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17.やったー!

たぶんまあ、大丈夫だけど、食事のあとに読まれたほうがいいかもしれません。

「おちび、泳げるよな? 竜さまのところに行ってみっか」

 ご飯を食べたあと、システーナは大きく伸びて服を脱ぎ始めた。

「おお! ……結構遠いですよ」

 ……泳げるかな?

「休み休み行きゃあいい」

 システーナがいつも腕に巻いてる紐をほどいて、たたんだ服を頭にくくりつける。

「おちびの服も頭に巻こーぜ」

「シスは、一人で泳ぐときにはいつもこうしてますか?」

「服はぬれねーほうがいーだろ」

 (やしき)にいたとき、システーナは竜さまの食べる鉱石を一人で取りに出かけてた。だから、一人旅が上手。

「お屑さまは、水の中に入るとうるせーから、頭に付けとくぞ」

 たたんだ服とお屑さまの腕輪を頭に乗せて、紐であごにくくりつけられる。

 ――うるさくなどないのじゃ! 水の中で話すのは不自由なのじゃ!

 お屑さまは水の中に入ると、ぼがぼが溺れてるような音を出す。竜さまによると、話すときに息を使ってないから、気分でそんな音を立てるみたい。

「はいはい。――よし、行くぜー!」

 二人で湖に飛びこんで竜さまのほうへ泳ぐ。



「シースー、なんだかだるいですよ」

 ルピタに教えてもらったから泳ぎは得意なのに、しばらくしたらくたびれてきた。

 ――この湖は熱いゆえ、(わつぱ)はすぐにのぼせるのじゃ!

「あー、なるほどなー。つかまるか?」

 システーナの背中につかまるか考えてたら、隣にテーマイが寄ってきた。

 ……テーマイも竜さまのところに行きたかったのかな?

 よく見ると、背中に何かいる。

「わ! ペロがテーマイに乗っかってますよ!」

「あはは! おもしれー!」

 ペロはテーマイの肩の上辺りにいるので、私はテーマイの腰の辺りにすがりついた。テーマイの毛が腕やらお腹やらをくすぐって気持ちいい。

「お! ペロは冷たいです」

 ひじが当たって発見!

 温泉の中にいても、ペロは冷たいなんて、すごい。でも、蒸発防止の鉢をかぶってるから、熱くはなるはず。どういうことだろう?

「じゃあ、テーマイはのぼせねーな」

 テーマイは力強く足を動かして、ぐいぐい泳いでる。

 システーナもぐいぐい泳ぐ。

 ――見よ! ケンカ場の周りは今日も嵐なのじゃ! また雷が走ったのじゃ!

 お屑さまの声が頭の上からいろんな物を教えてくれた。

 しばらく休んで元気になったら泳ぎ、くたびれてきたらテーマイに運んでもらって遠かった竜さまが、だんだん間近になる。


「あー、やった! 竜さま、ウンコしてるぜ」

 前を泳いでたシステーナが声を上げる。

「おおー! 本当です!」

 竜さまが長い尻尾を持ち上げて、ちょっと腰を低くしてる。お尻から、もりもり白い塊が出てる。

 ウンコだ!

「やったー! エーヴェ、竜さまがウンコするとこ初めて見ました!」

「やったー!」

 ――やったとはなんじゃ! 山が(ふん)をしておるだけなのじゃ!

 頭の上から声が響く。

 ――うむ。ジュスタもわしの糞が好きなのじゃ。

 竜さまは糞から離れて、ぶるぶる体を震わせる。

「おくずさま、りゅーさまのウンコはガラスになりますよ! やったー!」

 ――まったく! 人は何か作るのが好きなのじゃ! 食べぬのに喜ぶのじゃ!

 ようやく竜さまがいる岸辺にたどり着き、湖から上がる。竜さまのウンコの回りをシステーナと一緒に飛び跳ねた。テーマイも岸に上がって水を振り飛ばす。ペロは飛ばされて、ぼてんと地面に落ちた。そのまま、竜さまの糞をめぐる輪に加わる。

 日陰に寄って、くつろいだ竜さまは目を細めて眠そう。

 ……もしかしたら、すっきりなのかもしれない。


 出たてのウンコは胸くらいの高さで白い。長さは十メートルくらいかな?

 鼻を近づけてみると、かすかに硫黄のにおいがする。触ろうか迷ってる間に、ペロがのそのそ登り始めた。


 ばが


 ペロがとりついた部分が、乾いた音と一緒にはげ落ちる。

「なんと!」

 落ちたペロが竜さまの糞を飲みこもうとしたけど、また、ばがっと音がして、白い糞は粉々に砕けた。

「竜さまのウンコがこの形なの、一瞬だかんなー! おもしれーの!」

 システーナが糞に両手を突くと、そこから雪に沈むみたいに両手が沈んだ。

 ばがん、ばがんと音を立てながら、糞は細かい白いかけらに変わっていく。

「すごいです!」

 白い糞の表面は乾いてる。手を突いて、ちょっと押しただけで、すぐにめり込んで砕けた。

「おおおおお!」

 ……なんだろう? カルメ焼きに似てるかな?

 形があるのに、簡単に崩れる。邸の対岸にあった、あの白い砂になる。

 面白くなって、どんどん竜さまのウンコを壊し、雪に飛び込むみたいにダイブする。さすがに新雪みたいに柔らかくはないけど、砂浜に倒れこんだみたい。

 あっという間に、システーナも私も白い砂まみれになった。

 ペロは大きい塊をのみこもうとしては、砕けて、白い砂をぴんぴん吐き出すのを繰り返してる。テーマイはにおいが嫌いだったのか、竜さまの傍で、今は草を探してるみたい。

「お! トカゲが入ってます!」

 りゅーさまが間違って食べちゃった生き物。乳白色の石にとらわれてる。

「トカゲってちょっと竜さまたちに似てるよな」

 ――うむ! トカゲは光栄なのじゃ! しかし、竜はかように小さくないのじゃ!

 お屑さまは小さいけど、トカゲよりは十倍くらい大きいもんね。

「りゅーさまのウンコ、持っていきますか?」

 すっかり白い砂の山になったウンコを見渡す。

「あージュスタは欲しがるだろーけど、まあ、無理だろ」

 ――船に乗せるには重いのじゃ!

 体がすっかり乾いたので、服を着てお屑さまの腕輪を腕に戻す。

「そーですね、残念です」

 竜さまの糞はガラスの原料だから、ジュスタはきっと喜ぶけど。

「でも、エーヴェ、とっても面白かったですよ!」

「ウンコ、やったー!」

「やったー!」

 システーナと、また、跳ねまわった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大丈夫でしたよ。 テーマイの肩に陣取って颯爽と湖を渡ってるペロを想像してツボリました。ペロ、ちゃっかりしてるな。表情があったらちょっと得意げなのか、カッコつけてるのか、気持ち良さそうなのかい…
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