5.火吐き仲間
肌寒いから、火を焚いて、岸で集まる。
すると、お骨さまを追いかけてたはずのお影さまが飛んで帰ってきた。岸辺に焚き火のてっぺんを揺らしただけで降り立つと、あちらこちらと首を向ける。
ぼっ
うーん。お影さまはまだ言葉が話せないみたい。
――影よ。これは竜が吐いた火ではない。
お影さまは首をかしげる。
――地面から来た火でもないのじゃ! 人は道具をよく使うのじゃ! これは道具で作った火なのじゃ! お主の腹から出る火とは違うのじゃ!
お屑さまが「道具」にアクセントを置いて、ぴこんぴこんした。
「ジュスタ、見せてやれよ」
火の色で体の前面を染めたシステーナが言う。
「エーヴェ、火種がありますよ!」
さっき台所から持って来た筒をたぐり寄せる。中には綿にくるまれて細ーくなった火が入ってる。
「ん、いいよ。俺がやろう」
胴に斜めに渡したベルトに火打ち石を擦りつけて、ジュスタは瞬く間に火を熾した。
ジュスタはいつでも火を熾せるように小さくまとめたおがくずを持ってる。ときどきペロも気分で固めてくれるらしい。ペロ製はぎゅっとおがくずが詰まってる分、高火力なんだって。
お影さまが、羽をふわふわと動かした。
「ジュスタは早業だなー!」
システーナが手をたたく。
ずー!
吠えるが早いか、お影さまは顎を引き、ごおっと炎を吐き出した。
「うきゃー!」
咄嗟にジュスタが頭を押さえてくれた。システーナもジュスタも地面に伏せてるけど、ニーノだけは座ったままだ。お屑さまは熱風ではためいてる。ントゥとペロが、我先に竜さまの影に飛び込んだ。
――これ。ジュスタは火を吐いたわけではない。
竜さまがお影さまの頭に額をぶつける。
――ぽはっ! 影は火を吐く仲間と会えると喜ぶのじゃ! 山もずいぶん火を吐かされたのじゃ!
「あーっはっは! そーそー!」
火が収まると、システーナは平気な顔で元の姿勢に戻ってる。全然びっくりしてない。
「エーヴェ、大丈夫か?」
ジュスタが聞くから、髪や体を確かめる。ニーノがちらっとこっちを見て、何事もなく視線を戻したから、たぶん何も起きてない。
「大丈夫でした。りゅーさま、火を吐きましたか?」
――うむ。久しぶりであったゆえ、背や胸が強ばっておる。
「竜さま、酔っぱらってっから、調子に乗って何回も火ぃ吐いてんだぜー!」
「システーナ」
「青い火で燃えてる竜さまが、さらにどーんと火ぃ噴くんだぜー! かっこいー!」
ニーノの冷たい声にもシステーナはへっちゃらだ。
――まったく! 山は情けないのじゃ! なまっておるのじゃ! 洞で座ってばかりおるからなのじゃ!
――たいていの竜はそんなものであろう。
竜さまが長く鼻息を吹き出した。
遠くから、音が近づいてくる。水面を蹴立てる音。
――みんな集まっておるのじゃ。わしも集まるのじゃ。
お骨さまも戻って、火の周りはぎゅうぎゅう詰めになった。お骨さまの羽からこぼれた水が、焚き火に落ちてじゅっと鳴る。
「……竜さまが火を吐くところは、久しく見ておりません」
ニーノがぽつっと言う。
「あっはっは! そーだぜ、竜さまー! ニーノもジュスタもおちびも見てねーから、火ぃ噴いてやってくれよー!」
「システーナ」
「やってくださーい!」
二度も名前を呼ばれたので、システーナが素早く言葉を改めた。
「おー! エーヴェ、見たいです!」
「俺も見たいです」
ジュスタはにこにこしてるけど、きっぱり宣言する。
――なんじゃ? 友が火を吐くのか? 珍しいのじゃ。
お骨さまが顎をかたかたさせる。本当は羽を動かしたいのか肩のあたりがゆらゆらした。
……おや? いつの間にかントゥが頭上にいるぞ。
――ぽはっ! 山よ、火を吐いてやるのじゃ! 面白いのじゃ!
お屑さまがはやし立てる。竜さまはとぐろを巻いたヘビみたいに顎を引いてたけど、耳をぴるっと振るわせた。
――軽ーく吐くぞ。顎がこわばってしまうゆえ。
竜さまは湖へ体を向ける。そして、大きく口を開けた。
「お?」
なんだか空気が動いてる。
大きく開いた竜さまの口に、空気が吸い込まれていく。でも、息を吸ってるんじゃない。大きく開いた顎の間に、空気が集まっていく感じ。
ぽかんと眺めてると、急に、かっと光がひらめいた。
真っ白で強い光。
次の瞬間、大輪が開くように幾重にも重なった火が、目の前の空を焼いて、消える。
一瞬だけの火の牡丹だ。
「ふわー!」
とっても大きい炎の塊!
いつか砂漠で花火みたいに打ち上げた砂とは全然違う。
ぼ! ぼ!
お影さまはどしん、どしんと飛び上がる。
――きれいなのじゃ。花のようなのじゃ。
お骨さまもぴょんぴょんする。
――うむ! 立派な火の花なのじゃ!
賛辞を受けて、竜さまがぶるぶるっと首を振った。
――顎がこわばる。
「りゅーさま、ありがとうございます!」
お疲れ竜さまにみんなでお礼を言った。
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