おまけ.出発準備 ~システーナ~
最後のヒカリゴケに水をあげて満足する。
「おやおや、働き者のおちびがおるぜー」
急に体が持ち上がった。
「おお! シスです!」
もうだいぶ大きくなったと思うのに、システーナは軽々と私を抱える。
強い。
――おお! シスは何をしておったのじゃ?
お屑さまがぴこんっと伸び上がった。
システーナはゆったり、にーっと笑う。
「あたしも働いてたんだぜ。船の内側の底と外側の底を点検した」
「おお! シス、さすが」
「出発だかんなー、準備なんだぜ」
システーナの小脇に抱えられたまま、ジョウロを返しにジュスタの部屋に寄り、そのまま船の外に飛び出した。
「おおー! 明るいですね」
今までヒカリゴケのぼんやりした光を見てたから、夜空が明るく感じる。
――星がたくさんなのじゃ! 今宵は月はお休みなのかや?
お屑さまがぴこんぴこん空を眺めてる。
空にはびっくりするくらいたくさんの星がある。空の端はやっぱり雲があるけど、満天の星そのもの。よく見ると、天の川があるような。
……この星も、どこかの銀河に属してるのかな?
「月は見えません」
「早めに通り過ぎちまったんじゃねーか」
システーナの脇から背中に場所が移って、首を反らして夜空を眺める。
「おちびはいつも寝てっから、この時間に遊ぶのは珍しいだろ」
「おお、そうですね」
あくびが出そうになったけどかみ殺す。
目をぱちぱちした。
「この湖は星がよく映んぜ」
「わ! ホントですよ!」
反り返ってた上半身をシステーナの背中に戻すと、にじんだ視界に湖が飛びこんできた。
――ぽはっ! ぽはっ! 見事なのじゃ! 空にも地面にも星空があるのじゃ!
「わー――い!」
システーナは声を上げながら、湖に飛びこんだ。
*
しばらくシステーナと湖面に浮いたお星さまを壊す遊びをした。
なんと、大変な破壊です。
次はじーっと動かずに、周りの水面にお星さまが戻ってくるのを待った。
……壊すより呼び戻すほうが難しい。
今はぷかーっと浮かんでる。
幽体離脱しないと分かんないけど、きっと星空に浮かんでるはず。
――童! 童の周りが星空なのじゃ!
お屑さまが教えてくれた。
「ふっふっふー! エーヴェ、お星さまと浮かんでます」
得意になってると、お屑さまがぴこんぴこん空を見上げてる。
――ふむ! 空にエーヴェは映らないのじゃ! 映ったら面白いのじゃ!
「おお! 確かにそうです」
……あれ? でも、空は水じゃないから映らないのは当然です。
「きっと映ってっけど小さすぎて見えねーんだろ」
こっちも静かに浮いてるシステーナが言う。
さも当然って感じ。
――むむむ……。人は小さいのじゃ! しかし、竜も映らないのじゃ! まったくおかしなことなのじゃ!
いつも道理を知ってるお屑さまが、おかしなことを言ってるのが面白い。
湖面にあんまりきれいに星が映るから、空と水面とお互いに同じ物が見えないのが変な心地になるんだ。なんだか、とっても不思議な気分。
ぽやーっと眺めてると、たくさん見えてた星がだんだん少なくなってきた。
一つ、また一つと消えていく。
――おお! 空が明るくなってきたのじゃ! お日さまが来るのじゃ!
「おわー!」
夜空が、薄い膜を一枚一枚剝いで、青に向かっていく。
黒は全部の色が入ってる。それがよく分かる。
紫にも群青にも薄い緑にも赤にもピンクにも変わって、白く白く太陽の光が星の光を全部消してしまう。
「朝です!」
すごい! 初めて徹夜しました!
「おちびの寝る時間が来たな」
システーナの背中に乗って、船まで帰る。
船の影にすごすご隠れるお影さまと一緒に、朝におやすみなさいした。
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