3.花とペロと砂煙の正体
しばらく様子を見てたけど、足下に冷たいのが当たったから視線を落とす。
「おわわ! ペロ!」
走り回ってるペロの中に、花がたくさん踊ってる。
黄色い花に青い花、紫の花にピンクの花。
「ペロ、花をつみましたか!」
「うわー、ずいぶんと賑やかで華やかだ」
いろんな種類の花を体に取り込んで、意気揚々と駆け回る。
ぺっと花を吐きながら。
その向こうでは、まだ興奮状態のテーマイが跳ね回った。
「ペロ! お花を捨てませんよ!」
拾い上げると、全然つぶれてない。
摩訶不思議。
ペロは気にせず、どんどん花を吐いて、どんどん花を取り込む。
よく見ると、同じ花は取り込んでない。
ちゃんと区別してるみたい。
「なんと!」
蜜に寄ってきたハチまでペロの中に入ってる。
琥珀の中のハチみたいに固まって、くるーっと回ってる。
「ペ、ペ、ペロ大丈夫ですか!?」
「待って、エーヴェ! 吐き出されたハチのほうが危ないよ」
「そうです! ハチが怒ります!」
閉じ込められて怒ったハチが、刺すかもしれない。
駆け寄ろうとしたけど、慌てて引き返す。
ジュスタと一緒に息を殺して様子をうかがった。
そこに、影が落ちてきた。
「なんでおちびとジュスタが小さくなってんだ?」
テーマイと一緒に跳ね回ってたシステーナとお屑さま。
視線を追って、ペロを発見する。
「おおー、ペロ、別の生き物みたいだぜ」
――ぽはっ! 花玉なのじゃ! 水玉が花玉なのじゃ!
「あば! 危ないですよ!」
「ハチが! 入ってますよ、シスさん!」
ジュスタが抑え気味に叫ぶ。
「へー? ハチ?」
――うむ! くるーっとしておるのじゃ! 水玉の中でくるーっとするのは大変なのじゃ! 全然動けないのじゃ!
お屑さまもペロに取り込まれたことがある。経験者は語る、です。
「……あ、ハチが出たぜ」
「わ! 危ないですよ!」
花と一緒に、こてっと小さな固まりが草原に吐き出された。
ぶん!
元気な音がして、草むらからハチが飛び出した。
――ハチはびっくりしておるのじゃ! 飛んでいったのじゃ!
お屑さまがぴこんっと伸び上がって見送る。
「……怒ってないですか?」
「……怒ってないみたいだね」
「びっくりしすぎたんじゃねーの?」
ほーっと息を吐いた。
ペロは、知らん顔。意気揚々と花を吐いてる。
*
ふと、お影さまのほうを振り向いた。
草原にめり込んだ黒い小山は、平和に寝てる。側では、ニーノが花畑を眺めてた。
……気のせいかな?
お影さまが不満表明の消音モードになってるかと思ったけど。
「んー?」
システーナが顔を上げた。
「地面が揺れてっぞ」
「地響き――」
地面に手を当ててるジュスタが顎を上げる。
――おお! 来たのじゃ! 来たのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんした。
もうはっきり分かる。
ドドロロドロロ、ドドロロドロロ、ドドロロ……
地面から足を伝わって、ドラムを叩くような音が伝わってくる。
「おわわわわ! すごいですよ!」
花吐きペロで忘れてたけど、さっき見つけた煙がしっかり分かるようになってる。
煙だけじゃない。煙を起こしてる物も見えてる。
「でけー」
「……力強いですね」
嬉しそうなシステーナとぽかんとしたジュスタの声がした。
どしん、どしんと力強く地を踏みしめる音が響く。
すごい。
大きな竜がこっちに走って来る。
……まるで、とっても大きなコモドオオトカゲ。
――地馳である。
竜さまが金色の目をぱちりと瞬いた。
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