17.自慢の杖
地馳さまの頭に向けて出発。
広々した景色を眺めながら丘の上を歩くイメージだけど、丘が動いてるのが大きな違い。
……すごいことです!
地馳さまの背中は広々。
登って想像したところによると、サーカスの巨大テントみたいな形かな。脇は切り立ってるけど、背中は中心に向かって少し登ってる。
それで、脇と背中が切り替わる辺りは、すごく固くてギザギザになってる。イグアナに似てるけど、大きさが全然違う。
草はほとんどなくなって、ときどき左右に揺れたり、地面(地馳さまの背中です)が持ち上がったりする。
「おっ!」
急に地面が低くなって、両手両足で着地。
川原で大きな岩を跳び移るときの動きだ。
「とにかく手がかりを探りながら歩いてくださいねー」
「こっからもっと揺れるぞ」
カウがべーっと舌を出してる。
……どんな気持ちなのかな?
「あ、マレンポーたち、いい物持ってます」
地馳さまの座の三人はいつの間にか長い杖を手にしてた。
ナームも杖を振ってたっけ。
「そうなんです。とてもいい物ですよ」
「マレンポーの自慢が始まるよ」
ペードが肩をすくめて先に行ってしまった。
「アミョーに乗って移動するので長いものが必要だったんですね。ほら、物を落としたときとか、地面の物を取りたいときとか、いちいち降りたら面倒くさいですから」
マレンポーが杖を振ると、ぐんっと伸びる。
「お? 長くなりましたよ!」
マレンポーがにこにこしながら、杖をにぎって、手を内側に滑らせる。
「おお! 短くなりました!」
「長さを変えられるんですね。でも、長くなったときは先端から何か出てたような?」
ジュスタもやってくる。
「寒いところや急ぐとき、アミョーはお互いの距離がとても近くなるんです。そんな中で長いものを持つと危ないので、短くできるように考えたんですよ。長いものをずっと持つのは疲れますしね。――持ってみますか?」
どうぞ、とマレンポーは短くした杖を渡してくれる。
「おお、ありがとうございます!」
杖は見た目の割には重い。
でも、さっき見た長さを考えると、軽いのかも?
折りたたみ傘の柄の感じで、杖は長くなる。
材質は植物みたいだけど、いままで見たことがないものだ。
「穴が開いてます」
杖は全体、空洞だけど、先端には何かつまってる。
「どおっ!」
急に横に揺れて、倒れそうになった。ジュスタがすかさず支えてくれる。
「助かりました! ジュスタも見てみてください」
「ありがとう」
ジュスタは蜂蜜色の目をキラキラさせて、杖の構造を検分してる。
伸ばしたり、縮めたり、方向をぐるぐる変えて、指でなぞる。
「いちばん先のこれは、何かの皮? 上手く重ねてありますね」
ジュスタが杖を振ると、先から何かが伸びてしなる。
杖だけど、ムチっぽい。
「ははあ、さては、ジュスタさんは物を作る人ですね? いやぁ、集めるのが大変なんですよーそれ。でも、もともとあつらえたみたいにその形なんで、加工はほとんどしなくていいんですけど」
「もともとこんな形? 珍しいですね。……エーヴェ、まだ見るかい?」
「はいはい!」
ジュスタからもう一度受け取って、話題の皮を見る。
形としては四角錐かな。トゲみたいだけど柔らかくて、少し透けてる気もする。
「珍しいです!」
マレンポーに返した。
これ以上は手足を踏ん張らないと歩けない。
地馳さまの座の三人は杖も上手に使いながら、すいすい進んで行く。
――そろそろ熱気が来るのじゃ! 気をつけるのじゃ!
――水玉も上手によけるのじゃ!
突然、長お屑さまとお屑さまがきゅるきゅる、ぴこんぴこんした。
「そうそう。竜さんが走ってるとき、煙が見えましたか? 竜さんは体の脇の六か所から息を吐くんです」
「ほら、白く見えてるぜ」
カウが杖で、長お屑さまが頭で示す方向で、もうっと白い煙が上がった。
蒸気機関車の煙みたいだけど、長く吐き出す感じは独特のリズムです。
「あんなにたくさん息吐いてんのか! すっげーなー!」
システーナがぴょんぴょん跳ねて見物してる。
でも、もう一つ、気になった。
「お屑さま、水玉ですか? ペロですか?」
ペロは竜さまと一緒に花畑にいたんじゃなかったっけ?
――そうじゃ! 水玉じゃ!
――わしの尻尾について来たのじゃ。
後ろからついて来てるお骨さまがわざわざ後ろを向いて、尻尾を見せてくれる。
きらっとガラスの鉢が光ってるのが見えた。
「おお! ペロ、来ましたか!」
――水玉は地馳に興味があるのじゃ!
やっぱりどんな竜さまでも気になるのかな? お影さまからは逃げてたけど。
――地馳は大きいから、どこに行けば会えるかよく分からんのじゃ。
また前に向き直ったお骨さまがぱかっと口を開けた。
お骨さまの言葉は、ときどきとっても難しい。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




