20.寝起き最悪
電車の警笛みたい。
すごい轟音に耳をふさぎたいけど、ギザギザを離すわけにはいかない。
「ふわー……すごい声でしたよ」
声が遠い。頭がクラクラする。
視界の端で、ジュスタがさっと走った。何か拾い上げる。
ふさふさの塊。
「ントゥ!」
「大丈夫か?」
――おお、ントゥがぱったりなのじゃ。
――これ! 地馳! ントゥはエネックなのじゃ! 大きな音は毒なのじゃ!
お屑さまがパタパタしてる。
――エネック? わし、地馳さま、エネックがおるのを知らんぞ。
――急に叫んではうるさいのじゃ!
――おお。嬉しいから叫ぶぞ。叫んだぞ。
「叫ぶほど地馳さまが嬉しいのは、俺たちも嬉しいんですけどね」
ジュスタが苦笑してる。
やっと耳が戻ってきた。
――ントゥ。
ジュスタのほうに顔を向けて、お骨さまは前歯の所で上手にントゥ毛皮をなでる。
ギザギザを這って戻って、ントゥのところに走った。
「ントゥ! 大丈夫ですか?」
ぴくっとントゥの耳の先が跳ねた。
大きな尻尾がうねって、ントゥはジュスタの腕から飛び出す。
ヴァン!
ちょっとよろめいて、また、吠える。
――おお。ントゥ、大丈夫なのじゃ。地馳は嬉しい声なのじゃ。
――わし、地馳さま、嬉しいぞ。エネックは元気か?
ふんふん鼻息を吐いて、ントゥは周りの匂いをかぎまわる。
その内、ぺたっと腰を下ろして、毛づくろいを始めた。
ントゥが動く度、濃い黄色の多角形が飛び出す。でも、だんだん色が薄く、大きな多角形になっていった。
――む! 水玉も来たのじゃ!
地馳さまの鼻先で意気揚々だったペロが、ントゥの近くに来てぴたっと止まる。
毛づくろいで出した舌をそのままで、ントゥも、ぴたっと様子をうかがう。
急にントゥが飛び出し、二人の追いかけっこが始まった。
――よかったのじゃ。ントゥは元気なのじゃ。
お骨さまはきょきょきょきょきょと骨を鳴らす。
よかった。一安心です。
「おー――い!」
振り返るとカウとペード、マレンポーがやってくるところだった。
*
「竜さんの声がしたから、びっくりしました」
最後にたどり着いたマレンポーは、息を切らしてる。
――わし、地馳さま、嬉しいから叫んだぞ。エネックがびっくりぞ。
「びっくりしたの、エネックだけじゃないですよ、竜さん」
「後ろ、見てよ」
ペードとカウが杖で後ろの空を指す。
空の色を映した竜さまと真っ黒な影――お影さまが飛んでる。
「りゅーさまです!」
「なんであんな飛び方してんだろ?」
竜さまはお影さまの前に回り込もうとしてるように見える。
――なんと! 影が起きたのじゃ!
――あやつは地馳のように大きな竜を見るのは初めてなのじゃ! きっと驚いておるのじゃ!
お屑さまと長お屑さまが、二人がかりで教えてくれた。
お骨さまがかたっと首をかしげる。
――ントゥ、帰るのじゃ。地馳、影はびっくりすると火を吐くかもしれんのじゃ。わしは船に戻るのじゃ。
「え!」
ントゥはすぐさまお骨さまの足から頭へと飛び移っていく。
――そうじゃ、そうじゃ! ヒトは疾く去るのじゃ!
「おい、あんたらここから飛び降りられっか?」
「は? なんで急に?」
システーナの怒鳴りに、ペードが片眉を上げる。
――骨よ! 他のヒトも少し乗せてやるのじゃ!
――急ぐのじゃ。水玉も乗るのじゃ。
「カウ! てめーの頭が燃えるとお屑さまがどっか飛んじまっから、お骨さまにしがみつけ」
「げえー!」
「あたしとマレンポーもお願い!」
システーナがさっと背中を向けたので、えいやっと跳び乗る。
――わしは影を止めておるゆえ、すばやく散るのじゃ。
竜さまの声が伝わってきた。
そういうことか!
「ジュスタは自分でなんとかしろよ」
「がんばりまーす」
声だけかけて、システーナはお影さまが来るのと逆の方角へ跳びだした。
ヴおぉぉー――!
久しぶりに聞くお影さまの怒った声。
熱風がここまで押し寄せてきた。
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