16.かぶり物は偉さのあかし
ご飯を食べ終わったところに、お骨さまがすいーっと戻ってきた。
――ニーノと……誰かを届けたのじゃ。
お骨さまは地馳さまの座のみんなの自己紹介のとき、一緒にいなかったから知らないんだ。
「お骨さま、ありがとうございます!」
「よーし、じゃあ地馳さまの頭のほうに行ってみよーぜ」
システーナが立ち上がる。
カウが顔をしかめた。
「本気かよー? 大変だぜ」
――この辺りは揺れぬゆえ草が生えるのじゃ! 他の場所は揺れるのじゃ!
――じゃが、シスならば平気なのじゃ!
システーナはお屑さまに認められてる。
さすがです。
「せっかくこんなに大きな竜さまの上にいますから、エーヴェ、お顔も見たいです」
「なるほど。じゃあ、行けるところまで行ってみましょう」
マレンポーが言うと、ペードもカウも腰を上げた。
「できるだけ竜さんの背中の中央を進むようにしてね」
「この火はそのままでいいんですか?」
ジュスタが煮炊きした跡を指す。
ほとんど消えてるけど、まだ少しくすぶってる。
「うん、勝手に消えるから大丈夫」
「そこに残っている木の枝も、あと二、三回放熱があったら全部燃えてしまいますよ」
「ほー」
じゃあ、かまどは使い切りなんだ。
「そういえば、地馳さま熱くないですか?」
今更だけど背中で火を燃やして、大丈夫だったのかな?
「竜さんが放つ熱のほうが温度が高いので、この近くならほとんど感じないそうです」
「竜さんは大きいから、こんな小さな火じゃびくともしないんじゃねーの?」
カウがぐぐーっと伸びをしてる。
――地馳とて熱いときは熱いのじゃ!
――しかし、人が使うほどの火では何ほどのこともないのじゃ! 竜の吐く火ならば、少し怯むのじゃ!
お屑さまの口ぶりだと、たき火はおきゅうくらいなのかも。
「そーだ、ジュスタ。お前、お屑さまの止まり木持って歩くの大変じゃねー?」
「そうなんですよね。もともとテーブルに置く用に作った物ですから」
ジュスタは両手で大事に止まり木の台座を支えてる。
揺れが激しくなるのに、手がふさがってたら大変だ。
「前方に行けば行くほど、揺れるようになりますからね。縄があるなら、どこかに結んではどうですか?」
「じゃあ、いい考えがあるよ」
ペードがジュスタからうやうやしくお屑さまの止まり木を受け取る。
そのまま、カウの頭の上に置いた。
素早い動きで、お屑さまの台座部分をカウの頭にくくりつける。
ヘルメットみたいに顎の下に細い紐が来て、できあがり。
「なんで俺なんだよ!」
カウが両手を上げて抗議する。
腕に当たらないように、長お屑さまが体の巻き加減を変えてるのが面白い。
マレンポーが嬉しそうに拍手した。
「カウは小柄だから、お屑さまをあまり見上げずに済みますね」
「そうそう。マレンポーの言う通り」
「俺はお屑さま見えねーじゃん!」
カウが顎を上げると、長お屑さまがひょいっとのぞき込んでくる。
「見えるみたいだね」
カウは不満たっぷりの顔で、顔の向きを戻した。
――カウ、大事ないのじゃ! わしが見えずともわしではないわしを見れば、だいたい同じことなのじゃ! そもそも、わしを頭にいただくとは、たいへんな光栄じゃ!
――そうじゃ! わしを腕を止まらせておるのも大変な栄誉なのじゃ! シスは分かっておらんのじゃ!
「そんなことねーよ。えーよえーよ」
――そうじゃ! 栄誉じゃ!
お屑さまはぴこんぴこんする。
長お屑さまも得意げに幅太くなったり、細くなったりした。
……なんだろう? どこかで見覚えがあるような。
「あ、思い出しました。エーヴェが前いた世界では、昔、偉い人がそういうかぶり物をしてましたよ」
公家がかぶる黒い帯がぴょーんと出てるタイプの烏帽子に似てる。
――むむ? 頭に何かかぶると偉いのかや?
お屑さまがクエスチョンマークになった。
マークなら、長お屑さまは、漫画で言うところの「ちぇー」のぐるぐるにも見える。
「そうじゃないときもありますけど、頭にかぶる物で仕事? を区別したりしましたよ」
「かぶる物や服で職業や社会的な地位を示すのは、人間にはよくあることですね」
マレンポーの前いた世界も同じだったみたい。
――わしはントゥをかぶっておるのじゃ。えらいのじゃ。
お骨さまがばっと羽を広げた。
ントゥはふわふわの尻尾をくねらせる。
「お骨さまは何もかぶんねーでもえれーよ」
システーナが叫んだ。
「竜さまたちはみんな偉いですよ!」
ぴょんぴょん跳ねて、主張した。
――なんと! ヒトは物をかぶらねば偉くなれぬのじゃ! なんとも哀れなのじゃ! ぽはっ! ぽはっ!
お屑さまは大満足でぴこんぴこんする。
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