6.うぐいす色の縄
大輪の火が咲くパフォーマンスで盛り上がってからは、焚き火の側でのんびりおしゃべり。
私はシステーナの膝に座った。システーナはのんびり座ってるだけなのに、側にいるだけで温かい。お屑さまのぴこんぴこんも間近に見える。お骨さまとお影さまは、ちょっと離れたところでじゃれてる。羽ばたきで起こる風やときどきずしんと地面が揺れる以外は、平和だ。竜さまは火を吐いてたっぷりくたびれたのか、人の輪の近くで目を閉じてた。
「お屑さまと一緒にいたとこはここよりでこぼこしててさー、谷ん中って感じかぁ? すげー面白かったぜー! 岩の切れ目が深ぇ洞窟になってたり、いろんな色の岩の層がむき出しになってたりすんだ!」
――ケンカ場は大地と大地がぶつかっておるのじゃ! 深い地面が浅いところに顔を出すこともあるのじゃ!
「そーそー。地面の中に入ってるみてーだったもん」
「エーヴェも見てみたいです」
「あれだぜ、ジュスタのびゅん! があると面白ぇよ。全然底が見えねー深ーぇ穴もいっぱあっから、あぶねーだろーけど」
システーナはあっけらかんと笑う。話題に上ったから、ジュスタが改良したびゅん! について、いろいろ話し出した。仕組みについては分からないところもいっぱいだけど、お影さまの火から逃げるとき、大活躍だったことを思い出す。
「システーナ。貴様は何を持ち帰った」
ニーノが話を変える。
「鉱石ですか?」
ジュスタの目が輝いた。
「あーあーそーそーそれもあっけど……」
システーナに膝から降ろされた。ぴょーんと荷物の所まで跳んでいって、荷物を背負ってまた戻ってくる。
「ほら、これ!」
溶けて固まった岩(?)を引っ張り出した。
――影が溶かした石なのじゃ! シスが後から掘り出したのじゃ!
「お影さまの火はすげーよな! 掘ったやつ一緒くたに溶けちまってさー、そのままどろーって近くの岩の穴に入ってさー。何日かして、もしかすっと固まってっかもなーっと思って掘ってみた!」
「へぇー!」
ジュスタは塊を受け取って、しげしげ眺める。
「あとは竜さまのおやつなー。そんなに量はないけど、あったら嬉しーですよね」
――うむ。食べれば嬉しい。
見上げた先の竜さまは、目を瞑ったまま応えた。
「重くないですか? 船に乗りますか?」
「乗る分だけ乗せればいい」
「乗らねー分は竜さまが食べればいい」
システーナがニーノの口まねをする。
*
おしゃべりがいろいろ聞こえてたと思うけど、温かくて安心してるうちにいつの間にか寝てたらしい。起きたのは、自分の部屋だった。
「おはよー! おはよー!」
――童! おはようなのじゃ!
食堂に駆けこむと、腕輪が掛けられて、お屑さまがゆらゆらしてる。
「あ、ペロも戻ってます」
食堂の隅で鉢に入ったペロが静かにしてる。鉢の口が上を向いてるし、まだ寝てるのかもしれない。
「エーヴェ、おはよう。先に顔を洗っておいで」
「はい!」
今日はジュスタが朝食当番らしい。あいさつして、顔を洗いに行く。
――シスに早く戻るように言うのじゃ! いつまでも顔を洗っておるのじゃ!
お屑さまの声が追いかけてきた。
「テーマイ、ントゥ! おはようございます!」
途中で会った二人にあいさつして、いちばん下の船倉に行くと、しゃがんで顔を洗いつつぼーっとしてるシステーナがいた。髪がボサボサだ。
「シス、おはよー! ぼーっとしてますよ!」
「おーおちび、おはよー。昨日みんなでいろーんな季節の星ぃ見ちまっふぁー」
後半部分はあくびで音程がついてる。
「エーヴェが髪といてあげます」
あくびなのか承諾なのか分からない返事を受けて、システーナの髪をとかす。
うぐいす色の髪の毛は、量がたっぷりでふわふわしてる。システーナ得意の跳躍のたびに風を受けて、いつもなんとも言えない髪形にまとまってた。
「そういや、おちびとジュスタは髪がさっぱりしてんな」
「そうです! お影さまが火を噴きましたから、ちょっと焦げましたよ」
システーナは体を揺らして笑う。
たっぷりの髪をとくのには時間がかかったから、ジュスタの髪を切ったことや水草を干したことやお骨さまとペロとテーマイと湖の温泉で遊んだことを話した。
「おもしろそーだなー。あたしも湖で遊びてー」
「シスが岩を掘ったところも面白そうですよ! エーヴェ、見たかったです」
世界には知らない場所がいっぱいあって、どこもかしこも見て回りたい。
「体がいくつもありゃー見れたけどな」
システーナも同じことを思ったみたい。
「おくずさまですね!」
「お屑さまだと、好きなとこには行けねーけどな」
それを気にしないのが、お屑さまがとっても偉大なところ。
「あ! おくずさま、早く戻ってくるように言ってましたよ!」
「あーそーいや、食堂に置いてたかー」
慌てた私と対称的に、システーナは全然慌てない。なので、システーナの髪を大きな三つ編みに束ねあげた。
「おお! 頭から縄が生えてっぞ!」
髪を触ってシステーナが顔を輝かせる。
「りゅーさまは三つ編み、苦手ですけど、シスは大丈夫?」
邸にいた頃、たてがみを(ニーノの特性で)三つ編みに作ってもらって、不快げに首をかいてた竜さまを思い出す。
「ちっと涼しーかなー? 竜さまはこの髪が嫌れーなの?」
システーナにもその話をしつつ、顔を洗って食堂に戻る。
――痴れ者め! とっても遅いのじゃ! かようなことでは顔を洗いすぎて、溶けてなくなるのじゃ!
お屑さまにはとっても怒られた。
ジュスタの朝ごはんを食べながら、今後の予定について話す。(海苔はせっかく干されたのに、またスープになってて面白い。)
「ちはせさまの所に行きます!」
ニーノは頷く。
「しかし、お影さまは夜のほうがお元気だ。竜さまが助けて、昼の間も飛ぶことはできるそうだが、出発は夜になってからがいい」
お影さまは夜行性。
「それから、お影さまは水があまりお好きではない。雨も苦手だ」
「火ぃ吐くの大好きだもんな! きっと体の中に火が燃えてんだぜ」
「それは存じ上げないが、この場所の周囲は常に嵐だ。地馳さまの座に向かうにはここを越えねばならない。そこで、私がお影さまの背に乗せていただき、雨をさえぎる壁をお影さまの周りに張ることにした」
「ほおー! ニーノ、すごい!」
ニーノは賛辞に眉も揺らさない。青白磁の目がこっちを見た。
「そこで貴様は、操船に加わる必要がある」
「おぉ?」
びっくりして周りを見る。ジュスタがぽりぽりと額をかいた。
「昨夜いろいろ話してみたけど、やっぱり三人いないと船を動かすのは難しくてね。エーヴェにもできる作業をしてもらうことになったんだよ」
「大急ぎで練習しねーとな」
システーナがにいと笑った。
「エーヴェ、やりますよ!」
まだまだ簡単に甲板から飛ばされちゃうけれど、操船なんて楽しみです!
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