4.砂と幾何学模様
(2024/8/15)3.に少し追記しました。大きくは変わりませんが、気になる方は先にそちらをご確認ください。
地響きが体を震わせる。
どんどん近づいてくる大きなトカゲ。ときどきべろり、べろりと舌を出しながらこっちに走ってくる。
後背には、もうもうと砂塵が舞い上がってる。
――ぽはっ! 地馳なのじゃ! 地馳が走っておるのじゃ!
――すごいのじゃ。いっぱい塵が噴き上がっておるのじゃ。砂漠みたいなのじゃ。
ひょいひょいお骨さまがこっちに来る。
ントゥが花畑を突き抜けて、お骨さまに駆け上っていった。
花いっぱい世界に、だいぶ長くうろたえてたみたい。
「すげえでけーな。竜さまよりでけーぞ」
遠くてもはっきり見える。
もうもうとした砂煙ぶりから、足が強いのかもしれない。
「地面の揺れがすごいです。お影さま、起きないかな?」
振り向いてみたけど、お影さまは安らかに寝てる。
帆をかぶらなくても、昼に寝られるようになったお影さま。成長です。
「雄大だ」
隣にニーノが立つ。
「ニーノは地馳さまに会ったことないですか」
「初めてお会いする」
「そうなんですね、ニーノさん」
「おおー!」
「だーいぶ近づいたな」
システーナが手をかざす。
――いい位置なのじゃ! ここに来るのじゃ!
どどど……
「お! おおー! もしかして、地馳さまだけじゃないですか?」
トカゲの幅より、砂煙の幅のほうが大きく見える。
――うむ! たくさんおるのじゃ!
「たくさんってお屑さまかよ?」
――たくさんは、たくさんなのじゃ。
――わしはたくさんではないのじゃ!
システーナとお屑さまとお骨さまが渦を巻いてる。
「……あれは」
ニーノが呟いた。
「おお! ニーノも見えますか?」
冷たく見下ろしてきたニーノが、軽く頷いた。
砂煙の中に、何か……いろんな物が見える。
こんなの、見たことない。
丸とか三角とか螺旋とかが、砂煙の中から飛び出してくる。どれもぼんやり色が付いてる。黄色や赤系の色が多いけど、ときどき青っぽいのもある。
「あれって、ディーでしょうか?」
――ぽはっ! ディーではないのじゃ! アミョーじゃ!
「あみょー?」
地馳さまもだいぶ分かるようになってきたけど、砂煙の中の影もはっきりしてきた。
たくさんの生き物が走ってる。
……頭と、長い首と、地面を蹴る長い足。
みゃうみゃうみゃう……
賑やかな声が聞こえてくる。
「鳥です!」
――アミョーなのじゃ!
ダチョウに似てる大きな鳥。群れになって大きなトカゲの後ろを走ってる。
「あっははー! すっげー!」
「なるほど。付き人か」
「え!」
そうか。ントゥと同じだ。
地馳さまの付き人はアミョーなんだ。
「わあ! 地馳さまと一緒に走りますか!」
電車みたいな勢いで大きなトカゲが走り込んできた。
――地馳、久方ぶりである。
竜さまが声をかけたけど、地馳さまは通り過ぎる。
「おお……おわー! 大きいです!」
通り過ぎる体は固くてゴツゴツしてるのに、スムーズに動いてる。ぶわっと熱気が吹きつけた。
後肢の上は緑だ。
「草原がくっついてんぞー」
「ちょっと木も生えてますね」
腰の辺りに草原をくっつけた大きなトカゲ。
目の前に、ダチョウに似て、ダチョウより足が強そうな鳥が、ぴょいぴょい飛び込んできた。
「あ。さっきのです」
みゃうみゃうの間に、黄色やオレンジの幾何学模様が浮かんでる。
見えるけど、すぐに消える。向こうが透けて見えるから、色が付いた空気の固まりみたいにも思える。
ぶいぶい振り回される力強い尻尾が通り過ぎると、百羽くらいのアミョーがなだれ込んできた。
みゃうみゃう、みゃうみゃう
花畑が一気に賑やかになる。
たくさんのアミョーが足を止めて首を振ったり、頭の後ろを足でかいたりし始めた。
背が高い。一番大きいシステーナよりちょっと大きいかも。
――地馳! 地馳! 通り過ぎておるのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこん呼びかける。
ぱかっと口を開けて、お骨さまが後ろを追いかけ始めた。
――知ったぞ。戻るぞ。
重い重い鐘の音みたいな声が響いた。
どしんどしんとUターンして、地馳さまが戻ってくる。
――戻った。戻ったぞ。
ぐるぐると花畑の周りを走り出す。どすんどすんと体に響く。
みゃうみゃうと空気も賑やか。
「地馳さまですか?」
――わしが地馳さまぞ。
どしんどしんどしん
地馳さまは止まらない。
――山、骨、屑、……知らんの、船。よく来たぞ。
「お影さまです」
ニーノが補う。
――山、骨、屑、影、船、よく来たぞ。
どしんどしん、みゃうみゃう、どしんどしん。
地馳さまの座、とっても賑やかです。
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