9.肌色グラデーション
地馳さまはアミョーの群れから外れて、北の丘の上をずんずん歩いてる。背中に乗ったお骨さまの白がまぶしい。
「地馳さま、遠くなっちゃいましたね」
「またこっちに来てくれるから大丈夫だよ」
手をかざして地馳さまを眺めてると、ペードが隣に立つ。ペードのつやつや黒い肌は近くで見てもつやつやだ。
「ペードの肌はつやつやできれいですね」
「ん? ふーん? エーヴェの肌はやわそうに見えるよ」
腕を出して、並べてくれた。
見た目は黒曜石だけど触った腕は、柔らかくて熱い。
「肌です!」
「なになに? 俺も!」
カウの褐色の腕も並ぶ。並べる順序を変えるとグラデーション。
「わたしもー」
マレンポーも腕を出す。マレンポーはいちばん肌が白くて、腕までそばかすがある。
――ぽはっ! わしも並ぶのじゃ!
「お屑さまは腕がねーだろ」
システーナも腕を出し、ジュスタも参加する。
色が濃い順に、お屑さま、ペード、カウ、ジュスタ、システーナ、私、マレンポー。腕は出してないけど、そばかすがない分、ニーノがいちばん白っぽい。
マレンポーはうきうきしてる。
「すごいですね。みんな違う」
「おどろさまの座のみんなは、だいたいカウとジュスタくらいの肌ですよ」
「おどろさま?」
――ずっと南におる竜なのじゃ! いつも水の中におるのじゃ! のんびりぼーっとした竜なのじゃ! まったく、泥はいつも寝ておるのとかわらんのじゃ! じゃが、付き人は音が出る道具を作って音を出して遊ぶのじゃ! それから、音に合わせて声を出して歌ったり、踊ったりするのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんしながら、お泥さまと座のことを話す。
「へー、すっげーいい所じゃん」
「お泥さまの座はとってもいい所ですよ!」
「エーヴェたちの座はどんなとこ?」
ペードの質問に、どうやって答えようか考えていると、カウが跳び上がった。
「なんだ、これ? 変なのがいるぞ?」
「お?」
「ああ、ペロです。俺たちの仲間ですよ」
――水玉なのじゃ! 山のゆかりなのじゃ!
アミョーたちが来る前までは花でいっぱいだったペロは、いつの間にかガラスの鉢をかぶってる。
……あ、まだ一輪だけ花を飲み込んだままだ。
「お……、おお? なんか、ペロの上に浮かんでませんか?」
水色っぽい多角形がペロの上にふわふわしてる。
「ホントだ。さっきのマレンポーのあれじゃねーか?」
システーナと一緒に瞬きして、もう一度確かめた。間違いない。
「わあ! この見知らぬ生き物は思考してるんですね! こんなに透明なのに!」
「これ、緊張だろ。マレンポーは騒ぐなよ」
距離を詰めようとするマレンポーをカウが制止する。ペロはちょっと左によけてから、しばらく止まってたけど、すささっと花畑に駆けこんだ。
草が揺れる方向をたどって行くと、竜さまのところに着くみたい。
「すごいですね! あんな生き物がエーヴェさんのところにはいるんですね」
「はい! あと、テーマイとントゥがいますよ」
「テーマイはさっき船に戻ったときに見たな。ペロと一緒で、びっくりして一回船に帰ったみたいだね」
「なんと」
アミョーの群れに驚いたのかな。地馳さまもすごい迫力だったもんね。
そう考えると、今もぐっすり寝てるお影さまはどっしりだ。
「テーマイ? ントゥ?」
ペードが首をかしげた。
「テーマイはディー、ントゥはエネックです」
――エネックはこの近くにもおるのじゃ! お主たちも見たことがあるのじゃ! 砂地に穴を掘る四つ足の獣なのじゃ! よく音が聞こえる耳があるのじゃ!
意気揚々とお屑さまが説明してくれる。
「ディーは?」
「ディーも四つ足ですよ!」
――ディーは臆病な森の獣なのじゃ! 良い蹄を持っておるから、足音がとっても静かなのじゃ! 周りの音を聞くために、いつも耳をあっちこっちに動かすのじゃ! ぽはっ! 山も耳を動かしておるのじゃ!
――うむ。地馳がこちらに向かっておる。飛び乗る準備をしたほうがよかろう。
お屑さまがぴこんっと伸び上がった。
――おお! そうなのじゃ! わしではないが、わしに会うのじゃ!
振り返ると、地馳さまはさっきよりぐんと大きく見えた。
「地馳さまにどうやって乗りますか?」
「いつもはアミョーたちに竜さん――竜さま? の隣を走ってもらって、いいタイミングで飛び移るんだ」
ペードが動きで説明してくれる。
「とっても難しそうですよ」
「竜さまはちょっとゆっくり走ってくれるから、大丈夫」
「いや、準備したほうがいいって!」
ペードの言い分に大声で返して、カウがキョロキョロ辺りを見回す。
「あ、あの岩にしよーぜ、マレンポー! 竜さまに通ってもらおう」
白い大きな岩を指さす。アミョーと同じくらいの高さかな。
「ああ、いいですね。皆さん、あの岩に登って竜さんを待ちましょう」
「楽しくなってきたなー!」
システーナがぴょんぴょん跳び上がる。
そこで、カウが固まった。
「うっわー! たっかー!」
「なんでそんなに跳べるの?」
「もしかして、特性? 特性ですか?」
――そうなのじゃ! シスはよく跳ねるのじゃ!
三人ににかっと笑いながら、システーナはひょーいと岩の上に行ってしまった。お屑さまもパタパタしながら、連れられていく。
「えー! あんなにぴょんぴょんできたら、アミョーに乗らなくていいよ!」
「特性って体が強くなることもあるんですか? はえー!」
「……説明はあとに。今は移動しましょう」
感心してその場に釘付けになってる三人に、ニーノが声をかけた。
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