2.砂煙
2024/8/13に「1.地馳さまの座」に加筆しています。大きくは変わりませんが、気になる方はそちらを先にご確認下さい。
草原は船の真下に見える。
「おーい、少しゆるめっぞー!」
システーナの怒鳴り声が聞こえた。
青い竜さま印の帆が、ふうわりと丸みを帯びる。
ゆったりゆったり、船の高度が下がりはじめた。
「おおおお! 近づいてきます!」
近づくと、一面の草原じゃないのが分かる。岩やむき出しの地面も混じってる。
たくさんの水が流れて、えぐられた土の色。
……川の跡?
「このまま降りると、草原がけずれます!」
ジュスタが怒鳴って返す。
確かに、このままだと地面にぶつかる。
竜さまの骨でできた船は壊れなくても、地面のほうが傷つく。
「おお、そーだぜ」
――なんと! それはよくないのじゃ! 地馳が怒るのじゃ!
システーナの腕にいるお屑さまの声が聞こえる。
きっとぱたぱたに風にあおられてる。
「地馳さまは怒る竜さまですか!」
どんな竜さまなんだろう?
ガイオサみたいに短気なのかな。
ぷんぷんしてる竜さまを想像して、口がへの字になる。
――山よ、そーっと降ろすのじゃ!
――うむ。やぶさかではない。
竜さまの声が聞こえる。
でも、竜さまは前を飛んだまま。お影さまが上を飛んでるから、動けない。
――わしが影と飛ぶのじゃ。友はそーっと降ろすのじゃ。
お影さまがくるくると回転して飛んでる。
――竜さま、私が支えますので、その隙に抜けて下さい。
――うむ。友、ニーノ、頼む。
すいっと竜さまが抜け出すと、お影さまがきれいに落ち始める。
お骨さまが通り抜けそうになりながら、お影さまの下にもぐり込んだ。ゆるゆると花びらが舞うのと逆のやり方で、お影さまは高く飛ぶ。
きらっと船を影が横切った。
見上げると、竜さまが船の真上にいる。
――では、しずしずと降りるのじゃ。
竜さまが近づいて、船をがっちりつかんだ。
*
どっ……しー――ん
しずしずとはほど遠い地響きを立てて、船は草原に着地した。
同時に鼻をかすめた匂いに、ぴんっと背が伸びる。
「おおー! 土の匂いですよ!」
ケンカ場には硫黄とか乾燥した熱気とかがいっぱいだった。
ここの匂いは、邸の匂いとちょっと似てる。
「おーい、エーヴェ。帆を畳むぞ」
すんすんしてたら、システーナの声がした。
「はい!」
せっかく結び方を覚えたから、活躍しますよ。
システーナがぐいぐい帆を巻き上げる。
ジュスタは舵を操って、船がちゃんと止まるように支柱を準備する。
えいやっと帆柱に飛びついた。
少し先の地面にお影さまが滑りこむ。お骨さまはその横にひょいひょいと上手に着地した。
上から風が降ってくる。
船をつかんでた竜さまも、ふわりと地面に降り立った。
*
「見て見て見て、見てください!」
着陸完了。矢みたいにントゥが駆け出すのを見送って、外に飛び出した。
テーマイが大喜びしてる。小さい頃みたいに、後肢で高々と、ぴょんぴょん跳ね回ってる。
嬉しくなって、一緒にぴょんぴょんする。
「お花ですよ! お花ですよ!」
船の中から草原に出て、びっくりした。
いろんな種類の花が咲き乱れてる。
「おお……ペロ!」
足下をすささっと走って行ったのは、ペロだ。
花の間を駆けめぐってる。ときどき止まって何か考えこんでるみたい。
ントゥがうろうろ花畑の様子を見てる。飛び出したはいいけど、花にびっくりして飛び込んでいけないみたい。
ぶんぶんと音が聞こえた。
羽音だ。
ハチが飛んでる。チョウもいる。
「おっはなばたけー、おっはなばたけー!」
「すごいなー!」
「なんか甘えーにおいすっぞ」
システーナとジュスタも口々に言う。
――位置が良いのじゃ! 位置が良いのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんした。
「おお! じゃあ、地馳さまがいますか」
――うむ。間もなく来る。
「来る?」
ジュスタが首をかしげる。
竜さまが首を持ち上げて、山脈のほうを見た。
一緒にそっちを眺める。
お花畑の先に草原が見えて、砂地が見えて、山裾が見えて……。
目をぎゅっとつむってから、もう一回よく見る。
「煙です」
……確かに、ある。
草原の向こうに一か所、煙みたいにかすんで見えるところがあった。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




