る。
……頭に血が上ります。
「ひょー――う、お影さま、ケンカしてるぜー」
「なんでケンカしますか!」
――おびえて気を奮わすは、悪くはない。
竜さまは地馳さまとは違う方向へ羽を揺らす。
そっちには、いろんなヒトにしがみつかれたお骨さまが傾きながら飛んでた。
――友ー。
――友よ、あちらに降りるとよい。
マレンポーたちが何か言ってるけど、聞こえない。
――ぽ! また火を吐いたのじゃ! 影は頑張るのじゃ!
システーナの腕では、お屑さまが高みの見物。
お影さまは地馳さまの頭の周りを飛び回って、隙あらば火を浴びせてる。
大きさ的には、イグアナとアゲハチョウくらいかな。
「地馳さま、大丈夫ですか?」
何回も火を当てられて、地馳さまは気の毒だ。
――待て。地馳。本気を出すでない。
竜さまの声が聞こえる。
地馳さまの背中が何カ所か、まばゆく輝いた。
たぶん、放熱ポイント。
背後から風が、地馳さまのほうへどっとなだれ込む。
光の線が、お影さま目がけて何本も走った。
……レーザー?!
慌てたお影さまは、うねるように飛ぶ。
ぶー!
空中で四本は躱したけど、最後の一本が尻尾に当たった。
背中がぞぞっと粟立つ。
「お影さまー!」
ぶー! ぶー!
一瞬、羽の動きが止めて、落ちかけたお影さまは、ばたばた羽を動かして竜さまに向かって飛んでくる。
――やれ、仕方のない。痛い目を見て学ぶのじゃ。
――地馳は危ないのじゃ! 影でなければ、尻尾が切れておるのじゃ!
お屑さまはぴこんぴこんする。
「尻尾が切れる!」
……大変なことですよ!
地馳さまは、ずんずん歩きながら首をぶるぶる振るわせた。
体も震えて、腰の辺りから木や草がどさーんどさーんと落ちる。
――おお。ヒナぞ。わし、地馳さま、びっくりぞ。
お影さまは地面に舞い降りた。
システーナも側に飛び降りる。
「お影さまー!」
「大丈夫か?」
お影さまは、振り向いて尻尾の様子を見てる。
ぶー――……
不満そう。
ケガをしてると思うけど、黒いからどうなってるか分からない。
竜さまもすいーっと飛んできて、のしん、と着地した。
――これ! 山、手当てしてやるのじゃ!
「りゅーさま、手当てできますか!」
竜さまはお影さまに鼻面を寄せてから、尻尾を眺める。
――ふむ。この程度ならば、たいしたことはない。ニーノに任せよう。
「じゃあ、ニーノを呼びます!」
「まあ、ニーノなら飛んでくっだろ。……お、ジュスタ、無事だったかー」
「お影さま、大丈夫ですかー?」
体中砂まみれのジュスタが走ってくる。
その向こうから、どしんどしんと地馳さまがまた側に寄ってきた。
――影、悪いぞ。わし、びっくりぞ。痛いか?
ぼ!
お影さまは羽を開いて首を持ち上げる。
……威嚇かな?
――火はびっくりぞ。悪いぞ。
言いながら、地馳さまはそのまま通り過ぎて行った。
お影さまはしばらく同じポーズ。
地馳さまが戻って来ないと分かると、徐々に体の力を抜いて、羽をたたんだ。
……ぶー
竜さまに何か訴えてる。
――急に火を吐いたのは、影が不調法である
尻尾をもう一度眺めて、お影さまは不満そうに鳴いた。
おかげさま、見知らぬものは攻撃しがち。
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