4.くるくる、まっすぐ、ふーわふわ
ントゥが食事を終えて元気に飛び出してきたので、テーマイも一緒にボール遊びをする。籐のボールをあっちに転がし、こっちに転がし。
――とんとん、ちりちり、なのじゃ! ボール遊びなのじゃ!
お屑さまはボールが転がるたびに大喜び。わあわあ応援してくれる。
その内、ペロがツボから鉢に変えてやって来た。鉢のほうがやっぱり走りやすいみたい。
船の二層目の広いスペースで、みんな、とたとた駆け回る。よく見ると、ペロはボールを追いかけるより、ボールを追いかける誰かを追いかけてる。テーマイとントゥの走りがうますぎて、私がいちばんボールに触れないけど、ペロが二人の集中を途切れさせてくれるから、そこがチャンス。
「投げますよー!」
籐のボールをえいやっと遠くに投げると、テーマイとントゥが跳ね上がって走って行く。とっても楽しい。
「エーヴェ、そろそろお昼にするよ」
一層目からジュスタが声をかけてきた。
「はーい!」
ボールを回収して一層目に戻る。ントゥは途中まで一緒に来たけど、ボール遊びをしないのが分かると、ぴょーんと窓へと走って行ってしまった。たぶん、お骨さまを見にいったんだな。
ジュスタのくるくるの髪の毛は、風にあおられてもやっぱりくるくるしてる。食事の用意のために、ジュスタは髪をさっと編んだ。
「ジュスタは髪を編むのも似合います」
「ありがとう。エーヴェは今度、髪を切ろうね」
額をおおってた髪を、ジュスタがひとまとめに頭の上で結んでくれた。
かまどの隣の扉を開ける。むわっと熱が顔に当たった。中には陶器のツボが置かれてて、中には野菜と干しサーラスが詰めてある。オーブンみたいにだんだんツボの中身が熱せられて、蒸し焼きスープのできあがり。新鮮な野菜があれば、水を入れなくてもスープになって、具もとろとろ柔らか。
「エーヴェは食器とパンを出して」
「はい!」
ぴょんぴょん跳ねて、木のスープ椀を出しに行く。朝がトウモロコシ粉だったから、米粉のパンを選ぶ。大きなカゴに乗っけてテーブルに置いた。
ジュスタがツボごとテーブルの上に出した。急な揺れで倒れないように四つ足の陶器にツボをはめる。木の器に注がれたスープから上がる湯気が、いい匂いを運んできた。
「いただきます!」
息を吹きかけてさましてから、スプーンを口に含む。干しサーラスの塩けがスープに移ってておいしい。
「おいしいですね!」
「うん。ちょっと暑いかな?」
笑いながらおでこの汗をぬぐってくれた。ジュスタも額には汗がいっぱい。邸を出てから変わらず暑いけど、動いてるからもっと暑いのかも。でも、あったか塩味スープはすっきりする。ズッキーニみたいな食感の野菜が口の中で溶けた。
パンと交互に口に運んですっかりお腹いっぱい。
「シスさんはまだ寝てるから、ニーノさんと変わるかな。エーヴェはゆっくりするんだよ」
「はい。ジュスタ、行ってらっしゃい!」
おざなりに髪を手ぐしでほどきながら、ジュスタが甲板に向かった。
ほとんど間をおかずにニーノが降りてくる。
ニーノの髪は風にあおられても、何事もないみたいにまっすぐ落ちてる。さらさら銀髪、強い。
「ニーノ、スープあったかいですよ」
冷たい目でこっちを見て、一応頷いた。そのまま食堂を通り過ぎて、台所に入る。しばらくして戻り、スープをよそって席に着いた。
「ニーノ、どうしましたか?」
ニーノは米粉のパンを千切ってスープにひたす。
「そろそろ水が不足する」
「お! 大変です!」
大事に使っても、八日で水は不足するのか。
「この辺りは雨がない。当初の予想どおりだ」
そういえば、砂漠を通ってずっと暑いままだもんね。
「じゃあ、どこかで水をくみますか?」
ニーノが無言で頷く。
――案ずるな! 間もなく雨が降り出すのじゃ! 空も荒れ始めるぞ!
「おお、雨はいいですけど、荒れますか?」
お屑さまは大丈夫のつもりで、大丈夫じゃないことも言ってる。
ニーノはうやうやしく頷いた。
「雨が降るならば、貯めましょう。空が荒れたとしても竜さまがいらっしゃるので、おそらく問題ありません」
「お! 雨を貯めますか?」
どうやって貯めるのかな? 甲板にたくさんたらいを出すのかな? ちょっと楽しみです。
ニーノがご飯を食べるのを待たずに、自分の器を片付けて船の下の層に行く。大きな樽がたくさんで、これ全部に水が入ってる。こんこんと樽をたたいて回った。三分の二くらいの樽が空になってる。
「まだまだありますよ」
ニーノはやっぱり心配性です。
しばらく経つとシステーナが起きてきた。ぐっすりだったのが、髪の毛のあっちゃこっちゃ具合で分かる。
うぐいす色の髪だから、なんだかふわふわの鳥の羽みたい。
「シス、髪ときますよ!」
手ぐしで髪をといて、少しまとまる。
「おお、あんがとー。おちびは頭がぴょこぴょこしてるな」
さっきジュスタが結んだ髪に、システーナの手がじゃれてる。
「ジュスタが切ってくれます。もうすぐ雨が降りますよ、シス」
――うむ! 雨の匂いがするのじゃ!
システーナがぐいーっとのびた。
「雨かー! 雨がひでーと大変かもな。揺れるかもしれないから、おちびは気ぃつけろよ」
また、ぴこぴこじゃれてから、システーナは甲板に向かった。
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