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5.走り屋

 地馳(ちはせ)さまは止まらない。

 アミョーがくつろぐスペースを確保して、遠巻きにぐるぐると回ってる。

 さっきまでよりゆっくりに見えるから、歩いてるのかな。


「初めまして、地馳さま! エーヴェはエーヴェです!」


 あまり傍には来てくれないので、大きな声であいさつする。


「ニーノと申します」

「システーナだけど、長げーからシスでいーです」

「ジュスタと言います。地馳さま」


 みんな口々にあいさつする。


 ――知ったぞ。わしは地馳さまぞ。

「ちはせさまー!」


 地馳さまの声はずーんと響いてきて迫力がある。


 ――わしは地馳と初めて会ったのじゃ。地馳はとっても走るのじゃ。


 お骨さまは、まだ地馳さまの後ろを走ってる。


 ――おう。初めて。骨が走る。奇妙ぞ。


 べろりべろりと舌をひらめかせながら、地馳さまは後ろのお骨さまを眺めてる。


 ――おお、地馳はびっくりしたか?

 ――びっくりぞ。


 お骨さまがかぱっと口を開ける。跳ねたはずみに空に飛び出して、そのままひらひらと宙を舞った。


 ――おう。骨が飛ぶぞ。奇妙ぞ。


 舌が時々べろり。ほんとにトカゲそっくり。


 ――地馳よ、ずいぶんと大きくなった。すこし草原も運んでおる。


 竜さまがのんびり地馳さまを眺めながら、声をかけた。


 ――友の言う通りじゃ。背中に木が生えておるのじゃ。


 旋回しながら、お骨さまが応じる。


 ――こいつらはいつにか着く。いつにか離れるぞ。


 どしんどしんと一定のリズムで歩きながら、地馳さまはべろりべろりと舌を出す。

 地馳さまの体はうろこがなくて固くて立派な皮だから、しわのところに収まるとうまく種が育つのかもしれない。


 ――地馳はよく走るゆえ、よく着き、よく落とすのじゃ。

 ――山は難しいぞ。


 竜さまは目をパチリとする。


 ――わしは分かるのじゃ。地馳はよき竜なのじゃ。


 お骨さまが上手に地馳さまの上に舞い降りた。

 上にとまられても地馳さまは全然気にせず、どしんどしん歩く。


 ――おう。分かるぞ。地馳さまはよい竜ぞ。


 みゃうみゃうみゃうみゃう


 一斉にアミョーが声を上げた。なぞの幾何学模様も宙を舞った。




「……分かりますか?」


 隣のジュスタにそっと耳打ちする。


「んー、地馳さまがいい竜さまだってことは分かるよ」


 それは分かる。でも、竜さまはみんないい竜さまなので、前から分かってる。


「お屑さまはいつもみてーに『地馳はほにゃほにゃほにゃほにゃ竜なのじゃー!』って言わねーの?」


 システーナが腕でぴこんぴこんしてるお屑さまに聞く。

 お屑さまはあっちこっち見回してたけど、ぴこんっと伸び上がった。


 ――()()()()()()とはなんじゃ! 地馳は地面を走る竜なのじゃ! 長く長く走るのじゃ!

「それは分かっけどー」

「システーナ、口を慎め」


 横からニーノの注意が入った。


 ――地馳の座はとっても広いのじゃ! 地馳は山を走り、谷を走り、野を走るのじゃ! 地馳が駆けた後は草の種が落ち、木の実が落ちるのじゃ! 草原と林ができるのじゃ! 地馳の庇護は広く薄くを覆っておるのじゃ! こんなに広いのは珍しいのじゃ!

「なんと」


 地馳さまが走るのはとてもいいことです。


 ――屑とも似ておる。屑は己を裂いて、世界に散った。

 ――うむ! わしの庇護はこの(せかい)(じゆう)なのじゃ! 偉大なのじゃ!

 ――しかし、庇護は小さい。

 ――当然なのじゃ! わしは屑なのじゃ! 偉大なのじゃ! 地馳は走って庇護をばらまくのじゃ! なかなかやるのじゃ!


 おお、地馳さま、ほめられてます。


 ――なかなかやるのは知らんぞ。


 地馳さまは無表情にどしんどしん歩く。


「地馳さまは走ることがお好きですか」


 ニーノも無表情で聞く。


 ――走るのはよいぞ。眺めが変わるぞ。空気の味が違うぞ。

「では、地馳さまの足を止めるのはお邪魔でしょうか」

「お! そうですよ!」


 会えて嬉しいけど、地馳さまが走る竜さまなら、一緒に走るのがいい気がする。

 ……自転車が必要です!


 ――ぽはっ! 大丈夫なのじゃ! よい位置なのじゃ!


 お屑さまがぴこんぴこんする。


 ――アミョーがヒナを育てるぞ。地馳さまは歩くぞ。

「おお!? ヒナ?」

 ――地馳はアミョーと走る。この時期、アミョーがここでヒナ育てをするゆえ、会いやすかった。


 よい位置で盛り上がってるお屑さまの代わりに、竜さまが説明してくれた。


 ――違う。わし、地馳さまは一人でも走るぞ。

 ――あいさつなのじゃ。

 ――おう。珍しい客ぞ。あいさつぞ。


 お骨さまと地馳さま、会ったばっかりなのに息がぴったり。



「わたしもあいさつします」


 声が聞こえて、花畑側に顔を向ける。

 三羽のアミョーが近づいてくる。

 青っぽいケヅメのある力強い脚が、すごい迫力。


「この世界、人間って本当にいたんだなー」

「わたしたちがいることを考えてみれば、不思議ではない気もします」

「竜さまがたくさんいるほうがびっくりだよ」


 それぞれのアミョーから、声が聞こえる。


 ……アミョーが話してる?


 ぱさっとフードが払われて、顔が見えた。

 アミョーの背に人が乗ってる。アミョーの羽毛でできた服を着てたから、アミョーの一部みたいになってた。


「はじめまして。わたしたち、竜さまの付き人? ってやつです」


 そばかすいっぱいの顔がにっこり笑った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 地馳さまに草原や木が生えてる利点が新鮮。 ずっと走ってるから加護領域がどんどん広がって荒廃した大地に緑が芽吹くのかー!ありがたい竜さまだ。 お山さまである竜さまとまた違って、竜観が広がった気…
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