1.地馳さまの座
ちょっと短かいです。
ぎゅっとにぎったロープの先に、帆の空気の重みがのしかかってる。
強い。
力を入れないとと頑張ってるけど、うっかり景色に気が取られる。
広々とした山脈と、手前に草原が見える。
青い山。
草原。
緑の草が生い茂ってる。
飛行機と違って低い空を行く船だから、草原にちゃんと草が生えてるのが見える。
「すごいですよ」
船が向きを変えたのか、ぐいっと違う方向から引っ張られて、甲板でたたらを踏んだ。
「わたた……お?」
他の強い力がロープと体を支えてくれた。
「俺が代わるよ。エーヴェは景色を見ておいで」
ゴーグル越しにジュスタの蜂蜜色の目が見えた。
「はい!」
叫んで、舷側に駆け寄る。
風がとっても強い。
手すりを握りしめて、身を乗り出す。ハーネスが体をがっしり受け止めた。
掌にはしっかりした手袋。
顔には大きなゴーグル。
どっちもジュスタが出発する宵にくれた。
手袋はジュスタが使ってて穴が空いたのを作り直してる。ゴーグルはジュスタやシステーナが使ってるのより小さい。
エーヴェ用です!
山脈をとらえる少しにじんだ視界は、しっかり目を守ってくれてる証拠だ。
これもガラス製。
……竜さまのウンコを残していくの、ジュスタ残念そうだったな。
システーナから聞いて、出発準備で大忙しなのにわざわざ様子を見に行ってた。
「でも、これもここに残って誰かが使うかもしれないから」
自分に言い聞かせてたから、とっても残念だったみたい。
エーヴェたち以外にはたぶんただの白い砂だけど。
いつかお影さまの付き人ができて、その人が使い方に気がついたら……、なんだかすがすがしい。
広い広い、草原。
すがすがしい。
船の飛ぶ先に、青い竜さまがいる。白いたてがみが、真上を飛ぶ黒い竜さまのお腹をなでてる。
……今は昼だから、お影さまは眠ってるはず。
お影さまは羽を広げたままだけど、竜さまがサポートして飛んでるらしい。
ニーノの銀髪も見える。
ニーノのサポートもあります。
――エーヴェなのじゃ。
「お骨さま!」
船の側にお骨さまが浮かんできた。羽の布をつけて、すいすい空を行く。
――エーヴェ、すごいのじゃ。草がこんなにたくさんなのじゃ。
「はい! とってもすごいです」
遠出をするようになって分かったけど、竜の座以外の場所は生き物が少ない。だいたい砂漠か荒れ地。
それなのに、ずっとずっと見晴らす限り草原なんて。
――すごいのじゃ。雲が草原にも、山にもたくさん流れておるのじゃ。砂漠では雲はとっても少ないのじゃ。
「おお!」
確かに、お骨さまと砂漠で遊んでるときに、雲の陰が落ちるのは見たことないかも。
「きっと水があります」
水を飲む生き物も、きっといる。
「竜の座です!」
――そうなのじゃ。地馳の座じゃ!
ぱかっと口を開けると、お骨さまはスピードを上げて竜さまの側に行った。
とうとう着きました。
雨にぬれるのをいやがって引き返そうとするお影さまをなだめ(ニーノが壁を作ってたから、お影さまは全然ぬれてません)、昼に飛ぶのに抗議するお影さま(抗議の「ぶー」は飛んでるときだと聞こえにくいです)をサポートして、八日くらい?
広がる山脈と高原は、まだらに雲の陰が落ち、輝いてる。
地馳さまの座は、草原だ。
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