17.やったー!
たぶんまあ、大丈夫だけど、食事のあとに読まれたほうがいいかもしれません。
「おちび、泳げるよな? 竜さまのところに行ってみっか」
ご飯を食べたあと、システーナは大きく伸びて服を脱ぎ始めた。
「おお! ……結構遠いですよ」
……泳げるかな?
「休み休み行きゃあいい」
システーナがいつも腕に巻いてる紐をほどいて、たたんだ服を頭にくくりつける。
「おちびの服も頭に巻こーぜ」
「シスは、一人で泳ぐときにはいつもこうしてますか?」
「服はぬれねーほうがいーだろ」
邸にいたとき、システーナは竜さまの食べる鉱石を一人で取りに出かけてた。だから、一人旅が上手。
「お屑さまは、水の中に入るとうるせーから、頭に付けとくぞ」
たたんだ服とお屑さまの腕輪を頭に乗せて、紐であごにくくりつけられる。
――うるさくなどないのじゃ! 水の中で話すのは不自由なのじゃ!
お屑さまは水の中に入ると、ぼがぼが溺れてるような音を出す。竜さまによると、話すときに息を使ってないから、気分でそんな音を立てるみたい。
「はいはい。――よし、行くぜー!」
二人で湖に飛びこんで竜さまのほうへ泳ぐ。
*
「シースー、なんだかだるいですよ」
ルピタに教えてもらったから泳ぎは得意なのに、しばらくしたらくたびれてきた。
――この湖は熱いゆえ、童はすぐにのぼせるのじゃ!
「あー、なるほどなー。つかまるか?」
システーナの背中につかまるか考えてたら、隣にテーマイが寄ってきた。
……テーマイも竜さまのところに行きたかったのかな?
よく見ると、背中に何かいる。
「わ! ペロがテーマイに乗っかってますよ!」
「あはは! おもしれー!」
ペロはテーマイの肩の上辺りにいるので、私はテーマイの腰の辺りにすがりついた。テーマイの毛が腕やらお腹やらをくすぐって気持ちいい。
「お! ペロは冷たいです」
ひじが当たって発見!
温泉の中にいても、ペロは冷たいなんて、すごい。でも、蒸発防止の鉢をかぶってるから、熱くはなるはず。どういうことだろう?
「じゃあ、テーマイはのぼせねーな」
テーマイは力強く足を動かして、ぐいぐい泳いでる。
システーナもぐいぐい泳ぐ。
――見よ! ケンカ場の周りは今日も嵐なのじゃ! また雷が走ったのじゃ!
お屑さまの声が頭の上からいろんな物を教えてくれた。
しばらく休んで元気になったら泳ぎ、くたびれてきたらテーマイに運んでもらって遠かった竜さまが、だんだん間近になる。
「あー、やった! 竜さま、ウンコしてるぜ」
前を泳いでたシステーナが声を上げる。
「おおー! 本当です!」
竜さまが長い尻尾を持ち上げて、ちょっと腰を低くしてる。お尻から、もりもり白い塊が出てる。
ウンコだ!
「やったー! エーヴェ、竜さまがウンコするとこ初めて見ました!」
「やったー!」
――やったとはなんじゃ! 山が糞をしておるだけなのじゃ!
頭の上から声が響く。
――うむ。ジュスタもわしの糞が好きなのじゃ。
竜さまは糞から離れて、ぶるぶる体を震わせる。
「おくずさま、りゅーさまのウンコはガラスになりますよ! やったー!」
――まったく! 人は何か作るのが好きなのじゃ! 食べぬのに喜ぶのじゃ!
ようやく竜さまがいる岸辺にたどり着き、湖から上がる。竜さまのウンコの回りをシステーナと一緒に飛び跳ねた。テーマイも岸に上がって水を振り飛ばす。ペロは飛ばされて、ぼてんと地面に落ちた。そのまま、竜さまの糞をめぐる輪に加わる。
日陰に寄って、くつろいだ竜さまは目を細めて眠そう。
……もしかしたら、すっきりなのかもしれない。
出たてのウンコは胸くらいの高さで白い。長さは十メートルくらいかな?
鼻を近づけてみると、かすかに硫黄のにおいがする。触ろうか迷ってる間に、ペロがのそのそ登り始めた。
ばが
ペロがとりついた部分が、乾いた音と一緒にはげ落ちる。
「なんと!」
落ちたペロが竜さまの糞を飲みこもうとしたけど、また、ばがっと音がして、白い糞は粉々に砕けた。
「竜さまのウンコがこの形なの、一瞬だかんなー! おもしれーの!」
システーナが糞に両手を突くと、そこから雪に沈むみたいに両手が沈んだ。
ばがん、ばがんと音を立てながら、糞は細かい白いかけらに変わっていく。
「すごいです!」
白い糞の表面は乾いてる。手を突いて、ちょっと押しただけで、すぐにめり込んで砕けた。
「おおおおお!」
……なんだろう? カルメ焼きに似てるかな?
形があるのに、簡単に崩れる。邸の対岸にあった、あの白い砂になる。
面白くなって、どんどん竜さまのウンコを壊し、雪に飛び込むみたいにダイブする。さすがに新雪みたいに柔らかくはないけど、砂浜に倒れこんだみたい。
あっという間に、システーナも私も白い砂まみれになった。
ペロは大きい塊をのみこもうとしては、砕けて、白い砂をぴんぴん吐き出すのを繰り返してる。テーマイはにおいが嫌いだったのか、竜さまの傍で、今は草を探してるみたい。
「お! トカゲが入ってます!」
りゅーさまが間違って食べちゃった生き物。乳白色の石にとらわれてる。
「トカゲってちょっと竜さまたちに似てるよな」
――うむ! トカゲは光栄なのじゃ! しかし、竜はかように小さくないのじゃ!
お屑さまは小さいけど、トカゲよりは十倍くらい大きいもんね。
「りゅーさまのウンコ、持っていきますか?」
すっかり白い砂の山になったウンコを見渡す。
「あージュスタは欲しがるだろーけど、まあ、無理だろ」
――船に乗せるには重いのじゃ!
体がすっかり乾いたので、服を着てお屑さまの腕輪を腕に戻す。
「そーですね、残念です」
竜さまの糞はガラスの原料だから、ジュスタはきっと喜ぶけど。
「でも、エーヴェ、とっても面白かったですよ!」
「ウンコ、やったー!」
「やったー!」
システーナと、また、跳ねまわった。
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