10.せーのっ、えい!
みんなで白い岩に登って待つ。
竜さまも側に寄ったけど、跳び乗るつもりはないみたい。
――影がおるゆえ、わしはここで眺めておる。
その気になれば飛んで地馳さまの側に来られるから、竜さまはどっしりだ。
「そろそろ準備して!」
カウがびしっと叫ぶ。
カウの声はちょっと高くてよく響き渡る。
「いつも手がかりにする植物のつるがあるんです。あれをつかんでよじ登るといいですよ。システーナさんはそのままぴょーんと飛び移れそうですけど、どうしますか?」
「跳ぶのが簡単そーだな。おちび、どうする? 連れてってやろっか?」
「お?」
マレンポーを見て、ペードを見る。
「エーヴェ、それ、できそうですか?」
「大丈夫ですよ、エーヴェさん!」
「いちばん難しいのはつるをつかむところだけど、そこ、できる? つかんじゃえば、エーヴェは体が軽いから登れるよ、たぶん」
「おお……じゃあ、やってみますよ」
ぎゅっと口を結んで、胸を反らす。
途端に、頭をわしゃわしゃされた。
「おーおちび、いいぞー」
「手伝いたいけど、俺も上手く飛び移れるか自信ないや」
「なんと! ジュスタは大丈夫です!」
邸では木の枝をつかんで、サルみたいに移動してるもんね。
「そうだね。ありがとう」
「いざとなれば私が拾う」
にっこりしたジュスタの後ろで、ニーノが冷たく言った。
*
ずん、ずん、ずん
音が近づいてくる。
走ってるのは地馳さまだけで、しかもスピードがゆったりだから地響きもだいぶ静か。
最初は何百羽もいるアミョーも一緒で、音が重なってすごかった。大地ドラムロールです。
「竜さーん、こっちですー!」
――知った。知ったぞ。
べろっと舌をひらめかせながら、大きな地馳さまが近づいてくる。
速度をどんどん落としてくれる。
体に対して小さな目が、一瞬、こっちを見た気がした。
力強い前肢が、どしんと地を踏みしめる。胴体が目の前を通り過ぎる。
「おおー――!」
自転車くらいのスピードかな?
ごつごつした体から砂を散ってるのが見える。
だんだん、まばらに背中に生えた草が見えはじめた。
「だいたい五か所、つるが垂れてます」
地響きに消えないように、マレンポーが声を張る。
地馳さまの座の三人がしゃがんでるのに気がついて、合わせてしゃがんだ。
「一か所目、カウさん、行って」
「おい来た!」
しゃがんだ姿勢から駆け出して、カウがふわっと地馳さまの体まで跳ぶ。
「ペードさん!」
カウがつるにつかまるのを確認する前に合図が出た。
ペードも跳びだす。
「次のつるが長いので、エーヴェさんとジュスタさんが跳んでください」
「――はい!」
ジュスタも頷く。
マレンポーが後肢のほうを指す。
「見えますか? 横に張り出した木の下から垂れています」
「ああ、見えます。エーヴェ、分かる?」
目をこらす。
なびいてる細いつる――船のロープより細く見える。
「見えました!」
「よし、エーヴェから行こう」
「はい!」
「跳ぶのは、こっちです」
マレンポーが示す方向に体を向ける。
……うわー! どきどきしてます!
指の先まで血がいっぱい流れてる。
「はい、行って」
岩の端まで助走をつけてから、踏み出す。
ちょっと早かった気がしたけど、地馳さまが進んでるから、つるのほうが近づいてくる。
……う、う。
方向はぴったり。でも、ジャンプが届かない。
闇雲に足を動かす。
空を足が蹴った。
かろうじて、指がつるに届いて、慌てて握りこむ。
ほっとしたけど、すぐに吹き飛ばされそう。
「エーヴェ、うまい!」
間近から声がした。すぐ真上にジュスタがいた。
「俺はうまくつかめなくて、生えてた草をむしりちゃったよ」
握ったものの振り落とされそうになった腕を支えて、両手につるをにぎらせてくれた。
「お、お、お、お!」
砂煙の中でつるで揺れながら、地馳さまにくっついてる。
これは、ミノムシ気分。
「登って行けそうかい?」
少し上で揺れながら、ジュスタが怒鳴る。
「やってみます!」
怒鳴り返して、つるに足をからませた。
くねくね曲がるロープに比べると、つるはしっかりしてて登りやすい。
途中でジュスタが先を譲ってくれて、横に張り出した木にたどり着いた。
ここからは地馳さまの背中側で、坂道だからだいぶ安心。
「まだまだ揺れますよ」
隣にやって来たジュスタに声をかける。
「草や地馳さまの皮のごつごつしたところを手がかりに登っていこう」
「はい、登ります!」
草むらの根元やもっと上から垂れてるつるを手がかりに、揺れる丘を――ときどき弾んみながら――登っていった。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




