おまけ.出発準備 ~ジュスタ~
ニーノがお影さまと飛び回ってる間に、ジュスタは甲板からいなくなってた。
さっきまで、視界の端でロープの強さや結び目を確認してるのが見えてた気がする。
暗くなって、飛んでるお影さまは見えないから、ジュスタが気になってきた。
「ジュスタ、船の中に戻っちゃった?」
――童! シスもおらんのじゃ! む! 船の中に気配があるのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこん教えてくれたので、船内に入る。
「きっと部屋にいますよ」
予想通り。ジュスタの部屋に近づくと、扉の下の隙間から光がもれてた。
「ジュ――もわ!」
名前を呼ぼうとしたけど顔に当たった熱気に押しつぶされたみたいな声になる。
――ぽ! 炉の火が強いのじゃ! 何をしておるのじゃ?
「あ、お屑さま。エーヴェ」
汗だくのジュスタがこっちを振り向いた。大きな鎚をにぎった手の甲で、額をぬぐう。
「緩んだり歪んだりした金具を直してるんです。最近はこの辺りの探検をしてて、ちょっと修理が溜まってました」
真っ赤に焼けた鉄の楔を、ジュスタはがんがん打って整形する。
鎚で打つ度、ちらっと飛ぶ火花がきれい。でも、あっという間に鼻の頭に汗が浮く。
――鉄が火を吐いているのじゃ! ぽはっ! なんとも小さな火なのじゃ!
お屑さまは嬉しそうにぴこんぴこんしてる。
「うーむ。暑いです。鍛冶は大変ですね」
「そうそう。だから横着しちゃった」
ジュスタがにこっと答えてくれる。
「ジュスタは横着しないですよ。暑いのは、みんないやです」
きっと「えいや!」って気分でやってるんだな。
――この程度、大した暑さでないのじゃ!
お屑さまが素早くぴこんぴこんする。
「竜さまたちは暑さが平気ですか?」
お屑さまが汗をかいてるところはみたことない。
――ぽは! この程度は暑いに入らぬのじゃ! 骨ならば、暑いのが大好きなのじゃ!
お骨さまは砂漠住まいですからね。
「おどろさまは水の中にいますから、暑いのきらいですか?」
――うむ! 泥は暑いのが好きではないのじゃ! しかし、この程度、暑いうちに入らぬのじゃ!
……ふーむ。これが暑いに入らなかったら、お泥さまがいやがる暑さはとっても暑いことになる。
竜さまたちはやっぱり暑いのも寒いのも、強いのかもしれません。
「冷やす時間が要るからこれが一番始めの仕事だね。出発までにやらなくちゃいけないことがたくさんある」
蜂蜜色の目で鉄をしっかり見つめながら、ジュスタはつぶやく。
「お? エーヴェ、手伝いますよ!」
ぴょんっと跳び上がってアピールする。
ジュスタは鉄を水につけた。
ちゅん! と高い音がした。
――おお! まるでか細い鳥の声なのじゃ! ちょっと悲しい波なのじゃ!
お屑さまが感想をぴこんぴこんする。
「じゃあ、エーヴェにはヒカリゴケの世話を頼もうかな。枯れてるコケがないか確認して、その竹筒で水をやってきてくれるかい?」
「はい」
竹筒はカタカナのトの字を逆さまにした形で、斜めの方の筒に小さな穴がたくさん空いてる。ジョウロだ。
ジュスタはいつの間にこんな物を作ったのかな?
廊下の下や上の端に、専用の溝を作られて植わってるヒカリゴケたちの様子を見る。
ヒカリゴケのおかげで、まったく光がない船内もぼんやり見通せるから、偉大。
船内のあちこちを駆け回ってヒカリゴケの様子を見たけど、元気がないコケがいたくらいで、枯れてるコケはいなかった。
「ジュスタはいつもヒカリゴケの世話もしてましたよ」
知られざる新事実。
――うむ! ジュスタは細やかな性格なのじゃ!
お屑さまは天井の近くなので、右に左にぴこんぴこんしながら感心してる。
ジュスタは船のメンテナンス係なので、出発間際まで大忙しです。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




