3.お九頭さまの余り波
いろいろ多忙で遅くなってしまい、申し訳ありません。
そして、新しい話にもかかわらず、うんこやおしっこの話ばっかりですみません。
階段の下でチカっと何かが光ったので下を見る。ペロだ。階段の下をうろうろしてるから、ツボがときどきキラッとする。
「ペロはハーネスがありませんから、甲板は危ないですよ」
階段を降りて、ペロの所に行く。ペロは水玉の割にしっかりしがみつける。壁も天井ものそのそできるもんね。でも、船の甲板はときどきすごい風に巻かれて、システーナでも吹っ飛ぶから、万一を考えるとペロは甲板に出ないほうがいい。ペロは船の上を走り回るのが好きみたいだから、ハーネスがあったらとても素敵だけど、水玉に着けるハーネスなんてさすがにジュスタでも思い浮かばないみたい。
「おくずさま、ペロは甲板に出たいですか?」
階段周りをのそのそしてるので、お屑さまに聞いてみる。
――水玉は特に何も考えておらんのじゃ。追いかけっこする相手がおらぬゆえ、のそのそしておるだけなのじゃ。
「ほほー」
竜さまたちは他の生き物の考えも分かるから素晴らしい。ペロと意思疎通ができたら、もっと楽しいはずです。
「そういえば、おくずさま。古老の竜さまにはいつ会えますか?」
旅に出て何度目かの質問をしてみる。
――いつなのかは誰にも分からぬのじゃ! 古老はいまだこの星には戻っておらぬぞ。
また同じ答えが返ってくる。早く古老の竜さまに会いたいから何度も聞いてるけど、毎回この答えだ。
「むー、古老の竜さまがいないのに、エーヴェたちどこに行きますか?」
――陽が真上に来るところなのじゃ!
これも同じ答え。
もしこの世界が丸い星だったら、太陽が真上に来る場所は赤道のはず。それで、赤道は星をぐるりと取り巻いてる。つまり、日が真上に来るところはとっても広い。それで、もしこの星が地球みたいに太陽に対して傾いてたら、時期によって太陽が真上に来る場所が変わってしまう。邸にいたとき、雨の多い時期やとっても暑い時期があったから、たぶんこの星は傾いてる。
「エーヴェたち、どこに行くか決まってませんね」
――決まっておるのじゃ! 真上に陽が来るところなのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこん主張する。
むむむ、話が元に戻っちゃった。
――そのときになれば自ずと到る。案ずるでない。
お屑さまの腕輪から、竜さまの声が腕を通して響いてきた。
「なんと! りゅーさま! お話しできます!」
窓に駆け寄って外を見るけど、竜さまの姿は見えない。普段は竜さまの近くでしか話せないから、声だけの会話は新鮮。
――山がわしを通して話を聞いておったのじゃ! 童はまだ直接は話せぬゆえ、わしが伝えてやっておるのじゃ!
「おお! おくずさま、ありがとう!」
大人三人はお屑さまがいなくても、こんな感じで話せてる。私も大きくなったら、テレパシーできるようになるかな?
「りゅーさま、おくずさまを通して話せますか?」
――屑の説明は渦を巻いておったゆえ、少ぅし口添えした。わしらが古老を目指せば、古老もこちらを目指すゆえ、気の向くままに行くがよい。
「ほー!」
じゃあもう、古老の竜さまは私たちが会いに行ってることを知ってるのか。
――なんじゃ! 童は案じておったのか? なにゆえじゃ?
お屑さまがびっくりしてる。竜さまたちにとっては当たり前なのかな。
「エーヴェ、ちょっと心配しました。古老の竜さまに早く会いたいです!」
――エーヴェは忙しい。
竜さまのどっしりした声が響いてくる。
――童は忙しないのじゃ! ネズミと同じなのじゃ! ぽはっ!
ネズミと一緒にされるのはちょっと不服だけど、竜さまたちみたいに動じないのは無理だ。
そのとき漂ってきた匂いで、鼻の頭にしわが寄る。
「テーマイがおしっこしましたよ!」
トイレ問題はウンコだけじゃない。テーマイは柱や廊下の角なんかにおしっこを吹きかける。残念なことにその位置がちょうど私の顔の高さくらい。
――当たり前なのじゃ! ディーは糞尿が別々なのじゃ!
「お? 竜さまたちはふんにょーが別々じゃありませんか?」
お屑さまは目の付けどころが違う。
おしっこふき取り用の布を取りに行きながら、お屑さまに聞いた。
――竜によって違うのじゃ! 山や泥は糞しかせぬ。じゃが、尿を空からばらまく竜もおるのじゃ!
「おおー!」
大変! でも、竜さまのおしっこなら、ありがたい気分。
――九頭は波を漏らすであろう。
竜さまがぽろっと問題発言をする。
「おくずさま、もらしますか?」
お屑さまは波を食べても糞をしないけど、お屑さまになる前のお九頭さまは波を漏らすってことかな?
――ときどきそよそよと風を吹いたり、ぽわぽわと音がしたりする。
「お尻からですか?」
……おなら? でも、そよそよ?
――食い過ぎた分はちょっと余るのじゃ! 音を食べ過ぎれば音が出ることもあるのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんする。
――九頭の余り波はいろいろで、なかなか面白い響きである。
面白い響きを想像してみるけど、さっぱり見当がつかない。
――光ったのも見たことがあるのじゃ。
お骨さまの愉快げな声も響いてきた。
「おお、お骨さま! お尻が光りますか?」
――光を食えば、そういうこともあるのじゃ!
ぴかっと光るのかな? それともホタルみたいな感じかな?
竜さまたち、とっても奥が深いです。
二層目の角を曲がったところで、テーマイのおしっこの跡を見つける。手にした布で拭う。水洗いじゃないけど、ふかないよりマシ。
他のみんなはあんまり気にしてないみたい。特に、ニーノはひどい。
「人間は鼻が弱い。すぐ慣れる」
慣れても、船がおしっこの匂いになっちゃったら大変です。
念のため、拭いたところをにおってみる。
「あれ?」
もう一回、鼻をうごめかす。
――なんじゃ? 何をしておるのじゃ?
「匂いがしませんよ」
よく見ると、ここは白い。船の骨組み部分――竜の骨がむき出しになってる。
――うむ! 竜の骨には何もしみこまぬのじゃ! テーマイの印はついておらぬぞ!
「おおおお! 偉大! じゃあ、テーマイには白い所におしっこをかけてもらえばいいですよ!」
これで、船の中くさい問題が解決します!
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