8.あちらの結び方 こちらの結び方
ジュスタと向き合って座り、二本の縄を丸めたりくぐらせたりを繰り返す。
「そう、できた。それが一つ目の結び方。簡単な結び目だけど、固くて解けない」
簡単かな?
「……もう一回、やりますよ!」
「どうぞ」
さっきの動きを繰り返したつもりだけど、ジュスタに手を止められる。
「そこは、もう一度くぐらせるよ」
「お、はい」
やっと、ジュスタが作った結び目と同じ形になった。
「もう一回やりますよ!」
「うん」
何度か繰り返して、なんとかスムーズに結べるようになる。
――童が難しい顔になっておるのじゃ!
「何度もやれば、大丈夫、大丈夫」
ジュスタの応援を聞きながら、無言でもう一回やってみた。
「むー……大丈夫ですよ」
「じゃあ、次の結び方だ。これは強い結び目だけど、右を引っ張ると簡単に解ける」
ジュスタが縄を結び、するりと解いて見せる。
「ほー!」
――なんと! からまりが解けたのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんした。
前の世界でもたくさんの結び方があったけど、同じように一方を引っ張ると解ける結び方があった気がする。
「すごいですね。エーヴェはいくつ結び方を覚えますか?」
「まず三つだね」
「三つ!」
これは大変です。
ジュスタがのんびりと笑った。
「この結び方は、お泥さまの座のみんなが教えてくれたんだ」
「お! そうなんですか?」
お泥さまの座は水が多くて、建物や筏は竹でできてる。竹の組み合わせるには、たくさんの縄が使われてた。いろんな結び方があるのも納得だ。
「俺も前の世界では海の近くに暮らしてたから、縄の結び方はたくさん知ってたんだけど、こちらに来てからは、全然結べなくなっちゃったんだよね」
「お?」
お屑さまは体をくねらせて、結び方の検証をしてるみたい。
「薪をまとめるとき、魚を縄に通すとき、岸に船をつなぐとき……、そんな感じでそれぞれの結び方があったよ。たぶん指で覚えてたんだ。だから、言葉で説明しても、エーヴェが難しく感じるのはよく分かるよ。大丈夫さ。そのうち、ちゃんと指が覚えるよ」
「おおー! エーヴェ、分かりましたよ!」
前の世界で絵を描いてたことと、こちらに来てから全然絵を描けなかったことを説明する。
「へえーなるほどね。頭で覚えてることと、体――肉で覚えてることがあるのかな?」
「そうかもしれません。だったら、お骨さまはすぐに飛べてすごいです!」
――あほうの何がすごいのじゃ!
ぴこんっとお屑さまが伸び上がった。
くねくねしてたのに、からまらずにきれいに伸びてる。
「エーヴェは体の動かし方は肉が覚えると思いますよ。お骨さまは肉がないですよ」
でも、布の羽をつけたらすぐに飛べるようになったから、お骨さまは偉大です。
――童は別の星から来たのじゃ! 骨は肉がなくなったが、別の体になったわけではないのじゃ!
「おお」
そうだ。ジュスタや私はこの世界に生まれ直した。
「エーヴェの世界にも、いろいろな結び方があったかい?」
「ありましたよ! エーヴェはあんまり知りませんけど、結び方を説明する本がありましたから、きっとたくさんありましたよ」
「本か! そんな本があるんだね」
お、ジュスタが前にいた世界には本があったみたい。
「お屑さまは本を知ってますか?」
――もちろんじゃ! 滅ぶ前の世界にはあったのじゃ! ヒトがせせこましく知識をため込む道具なのじゃ!
「ほう!」
邸にいたときに遠足で行った遺跡は、高層ビルに似た建物があったし、前の世界と滅ぶ前の世界には、共通する文化があったのかもしれない。
「人間は面白いね」
ジュスタの蜂蜜色の目がきらきらしてる。
「何が面白いですか?」
「エーヴェが生きてた世界と俺が生きてた世界は違う。お泥さまの座はこの世界だ。でも、どの人間も縄のいろんな結び方を作ってる」
「おおー!」
言われてみると、とても不思議。本もあるし、高い建物もある。
――人は長いものが好きなのかや?
お屑さまが体をくねらせて、考えこんだ。
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