18.背中の上の大冒険
ペードの杖が傾いたら伏せる。まっすぐなら走る。
さっき話した合図を頭の中で繰り返して、そろそろ進む。
蒸気でかすんじゃうから、あまりペードから離れないように気をつけないと。
おでこいっぱいの汗をぬぐった。
ペードの杖が倒れる。
すばやく伏せる。
地馳さまの体の表面には溝があって、ワニの背中のでこぼこみたい。
私が伏せるとすっぽり収まる。
ずわぁー――――――――
滝に似た響きがして、溝の上を白い煙が通り過ぎて行った。
溝の中を這って進む。
白い煙が消えてきたら立ち上がって、ペードを探す。
……あ! ペードの杖、まっすぐです。
せっせと走った。
しばらく、地馳さまは息を吸う時間。
――おお! 童がせっせと走っておるのじゃ! ぽはっ!
お屑さまは高みの見物。
システーナはさっさと先に行っちゃった。
ジュスタは後ろから来てくれてるけど、体が大きいからいい溝を探すのが大変そう。
――地馳の息は真っ白なのじゃ。熱々の真っ白なのじゃ。
――熱い霧なのじゃ! カウは気をつけるのじゃ!
「お屑さまは平気なのー?」
長お屑さまを見上げて、のぞき込んでるのと目が合うと、カウはいーっと顔をゆがめる。
「愚問、愚問ー」
「竜さんたちは人間よりずっと強いですね」
こんな熱い中なのに、マレンポーは緊張してない。
お骨さまも平気だけど、熱いのが来たら今は下を歩いてるントゥを頭で隠してあげてる。
……ペロは骨の下側に隠れてるのかな?
ペードの杖が揺れてる。傾く前の合図だ。
慌てて溝を探す。
ペードの杖が傾いた。
さっと伏せる。
ずわぁー――――――――
熱気と白い霧が通り過ぎて行く。
とどろく音に固くなってると、足に何か当たった。
当たった何かは私をよけて、溝の壁側に移動したみたい。
「なんと」
顔の横にのそのそ現れたのは、ペロ。
声に反応して、ちょっと止まったけど、さっと走り出した。
溝の底を移動してたんだ。
「おお、ペロ、待ってー」
ペロを追いかける。
でも、這って進むのとペロのすささだとすささが速い。
「むー」
相変わらず、ペロはちっとも話を聞きません。
*
「い、今、どこくらいですか?」
やっと地馳さまの呼吸ゾーンを抜けたけど、とても揺れが激しくなってしがみついてないと吹き飛ばされそう。
「もう少しで肩ですよ!」
「ちょっと端に行ったら前肢が見えるよ」
怒鳴り返すマレンポーもペードも地馳さまの体のごつごつにつかまってる。
「これくらいで戻ろうぜー。大変だってー」
カウは長お屑さまの台座が気になってる。
前とか後ろにずれたら、台座が吹き飛ばされそうだもんね。
「おお……、足、見たいですよ」
でも、肩の近くだけあって、常に動いてる上に動きの幅が大きい。
――ここはぐるぐるで歩けないのじゃ。わしは頭まで飛ぶのじゃ。
お骨さまはントゥと一緒に行ってしまった。
実はペロがいちばん揺れに強くて、ずいぶん前に肩を越えてる。
ひらっと隣に人が降りてきた。腕にお屑さまがパタパタしてる。
――童が難渋しておるのじゃ!
「おちび、あたしが背負ってやっから、足、見に行こうぜ」
「シースー!」
……さすがシスですよ!
――ぽはっ! 地馳の前足を見るのじゃ!
「お屑さま、見たことないですか?」
――わしは屑ゆえ、見る前に飛ばされるのじゃ! ぽはっ!
なるほど。
えいやっとシステーナの背中に移る。
「行くぜー」
システーナはすごい握力で地馳さまの背中のゴツゴツをつかんで移動する。
背中の端のとげとげまでは、あっという間。
「ぎゃー! 飛んでますよ!」
揺れる岩壁フリークライミング!
地馳さまが体を揺らすのを見越して手を放して宙に浮いたり、飛んできた土くれを足場にしたり、もう全然人間業じゃない。
「ちゃんと見てっかー、おちび」
システーナがのほほんと言う。
「見てますよ!」
すごい迫力だ。
ちょっとした建物くらいある太い足が前に出され、体を押し出して土を蹴る。
……太さはどれくらいかな?
エレベーターくらいならすっぽり収まりそう。
システーナはどんどん進んで、前肢の付け根に来る。
こんなに大きくてゴツゴツしてても筋肉が動いてるのが分かった。
「エーヴェー、シスさーん!」
「お! ジュスタですよ!」
前肢の上のトゲの所にジュスタがいて、手を振ってる。
「あ、ジュスタはひゅん! を使いました」
「俺も見たくて」
ジュスタは、にーっと歯を見せて笑った。
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