11.お気に入りの降り方
お屑さまがくるっと結び目になり、ぴこんっと元に戻る。
動きが素早いから、魔法でも見てる気分。
「おくずさまも結び方、覚えました」
――うむ! からまりが分かったのじゃ!
きゅっとまた結び目になり、しゅいっと元に戻る。同じ調子で、するっと腕輪を放して飛んで行ってしまわないか、ちょっと心配。
「おちびージュスター――。まだやってんのかー――」
「お! シスですよ!」
――シスじゃ! 帰ってきたのじゃ!
声の元を振り返ると、お骨さまが岩山を下ってくる。隣をぴょんぴょん跳ねてるのが、システーナ。
――シスとあちちに行ってきたのじゃ。シスは丸い石を拾ったのじゃ。
船の傍らまで来たお骨さまの頭上には、ントゥがちゃんと居座ってる。ということは、しっぽの先できらきらしてるのがペロだ。
「みんな、おかえりなさい」
――帰ったのじゃ。
「お骨さま、おかえりなさい! 見てください!」
――エーヴェ、ただいまなのじゃ。
お骨さまが、帆桁に顔を寄せる。ントゥがゆらっとしっぽを揺らした。
さっきジュスタに説明してもらった通り、頭上の縄に鉤をかける。帆柱につけたハーネスの輪っかをはずして、帆桁をえいっと蹴った。
――おお!
お骨さまが驚いて羽を広げる。
「わー――!」
思ったより速い!
落ちる速さで風を切って、縄の角度がゆるくなるにつれ、スピードダウン。甲板に着くころには、止まった反動はぶらんと大きく揺れる程度で、たしっと甲板に着地した。
「見ましたか!」
お骨さまに向かって、じゃん、とポーズを決める。
――見たのじゃ。エーヴェが滑って降りたのじゃ。たくさんもぱたぱたしておったのじゃ。
――えいっと飛び出すところがよいのじゃ! 飛ぶときの心地なのじゃ! ぽはっ! ぽはっ!
お屑さまも気に入ったみたい。たくさんと呼ばれたことにも気づいてない。
確かに、帆桁から宙に飛び出すのは勇気がいる。どんどん景色が低くなって風を切るから、本当に落ちる気分。
「りゅーさまも見ましたか?」
竜さまに向かっても、じゃん、とポーズする。
――うむ。すうっと甲板に降りた。
「そうです!」
すうっとポーズを決める。
「うまくいったね、エーヴェ」
後から降りてきたジュスタが隣に立った。
「はい!」
「練習はうまくいったかー?」
どんっとシステーナが甲板に降りてきた。三つも結び方を覚えたので胸を張る。
「うまくいってますよ! ――なんですか、それ?」
システーナは、大きな黒い岩を背負ってる。
「いい形だから持ってきた!」
「ほー!」
甲板に置かれた岩はきれいな球体だった。
表面をなでまわす。雨水で削られたのかな?
背丈は私と変わらないくらい。
――大きな黒い岩にくっついておったのじゃ。
帆桁に飛び移ったントゥが、反対側の端っこまで行ってから、ぴょいっとお骨さまの頭に戻る。
――玄武岩なのじゃ! なぜこんなに丸いのじゃ?
お屑さまは物知りです。
「知らねー。ペロがのみこもうとしてあきらめてたぜ。……あ、お影さま」
陽が傾いたのを感じたのか、お影さまが帆から顔を出した。
山の向こうでまだ赤く空を照らしてる夕陽を見つけると、ぶーっとうなる。震えが船まで伝わってきた。ミュート携帯竜さまです。
「おかげさまとは夕陽が見られませんね」
竜さまたちと一緒に夕陽を眺めるのは大好きな時間なのに、残念。
――影もそのうちお日さまに慣れるのじゃ。
お骨さまは夕陽を眺めようとして竜さまを見つけると、ひょいひょい近づく。うっかり通り過ぎちゃったただいまの挨拶をした。
「エーヴェ、手は大丈夫かい?」
ジュスタがかがんで聞いてくる。前は目が合ってたのに、ジュスタを見下ろす感じになった。
「たぶん大丈夫です。カティンの葉がありました」
何回も帆を開いては閉じて――。
目をつむってもつやつやした縄の表面が見える気がする。
「ちょっと揺れてる気がしますよ」
――ずっと高い場所におったゆえ、狭い感じがするのじゃ!
お屑さまはぴこんぴこん周りを見てる。
ジュスタはにっこりして立ち上がった。
「竜さまと夕陽を見たら、今日は早めに寝たほうがいいね」
「はい」
新しいことがいっぱいの一日でした。
急に、目の前につるーっと何かが流れてきてびっくりする。
ガラスの鉢が縄にぶら下がってた。
「おわ!? ペロですよ!」
――ぽはっ! 縄を伝って降りてきたのじゃ! 水玉は伝うのがうまいのじゃ!
ペロは甲板に降りずに、また縄を伝って帆桁のほうに登っていく。
「いつの間に帆桁に乗ったんだろう?」
じわじわ長い時間をかけて、ペロは帆桁のあたりまで登り、またついーっと滑り降りてきた。
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