15.丸く収まる
お影さまはすっかりいじけて小さくなってしまった。竜さまに何度か頭をぶつけて、そのまま首の上に頭を預けてる。
ぶー……
――竜は偉大な力を持っておるのじゃ! いろんな物を簡単に壊せるのじゃ! 壊すとあとから寂しいのじゃ!
――うむ。影よ、心せよ。
ぶー……
お影さま、もう一度割れた岩を積み上げて、試してみる。やっぱりダメ。
うー……
また竜さまのところに戻ってぐりぐり頭を押しつける。
……うーん、いじけてます。
「竜さま、私はもう休みます」
急にニーノが声を出した。
「おーい、大丈夫か?」
システーナの声に振り向くと、目をつむろうとしてたジュスタがはっとする。
「あれ? 寝そうでした?」
「……ずいぶん特性を使ったので」
竜さまの目の奥で青っぽい色がちらちら揺れた。
――うむ。よく休め。
――うむ、うむ! ニーノ、シス、ジュスタよくやったのじゃ! よく休むのじゃ!
膝から力が抜けるジュスタをシステーナが背負う。
「あ、ありがとうございます」
「おわ! ジュスタ、大丈夫ですか?」
「うーん、なんか力抜けちゃったー」
ジュスタ、へにゃへにゃです。
「珍しいことをしたからだ。だが、助かった」
「シスさんが投げてくれたので」
「そーそーあたしのおかげ!」
システーナがにぃっと笑う。
「やっぱり特性ですか?」
――特性に特性を使っておったのじゃ! 珍しかったのじゃ!
ジュスタの特性は力を強めること――正しくいうと、向かってるほうに促すこと。鍋に水を入れて火にかけて特性を使うと、早くお湯にできるし、テーブルの上にお湯を入れた器を置いて特性を使うと、早く水に戻る。
物を作るジュスタにぴったりの特性です。
「でも、シスはどうして投げましたか?」
システーナはぽかんとする。
「んー……? なーんとなく?」
深慮えんぼーはないみたい。
ひょいっと竜さまに振り向いて、手を上げる。
「りゅーさま、エーヴェも寝ます!」
――うむ。エーヴェもよく休むのじゃ。
竜さまが目を細めた。
――影はよくよく竜の力について知るのじゃ!
ぶー……
最後に言い渡されたお屑さまのお言葉に、お影さまはミュート携帯電話の音で返事をした。
――わしも休むのじゃ。ントゥと休むのじゃ。
お骨さまも一緒に船のほうに戻ってきた。
――そうじゃ! 付き人をよく労うのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんする。
「ントゥ、とっても心配しましたよ!」
見上げると、すっかり夜になってて、お骨さまの白さがちょっとした明かりみたい。頭の上のントゥはまだふんふん鼻息を上げてる。
――ントゥ、一緒に寝るのじゃ。星を見ながら寝るのじゃ。
お骨さまは楽しそうに湖の側に向かって、居心地良さそうな場所でくつろいだ。
みんなであいさつして船に戻る。
正規ルートで船に戻ったら、寝てたテーマイが顔を上げてこっちを見て、ぷるっと鼻を鳴らした。
システーナがジュスタを部屋に置きに行って、私はニーノに呼び止められた。
「さっき、甲板からたらしたロープを戻してから寝ろ」
「おお、はい!」
ニーノ、よく知ってます。
「甲板から落ちないように」
「はい!」
大あくびをしてるシステーナを追い越して、甲板に出た。
ロープを引き上げてると、つるーっとペロが滑り降りてきた。
「あれ? ペロ、まだ遊んでましたか」
ペロは鉢を上手に上の位置にしたまま、甲板に降り立つ。
そのまま、じっとしてる。
「……ん? どうしましたか?」
――水玉はよく分かっておらんのじゃ。皆、そろって疲れておるのじゃ!
「ほぉー!」
ペロは、他の人が疲れてるかどうか分かります!
――大丈夫なのじゃ! 今は影が心しておるところなのじゃ!
ペロはしばらく止まってたけど、甲板を船倉へと戻って行く。
もう一回ちらっと見ると、竜さまはいじけてるお影さまに何か話してるように見える。お骨さまのほうは、背骨をントゥが跳ね回ってまだまだ眠らないみたい。
――童も早く眠るのじゃ!
「はい」
応えたつもりだったけど、口からあくびがもれた。
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