4.うぉっほっほダンサーズ
白銀のたてがみをなびかせて、竜さまが船の側に降りてくる。
「りゅーさま、おかえりなさーい!」
眠気が吹っ飛んで両手を振った。
「おかえりなさい」
「おかえりなさい、竜さま」
みんな口々に竜さまに呼びかける。
――うむ、戻った。
竜さまの背中から、ひょいと人影が降りてきて、見るからに重そうな荷物を降ろす。
「シスー!」
甲板から身を乗り出して両手を振ると、システーナが片手をあげた。
「おちびー! 帰ったぜー!」
――帰ったのじゃ!
お屑さまが腕の先で、ぴこんぴこんしてる。毎朝聞いてた声だけど、姿が見えるとやっぱり嬉しい。
竜さまはシステーナが降りたことを確かめると、湖の岸辺に降り立った。
お骨さまが駆け寄って、竜さまと首をぶつける。おかえりのあいさつ。
どすん、ともう一人、船の側に降り立つ。真っ黒なお影さまは、夜には本当に黒々とした影になってしまう。顔で、何かがきらっと光った。星明かりに、輝いた目かな。
ぶー……
空に浮いてるニーノを見上げたお影さまがうなる。ニーノの髪がふわっと動いた。
ニーノが一瞬、微笑んだ。
「お影さま、おかえりなさい」
「おーかーげーさまー!」
ぴょんぴょん跳ねる。お影さまはゆるく羽を動かした。
べ!
「おかえりなさーい」
いつの間にか隣に来たジュスタも言う。お影さまが首をかしげる。
ぶ、ぶ……ずー
ジュスタは目を丸くする。
「おおー!」
ずー
今度はするっと声が出た。
「ジュスタですよ! ジュスタ!」
ジュスタは慌てたみたいに、顔や体をペタペタ触ってる。
「わ……わー! 嬉しいです」
蜂蜜色の目がとろんと笑った。
お影さまはゆるゆる羽を動かして、のそのそ向きを変えると、お骨さまの方へいく。
――影じゃ。おかえりなのじゃ。
お骨さまとお影さまは首を打ちつける。
「おおー!」
お影さま、竜さま同士のあいさつを覚えたんだ。
きょきょきょきょきょ……
お骨さまが羽を動かして、骨がきしむ。
ばさばさばさっ
お影さまも真似して羽を動かす。
お骨さまは口をぱかっと開けると、大喜びで立ち上がり、後肢でひょいひょい跳ねた。すると、首を右左に傾けてから、お影さまも片足ずつでひょいひょい跳ねる。
――ほう。よくできる。
竜さまが金の目を細めた。
羽を広げてバランスを取りながら、お影さまは上手に跳ねてる。竜さまは体が重いから、後肢だけで跳ねるなんて全然できない。
「すごいです! お影さま、うぉっほっほができますよ!」
甲板でうきうきとうぉっほっほしてたら、地面のシステーナに手招きされる。手すりを乗り越えようとしたら、軽い跳躍でシステーナが甲板の上まで迎えに来てくれた。甲板から飛び出して、竜さまたちに加わる。
――うぉっほっほー! うぉっほっほー!
ぼ! ぼっ!
「わっ! ほー!」
お骨さまは軽々と跳ねるけど、お影さまの側だと地面が揺れて、勝手に体が跳ねる。
「わ! すっげーぜ」
「うぉっほっほー!」
システーナとジュスタと一緒にうぉっほっほに混ざる。
――ぽはっ! なんとも賑やかなのじゃ! 地面が起きるのじゃ! 山が火を噴くのじゃ!
お屑さまは物騒なことを言いながらご機嫌だ。
いつの間にか駆けつけたペロとお骨さまから降りたントゥは、地面の揺れでトランポリンみたいに宙に跳ねてる。
まるで夢の一場面みたい。
テーマイは船の中で、ホントに夢の中かもしれない。
――影は友の門子のようである。
ふっふっと鼻息をあげながら、竜さまが言った。
――友の門子なのじゃ。竜のあいさつを覚えたのじゃ。
ぱっと羽を広げて、お骨さまはポーズを決める。お影さまはちょっとくたびれたみたい。尾を地面に降ろして、二人の竜さまを見比べてる。
「きょうだいみたいです! お骨さまの弟? 妹?」
そこで、首を傾けた。
「そういえば、お影さまはオスですか? メスですか?」
そもそも、竜さまはオスだっけメスだっけ?
「竜さまがたは性が一つだ。みなさま、卵を産める」
――わしは産まぬのじゃ。
ニーノの言葉に、お骨さまが顎をかたかた鳴らす。
――木の葉のわしも、卵を産まぬのじゃ!
たしかに、お骨さまやお屑さまは卵を産まない感じがする。
「でも、お影さまは違う世界の竜さまです。同じですか?」
お影さまに聞いてみたけど、首をかしげられた。
ぼ!
――影が世界とつながった以上、竜の性質は同じになる。
「ほえー」
不思議だ。
「じゃあ、お影さまはお骨さまの弟妹ですね!」
――きょうだいじゃ。ていまいなのじゃ。
ばっと羽を広げて、お骨さまは急に走り出す。
ぼっ!
お影さまはびっくりして、後について走り、岸から飛び出した。せっかく映った星をかき消して、お骨さまは湖を走りお影さまが飛んで追いかける。
――まったく、骨はあほうなのじゃ! 一緒に飛ぶ影もたいそうあほうなのじゃ!
うぉっほっほしすぎて地面にひっくり返ったシステーナの腕で、お屑さまがぴこんぴこんした。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




