5.船の上で竜さまと遊ぶこと
昼過ぎからは甲板に出て、竜さまとお骨さまの姿を探して、あっちこっちに走り回った。
竜さまが船の上や船の側を飛んで、わざと甲板から見えないところに潜ってしまう。しばらくして、ひょいっと浮かんでくる。右舷に出たり、左舷に出たり。船首や船尾に出ることもある。姿が見えたら、わーっと走って行く。
「りゅーさまー!」
――うむ。
金の目を細めて、竜さまはまた潜る。
最初はどこから竜さまが出てくるのか、きょろきょろしてた。でも、途中でお骨さまに気がつく。なぜか飛びながら、あっちを見たり、こっちを見たりしてる。
……分かりました!
お骨さまが見てる方向に走っていくと、竜さまが船の下から浮かんできた。
「りゅーさま!」
――ぽはっ! 童、賢いのじゃ!
お屑さまが風にぱたぱたあおられながら、笑ってる。
やっぱり、お骨さまは竜さまを見てました。
――む。エーヴェが気がついておる。友よ、船の下を飛ぶのじゃ。
お骨さまがかこっと頭を傾けてから、わたわた船の下に行ってしまう。
「あー! お骨さまー! ダメですよー」
これでまた、竜さまが出るのを甲板の真ん中で待つことになった。
ぶんぶん首を振り、竜さまの気配を探す。
「お、ニーノ! ニーノ! りゅーさまどっちですか?」
帆の上にニーノの姿を見つけて大声で聞く。ニーノがちらっとこっちを見た。答えを待つ。
……何も聞こえてこない。
「むー! ニーノは冷たいですよ!」
腹立ちまぎれに、その場でずむずむ足踏みした。
走り回ってくたびれて、甲板に寝転ぶ。
「お屑さま、全然雲ありませんよ」
お屑さまは雨が来るって言ってたけど、夕方になっても、青空のまま。
――近づいておるのじゃ! 雨は来るのじゃ! 間もなくじゃ!
うーん、竜さまの「間もなく」は結構先なのかな?
船尾から身を乗り出して、ぴかぴかの空に夕陽が沈むのを眺めたら、船倉に戻る。夜は甲板に出ちゃダメ。うっかり吹き飛んだら大変です。
食堂はいいにおい。夕ご飯は、お昼のスープベースのお粥。つぶつぶ木の実の佃煮みたいなのが付け合わせで、口の中でぷちっと潰れるのが楽しい。ちょっと辛くて、お腹がぽかぽか温まって気持ちがいい。
「よし。寝る前に、顔を洗おうか」
「はい!」
ジュスタと一緒に二層目に行って、樽の水を桶にあけて手足と顔を洗う。体全部を拭けるのは四日に一度だけ。でも、意外と気にならない。前の世界では毎日お風呂に入ってたから不思議だ。思い返すと、子どもの頃はお風呂が大嫌いだった。まだエーヴェはお風呂が気持ちいいと習慣づいてないのかも。
顔と手を拭いてさっぱり。
そこに、ペロが駆け込んできた。
ここで水のおこぼれがもらえるのを覚えたらしい。手足を洗った後の水だけど、気にしない。ペロはいつも透明だから、たぶん汚れは飲みません。
「はい、どーぞー」
水をかけると、みるみる吸いこまれて行く。ちょっと大きくなって、ツボからはみ出る量が多くなった。
「あ!」
ペロが、さっと走り出す。お腹いっぱいでも、速く動けてすごい。
「ジュスタ、おやすみー!」
「おやすみ、エーヴェ」
あいさつをして、部屋に駆け上る。船倉は薄暗くなって、ヒカリゴケの蛍光色が天井をぼんやり照らしてる。寝室はシステーナの隣。狭くて寝台しかない。サンダルを廊下に放り出して、籐で編まれた寝台にはい上がる。天井で、赤い目の竜さまモビールがゆらゆらしてる。
寝台の奥、枕の向こうに窓があって外が見える。はいずり寄ってガラスに顔をくっ付けた。
快晴の空に、たくさんの星が散ってる。竜さまを探す間に何度も星が流れ落ちた。
「お! お骨さま!」
――うむ! いつも通り、忙しない飛び方なのじゃ!
ばたばた羽を動かして、お骨さまが船の横に並ぶ。
お骨さまは骨に羽の布を着けてるからなのか、羽ばたきが多い。
竜さまの飛び方は強く羽を一つ打って少し浮き上がり、だんだん高度が下がっていくから、またバサッと羽ばたく感じ。
お骨さまはずっと羽を動かしてるけど、竜さまが下について飛ぶと、一緒に滑空できる。風の流れができるのかな? 竜さまと一緒だと、お骨さまが嬉しそうに見える。
「あ、りゅーさまです!」
思い出してた光景どおり、竜さまがお骨さまの下に浮かんでくる。大きな竜二人が夜空にぴったり飛んでるのがとっても素敵。
竜さまは青空の下だと真っ青に見えるけど、今星空の中では夜空色になってる。洞では黒っぽく見えてたから、鱗が周りの光を反射するんだな。とすると、夕焼け空のときは赤いんだっけ?
……うーん。思い出せない。
星空の中、竜さまのたてがみだけ煌々と光を放ってて、とってもきれい。白銀の光が風になびいて、お骨さまの顔が下から白くライトアップされてる。
うっふっふー! かっこいい!
いつも窓から竜さまが見えるわけじゃないけど、寝る前に飛ぶ竜さまが見えるのは船の旅の素晴らしいところです。
――むむ! 童! さっさと寝るのじゃ! 大きくなるのが仕事なのじゃ!
一緒に窓をのぞいてたお屑さまが、ぴこんっと伸び上がった。
「おお、そうです! 寝ますよ!」
お屑さまの腕輪を外して、壁にかけた。
「おやすみなさい!」
飛んでるお骨さまと竜さまの姿を目蓋の裏に見ながら、眠りに落ちた。
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