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11.二人目

 ふわふわと草が揺れてる。

 坂道から少し平坦な丘の上にたどり着くと、揺れはずいぶんマシになった。


 みゃう……みゃう……


「お? アミョーの声です」

「何匹か追いかけてきてるみたいだね」


 群れの近くを()(はせ)さまが通って、思わず追いかけてきたアミョーがいるみたい。

 これはきっと、すりこみ(インプリンティング)


「アミョーたちは地馳さまを追いかけるのが好きです」

「ああ。でも、戻っていくね」


 他のアミョーに呼ばれたみたいに戻っていく。

 今は地馳さまと一緒に走らなくていいもんね。


「エーヴェ、ジュスター、こっちー!」


 先に飛び移ったカウとペードが手を振ってる。


「うまく乗れたみたいでよかった」

「こっちにお屑さまがからまってるやぶがあるんだ」

「ナームもいる」


 案内されて地馳さまの背中を歩いた。

 進むにつれて、揺れが小さくなってくる。


「思ったより揺れないんですね」

「当然! 揺れないから林になるんだ」

「とくに竜さんの腰の辺りはほとんど揺れないんだよ」

「ほほう」


 草むらから野原、野原から低い木の茂み、木の茂みの先に細い木が見える。


「あ、ニーノです!」

「マレンポー、まーたしゃべってるよ」


 林の入口辺りで、マレンポーがきらきらを飛ばしてる。

 ニーノは無表情だけど、ときどき何か答えてるみたい。


「エーヴェさん、ジュスタさん、ご無事で何よりです!」


 マレンポーが歓迎してくれるけど、その手前にある物が気になった。


「お? なんだかあったかいですよ?」

「そこから熱が出てるみたいだね」


 マレンポーとニーノの前は草がなくて、うっすら光ってる。


「これは何ですか?」

「触っちゃだめですよ! これは竜さんの放熱ポイントです。背中に何カ所かあるんですよ」

「ほーねつ!」


 繰り返した瞬間、地面――じゃなくて、地馳さまの背中から、炎の中心みたいな輝きがあふれた。

 体の前半分が暖まってる。


「火みたいです!」

「俺たちにとっては火と同じ。寒いところに行ったら、この近くで寝るんだ」

「アミョーたちは平気なんだけど、人間は弱いよね」


 カウとペードはいつの間にかしゃがみ込んでる。

 しゃがむほうが二人には楽なスタイルなのかも。


「そういえば、シスさんは?」

「お屑さまもいない」


 他は全員そろってるのに、システーナとお屑さまがいない。


「システーナは最後に()んだはずだ」

「あれれ? 竜さまに乗れなかったんですか? 竜さん、お屑さまとシステーナさん、乗りましたか?」


 マレンポーが大声を放つ。


 ――む? わし、地馳さま、気がつかない。でも、屑、屑を探す。探すぞ。


 地馳さまは大きいから、システーナが跳び乗ったくらいじゃ感じないのかな。


 ――地馳よ。シスはお主の尾につかまった。大事ない。

「あ! りゅーさま!」

「乗れたならよかった」


 遠くから竜さまが教えてくれた。


 ――山。わし、知る。知ったぞ。


 地馳さまはどしどし進む。

 船や竜さま、お影さまが離れて行く。

 竜さまの首が動いてるから、ずっとこちらを見てくれてるみたい。

 嬉しくてにこにこする。

 地馳さまが通り過ぎてざわざわするアミョーの群れも、だんだん遠くなった。


「システーナはおそらく、もう一人のお屑さまのところに直接向かいます。私たちも向かいましょう」

「そうですね。ここにいても暑くなるばかりですからね」


 マレンポーは(ひたい)の汗をぬぐって、林へ踏みこんだ。



 林の木は高くても四メートルくらい。針葉樹は、あっても私の背より小さい子どもの木だけ。

 どの木も枝が多くて、ちょっと頼りない雰囲気。


「おお! 木の向こうの景色が動きます! とっても不思議」


 枝の向こうに見える花畑や遠い山脈が、どんどん流れていく。


「竜さんの上なんだぜ。当たり前じゃん」

「エーヴェは動く林なんて初めて見ましたよ!」


 自分が走って景色が変わるのと、林ごと動いて景色が変わるのとはわけが違う。力説すると、カウが口の端をむずむずさせた。


「地馳さまは林を運べるほどに大きい。素晴らしいことです」

「本当にいろんな竜さまがいるんですね」


 カウの鼻の穴が大きくなって、口がもっとむずむずしてる。

 何が飛び出すのか待ってみたけど、表情が急に切り替わった。


「そういや、さっきジュスタが木の枝を飛び移るみたいなこと言ってたけど」

「そうですよ。ジュスタは身軽」


 しゅばしゅばっと両手を動かして、飛び移る動きを見せる。


「そんなでっけー木があるんだ?」

「あります! りゅーさまの座はとっても涼しくて暑くて、水が冷たくて、いいにおいがして、木がいっぱいですよ!」

「へー、すごーい」

「森じゃん!」


 ふっふーんと胸を反らす。


 ――むむ? この声は聞いたことがあるのじゃ! (わつぱ)なのじゃ! わしではないわしが会ったのじゃ!


「おお!」


 ……このしゃべり方は!


「おくずさま!」

「ここを抜けたところですよ」


 垂れ落ちる枝をかき分けて抜けると、トゲのある低い木のやぶが現れた。


「あ。来た」


 やぶの前にしゃがんだ人が、ぽそっとこぼす。

 トゲと枝が複雑にからんだ中に、ヘビみたいに長い、黒い帯が巻きこまれてた。

 始まりはどこだろうと、目でたどろうとしたとき。


 ――ニーノに、ジュスタに、エーヴェなのじゃ! やはり来たのじゃ! 二人目のわしに会えるなど、大変な名誉なのじゃ! とっても誇って、喜ぶがよいのじゃ! む? そうじゃ、うぉほっほをするのじゃ! わしは見たことがないのじゃ! 今はぴったりなのじゃ! ぽはっ! ぽはっ!


 ……完全にお屑さまです!

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― 新着の感想 ―
[一言] お屑さまはやっぱりお屑さまでしたね。 二人のお屑さまが揃ってしまったらどんな会話になるか楽しみ半分、誰も口を挟めなくて会話にならないかも、な予感半分で、でもやっぱり楽しみ。 ハモったりするの…
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