20.人は細かい
ぶー……、ぶー……、べ
お影さまはまた鳴いた。
「わーい! お影さま! エーヴェですよ!」
ぴょんぴょん跳ねてアピールする。
……べ
首を傾けてから、お影さまはどしんっと跳ねた。
「わー!」
素敵です!
嬉しくなって、ぴょんぴょん跳ねる。お影さまは首を上げ下げしてる。
「貴様、止めろ」
ニーノの冷たい声で動きが止まった。
――うむ。影が酔うゆえ、皆、しばし離れておれ。人の考えは竜には小さすぎる。影には世界とつながる時間が必要である。
竜さまが金の目を細めて言う。
「承知しました」
「わ」
声が聞こえた途端、首のところを摘ままれて風に包まれた。
次の瞬きには、甲板に立ってる。
「あれー?」
首を巡らせる。
「なんと、ジュスタまで!」
首の後ろをなでながら、ジュスタが隣に立ってた。
「うん、なんだか久しぶりな感じ」
「ほう!」
前にはジュスタも首の後ろを摘ままれて、ニーノに移動させられてたのかな。
「夕食にして今日は休むぞ」
ニーノはさっさと船の中に戻って行く。
ぼっ
お影さまの声に振り向くと、青く燃えてる竜さまと首をかしげてるお影さま、ぴょんぴょん跳ねてるお骨さまがいた。
……うー! 一緒にぴょんぴょんしたいです!
両手をぶんぶん振って、船内に戻った。
「私はントゥの様子を見てくる。貴様は夕食を準備しろ」
「はい」
「はいはーい」
ジュスタと応えると、ニーノが冷たい目で見下ろしてきた。
「貴様は、テーマイが散らかした船倉を片付けておけ」
「お、分かりました! テーマイ、帰ってるかな?」
ニーノを追い越して、船倉の二層目に降りる。あっちこっちにまき散らされた枯れ草を一箇所に掃き集めながら、テーマイを探す。全部掃除が終わったところで、ことこと外の板が鳴る音が聞こえてきた。戸口から鼻先がのぞく。
「あ、テーマイ、帰りました!」
暗くなったから、ちゃんと帰ってきたんだ。
鼻でにおいを確かめた後、テーマイはことこと船内に入ってきた。
「ふむー! テーマイ、つやつやしてますよ」
テーマイは連日温泉に入ってるから、毛並みにツヤが出てる。
ふわふわの耳を振ると、きらきらっと輝く気がする。
枯れ草の山を見つけて、テーマイはいそいそ様子を確かめ始めた。
「エーヴェが掃除しましたよー」
ふぶっと鼻を鳴らされた。
……どういう意味かな?
「――エーヴェ、食堂に行くぞ」
テーマイのつやつや毛並みを眺めてたら、ニーノに声をかけられた。
「おお! ントゥは元気ですか?」
「ントゥは強い。明後日には外に出られる」
よかった。お骨さまもきっと大喜びです。
一層目の廊下で、ジュスタと鉢合わせした。
「あ、ニーノさん。ちょうど呼ぼうと思ってたところです」
「ご飯できました!」
ジュスタがにっこりする。
「できたよ」
うぉっほっほしながら食堂におどり込む。そこで気がついた。
「あれ? ペロ、いませんね」
そういえば、名付けの後からペロに会ってない。
「ペロは竜さまが好きだから、お三方の所にいるかもな」
ジュスタはあんまり心配してない。
「食事は温かいうちに食べるぞ」
「おお! そうですね」
掃除も終えて、お腹ペコペコだ。
ジュスタが用意してくれたのは、トウモロコシパン。隣に黒っぽいペーストが添えてある。
「ニーノさんが研究してた草を使ってみました」
ジュスタはにこにこしながら、スープをみんなの前に置く。
「いただきます!」
トウモロコシパンに黒いペーストを塗ってみる。海苔の佃煮に似てるけど、甘さ控えめでちょっぴり辛い。
「どうかな?」
「おいしいですよ」
スープには、粉にひいた粟が溶け込んでる。混ぜないと粉が底に沈んじゃうけど、混ぜて口に含むとほのかに甘い。しょっぱいペーストを付けたトウモロコシパンと、とてもバランスしてる。
「ふふー!」
指先がぽかぽかしてきた。頭に巻いてる布と同じで、ジュスタはいつも体をぽかぽかにする物をくれる。
「明日、お影さまにお会いしよう。きっと落ち着いていらっしゃるだろう」
ニーノは、スプーンでスープを丹念にかき混ぜてる。
「ニーノ、ぶーって呼ばれてました」
「そうだ。素晴らしい」
「すばらしいですか?」
ニーノは無表情だけど、言葉はとても大げさだ。
「そうだ。竜さまがたが声で我々の名を呼んでくださるのは初めてのことだ。大変すばらしい」
あ、そっか。竜さまたちとのお話は、いつもテレパシーだもんね。
「俺もぶーでした」
ジュスタがにこにこしてる。
「エーヴェはべ! でしたよ!」
「エーヴェのべ、かな?」
「お影さまも偉大だ」
満足するくらい混ざったのか、ニーノはスプーンを口に運んだ。
「はい! お影さまも偉大!」
明日もお影さまに会うのが楽しみです。
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