12.ナームとからまりお屑さま
新たなお屑さまは今まで一緒にいたお屑さまに比べると、だいぶ大きい。やっぱりペラペラだから、綱とは違って浴衣の帯みたいな感じ。
長さは……うねうねしてて分からない。
――なんじゃ? なにゆえ、童はうぉほっほをしないのじゃ?
「エーヴェ、びっくりしましたよ。うぉっほっほじゃないです」
声も少し低いかもしれない。
お屑さまがからまってるやぶに近づく。
……バラかな?
鋭いトゲがたくさんで、手を入れるのも危ない。
隣に来たニーノもやぶの様子を眺めた。
「お屑さまはいつからこちらに?」
――十日ばかりこうしておるのじゃ! 雪山からの風に流されて、ふわりふわりとしておったら、地馳の砂煙に巻かれて、いつの間にかこの中に招かれておったのじゃ!
「おお……」
「あれ? マレンポーさんの話だと、数日前にお屑さまにお会いしたんですよね?」
ジュスタ、鋭い。
「あくまでナームさんが見つけたのが数日前ですよ。ね、お屑さま?」
――うむ! それまでは、この林の皆と話しておったのじゃ! ナームが来てからはナームとも話しておるのじゃ! しかし、ナームは言葉が少ないのじゃ! マレンポーが半分、分けるのじゃ!
「あっはっは! 言葉を話す量は個人の性質ですから、半分渡すことはできないんですよー。それとも、竜さんはそういうこともできるんですか?」
――竜は皆、必要なだけ話すのじゃ! 不足ないのじゃ! 人間の不自由さとは比較にならないのじゃ!
からまってるお屑さまはぴこんぴこんしないから変な感じ。
「ええー。わたしは竜さんにもっと話して欲しいと常々思ってますけど」
――無礼者め! 地馳は地馳の十分話しておるのじゃ! 足りないと思うのは、マレンポーが足りないからじゃ!
「それがこの世界の考え方ってことですか? なるほどー」
マレンポーは感心してるけど、お屑さまの言う通りなら、ナームもナームの必要なだけ話してる気がします。
「マレンポー、話長いよ」
ペードがまたしゃがんでる。
「そう! そうでした。お客さんを連れてきましたよ、ナームさん」
「ナーム、初めまして! エーヴェはエーヴェです」
ナームのほうを向いてあいさつする。
もじゃもじゃ頭で顔が隠れてるナームは、左の掌を立てて、こちらに向ける。
……あいさつかな?
真似して、左掌を立ててみる。
「来ないで」
「お?」
「……はじめまして。私はニーノ。こちらはジュスタ。何か困りごとが?」
ニーノに無表情に見下ろされて、ナームは掌を引っ込めた。
――おお、そうじゃ、ニーノ! 診てやるのじゃ! ナームは皮の病なのじゃ! ここにおるのも、アミョーに乗れないからなのじゃ! 地馳の付き人がアミョーに乗れずば、ともに走り回れぬのじゃ! 困りごとなのじゃ!
「皮? では、かゆみや痛みがありますか」
「ニーノは医者もできますよ、ナーム」
隣で跳ねたら、にらみつけられた。
「怖いですけどね」
「ニーノさんは医療の心得があるんですか?」
マレンポーが目を丸くする。
――ニーノはヒナの頃から、薬になる物をよく調べておったのじゃ! 今では山の座の鳥たち、獣たちも、ニーノに手当を受けに来るのじゃ! 人間と獣ならばよく治すのじゃ! しかし、少し前に山も手当てしておったのじゃ! 人の分際が、滑稽なのじゃ! ぽはっ!
お屑さまが説明してくれるので、ニーノはナームのほうに近づいていく。
「貴様はジュスタと離れていろ」
ついて行こうとしたら止められた。
……病気のとき、人がたくさん来るのはいやですね。
「はい」
ジュスタのほうに戻って、ペードの隣でしゃがんでみた。
……ずっとこの体勢だと足がしびれそうです。
*
――むむ! こちらなのじゃ! シス、しげみを越えるのじゃー!
賑やかな声と一緒に、空からシステーナが降ってきた。
「あー、やっと見つけたぜ!」
「びっくりしたー!」
「なんで空から降ってくるの?」
カウとペードがシステーナをまじまじ見る。
「シス! おくずさま!」
「わりー、尻尾に降りたら、揺れが激しくてなかなか来れなかったぜー」
――おお! わしではないわしなのじゃ! ぽはっ! なんとも久しぶりなのじゃ!
――わしではないわしじゃ! 直接に互いが目にするのは、八千日をくだらんのじゃ!
システーナの腕で、お屑さまが激しくぴこんぴこんしてる。
やっぱり、嬉しいのかな?
そのまま、すごい勢いで二人のお屑さまが話しはじめた。
システーナの腕輪についたお屑さまは、邸の暮らしから船造りからお影さまの話まで。からまりお屑さまは海から嵐に吸い上げられ、雲の中を飛んで山の近くに降り、谷や洞窟を吹き抜けて、ここまで来た話まで。
お屑さまの話を聞く限り、物事の順序はむちゃくちゃだから、話がいろんなところに飛んでいく。
とてつもないほらばなしを聞いてる気がしてくる。
――童! 口が開いておるのじゃ! なんと、シスやジュスタまで開いておるのじゃ!
――ペードとカウも、邪気が入るのじゃ! 口はぴたりと閉めるのじゃ!
めざといお屑さま二人に怒られて、みんなでぎゅっと口を結んだ。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




