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19.鼻先に立つ

 システーナの背中にしがみついたまま、()(はせ)さまの頭に向かう。


「エーヴェ、降りなくていいですか?」

 ――(わつぱ)の足ではまだ無理なのじゃ! シスに任せるがいいのじゃ!


 首はよく曲げるからしわがたくさんで、ぐいぐい左右に動く。

 蛇腹みたいなでこぼこがうねうねして、とても歩けそうにない。

 ジュスタは(かぎ)をでこぼこに上手く引っかけながら進んで行く。


 ――おお。皆が来たのじゃ。


 地馳さまの額の上でお骨さまがこっちを向いた。

 首からだと頭は左右に大きく振られてるように見えるけど、頭の上に立つと案外、安定してるのかな。


「お骨さまー!」


 手を振ると、お骨さまはぱかっと口を開け、うぉほっほをする。


 ――およ。

「わ! お骨さま!」


 横からの勢いに負けて、お骨さまは地馳さまの頭から転げ落ちる。


 ――うぉほっほをすると、落ちるのじゃ。危ないのじゃ。


 あわあわしてるうちに、頭上をすいーっとお骨さまが飛んでいった。

 上手に地馳さまの頭に着地する。


「おお、よかったですよ!」

「お骨さま、飛ぶの上手になったなー」


 確かに、地馳さまの頭から落ちて、地面に衝突する前に舞い上がるなんてすごい。


 ――まったく! 骨はうっかりなのじゃ!


 お屑さまはいつもの調子。


 ――わしは骨ゆえ、うっかりなのじゃ。


 お骨さまはまたぱかっと口を開ける。



 お骨さまの足下までたどり着いて、ようやく降ろしてもらった。

 地馳さまの額。平らで(ゆる)やかに下ってる。

 左右には動くけど、上下の揺れはほとんどない。

 肩や首に比べたら、立ってられる。


「おお、ントゥは元気です」


 ントゥはお骨さまの足の周りを駆けめぐり、ときどきギザギザ辺りに行って、遠くを眺めて戻ってくる。

 ……よく見ると、小さな四角がントゥからたくさん飛び出てるような?


「エーヴェ、見てごらん。ペロだよ」


 肩を叩かれてジュスタが指す方向を見ると、ペロはいつの間にか、地馳さまの鼻先にいた。

 ガラスの鉢が光を反射してる。

 船の()(さき)にいるときみたい。

 こっちでも、ぼんやりうっすら黄色い丸が、ペロの上に浮かんでるように見えた。

 ……もしかして、マレンポーの特性かな?


「ペロ、嬉しそうですね!」

「竜さまには乗れねーもんな」


 ントゥも鼻先に行こうとして、足場が悪いのか行きつ戻りつする。

 お骨さまは慎重にその場で方向転換して、ントゥに合わせて進行方向に首を向けた。

 地馳さまが大きいと言っても、さすがに額はお骨さまには(きゆう)(くつ)だ。


「エーヴェ、地馳さまの目を見てきますよ」


 背中の端のギザギザが、額の端にも(ひさし)みたいに続いてる。

 きっとギザギザの下に目があるはずだ。


「あたしもー」

「俺も行くよ」


 みんなでギザギザのところまで行く。

 急に身を乗り出すのは危ない。腹ばいになって、ずりずり端を目指す。


「おおおー地面です!」


 地馳さまのいかつい頰辺りが見えて、地面が見える。

 船の甲板より高くて、ひやっとした。


「おちび、落っこちんなよー」


 システーナがベルトをにぎってくれた。


 ――なんと! これではわしが地馳の目をのぞけぬのじゃ! シス! 反対の手で握るのじゃ!


「お屑さまはどーせぱたぱたして見えねーぞー」


 お屑さまと言い合いながら、持つ手を変えたらしい。


「結構乗り出しても見えないな」


 ジュスタはお腹辺りまで乗り出してる。

 慎重にずりずり前進した。

 風がずんずん顔に当たる。

 目の周りの段みたいなのが分かる。

 透明できれいなドーム状の線が見えた。

 たぶん、目の一部だけど、ガラスを見てるみたいな気分。


 ――地馳よ! ちょっと上を向くのじゃ! お主の目が見えぬのじゃ!

 ――む? わし、地馳さま。屑がわしを呼ぶぞ。呼んだか?


「おわ!」


 目の周りの段がぐっと沈み、透明なドームの中に(こう)(さい)が見える。

 若草の野原みたいにきれいな黄緑色だ。

 闇の(いつ)(けつ)みたいな(どう)(こう)がぐぐっとすぼまった。


 ――おお? びっくりぞ。わしの目の上、人がおる。おったぞ。


「地馳さまー!」


 手を振る影が、地馳さまの目に映ってる。


「きれいな色ですね」

「地面から見たら、全然分かんねーな」


 ――客、客ぞ。わし、地馳さま、知ったぞ。よく来たぞ。


 そのとき、緩やかに下ってた額が逆の方向に傾いた。


 ――ぽ! 皆、しっかりつかまるのじゃ!


 お屑さまの警告が届いた次の瞬間。


 ばぁあああああああー――――――


 草原中に地馳さまの(かい)(さい)がとどろいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ペロは高いとこから落ちるのと先っぽに行くのが好き、と。覚えました。黄色のまん丸はご満悦の感情っぽいですね。 リラックスモードのときは、どんなのが浮かぶのか、個人的にちょっと興味があります。 …
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