15.はじめての刺激
マレンポーたちが作ってくれたのは、とろみがあるスープ。
木の実と細かく砕いた干し肉が入ってる。
一人一皿ずつ、配られた。
「いただきまーす」
シンプルな塩味スープ。微かに爽やかな香りがする。
舌に残った干し肉をかむと、ぎゅーっとつまった肉の味がしみ出てくる。
……口の中ですぐぽろぽろになるところが鶏肉っぽいけど、何の肉だろう?
木の実は、松の実やカボチャの種に似てる。
「ぎゃ!」
小さな一つをかんだとき、口の中に強烈な香りが広がった。
「あ、テメロの実をかんだだろ」
カウが意地悪な顔をする。
「テメロの実ってなんですか」
聞きたいけど、口の中が香りでひりひりして、それどころじゃない。
今まで食べたことがない何かだ。
「ああ、言い忘れてました。テメロの実って……これです、これは刺激が強いのでかまないほうがいいですよ」
マレンポーがナイフの先で、器の中から一つの木の実を取り出して見せてくれる。
つるっと丸くて、何の変哲もない。
黄色い麻の実ってところかな。
「夜中、アミョーに乗って走るときに、眠って落ちないように奥歯に仕込んどくんだ」
「うとうとしかけたら、ぐーっとかむの!」
カウが歯をむき出しに、いーっとする。
「とっても効きそうです」
言ったつもりだけど、「うー」しか口から出ない。
辛いともミントとも違う。わさびでもない。
「エーヴェ、大丈夫かい?」
ジュスタが水筒を渡してくれる。
「ああ、そのままスープ飲んで」
ペードがアドバイスをくれた。
受け取った水筒とスープの器を見比べて、スープを飲む。
「……おお! すっきり!」
さっきはシンプルな塩味だと思ったスープが、いろんな味に変わりながら喉を通っていった。後味は、ちょっと甘い。
「しゃべれるようになったね」
「はい! なんだかいろんな味が通り過ぎましたよ、ジュスタ」
……舌がおかしくなったのかな?
「そうなんですよ。テメロの実はものすごい刺激なので、そのあとに単純な味を口にすると、あるはずがない味を舌が感じ取るんですよね」
マレンポーが楽しそうに説明する。
――ぽはっ! また味の話なのじゃ! 人間は味の話が大好きなのじゃ!
――テメロの実はずいぶんと高い山の上にしかないはずなのじゃ! マレンポーはなぜ持っておるのじゃ?
――今取ったわけではないのじゃ! 羽の服の下に隠し持っておったに違いないのじゃ!
「その通りです、お屑さま」
マレンポーは肩掛けカバンの中身をお屑さまに示す。
カバンには小さな袋がたくさん入ってて、整理整頓してある。
道具類は私たちが持ってるのより、ずっと簡素。種類もあんまりないみたい。
「わたしたちは竜さんと一緒にいろんな場所に行きますから、ときどき木の実や草の実なんかを集める時間をもらうんですよ」
「竜さんは止まんないから、何日後って約束して戻ってきてもらうんだ」
「テメロの実はいつも取れるわけじゃないから、エーヴェたちは運が良かったね」
「ほほぅ!」
もう一度、スープの匂いをかいでみる。
最初に微かに感じた香りは、テメロの実の香りだったんだ。
そろそろと口に含む。
……普通の塩味に戻っちゃった。
「いつもアミョーの背中に乗って移動しているわけではないんですね」
「そりゃそうだよ。基本的には夜になったら止まって寝てる。アミョーは夜目が利かないもん」
「あれ? 夜中も走るつってなかった?」
「走らなきゃいけないときもあるんだ」
「アミョーは夜目は利きませんが、鳴き交わしながら走ることで夜も走れるんですよ」
夜中に地馳さまとみゃうみゃう鳴いてるアミョーの大群に出会ったら、ちょっと怖い。
……ダッシュ百鬼夜行かな?
「どんなときに夜も走りますか?」
「いろいろあるけど、やっぱ水だな」
「走る場所の中には乾燥している地域もあって、そういう場所では水の確保がむずかしいんですよ」
ジュスタが「分かります」って顔で頷く。
「竜さんはオアシスや水の湧いている位置が分かります。そこがあと何日で干上がるかもだいたい見当がつくそうです」
「おお!」
「すげー!」
水の場所が分かるのはいいけど、干上がる前に駆けつけるのは大変。
それで、夜中も走ったりするんだな。
もう一口、スープを飲む。
「うーん、エーヴェ悩みます」
「どうしたの?」
「さっきのあるはずがない味は、もう一度食べてみたいです! でも、テメロの実はもうかみたくありません」
「誘惑だねえ」
ペードがふふふっと笑った。
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