19.ぶーぶーべ
お影さまは羽を広げたまま、立ち止まってる。
「……どうしたのかな」
どうなるか見てたけど、ちょっと心配になってきた。
竜さまは耳をぷるぷるっと振るわせて、その場に座った。お骨さまがひょいひょい近づいて来て、お影さまの前で立ち止まる。
お影さまがかくっと首を動かした。片方の目で、しげしげお骨さまを眺めてるみたい。
……ぼっ
お影さまが声を上げた。怒ってたときとは違う。一瞬だけ音を出したトロンボーンか、とっても気を遣った車のクラクションかも。
きょきょきょきょきょ……
お骨さまが羽を鳴らす。
お影さまはしばらく考えて羽を畳み、逆方向に頭を傾けた。
……ぼっ
お骨さまが一度お影さまの頭の上に頭を乗せて、離れると口をぱかっと開けた。そのままうぉっほっほを始める。お影さまは首を傾け傾けしてる。それから、どてどてとその場で向きを変えて、地面に首を寄せた。
……ぼっ
また向きを変えて、声を出す
……ぼっ
……何か探してるのかな?
――たくさん声が聞こえるだろうが、たいてい屑ゆえ気にせぬがよい。
竜さまが金の目を細めてる。
「お影さま、声が聞こえてますか?」
ぶおっ!
お影さまが軽く飛び上がって、こっちを振り向いた。
ちょっとびっくり。
ぶむっ!
お影さまがまた羽を開こうとする。ふわっと目の前に影が降り立った。
「お影さま。私はニーノと申します」
「俺はジュスタです」
「エーヴェはエーヴェですよ!」
ぴょんっとニーノの前に飛び出てあいさつした。
お影さまが動きを止めて、かたっと首をかしげる。
……ぼっ
――わしの付き人なのじゃ。
竜さまがのんびり口をはさむ。
お影さまはしげしげこっちを見てる。黒い体にきらっと光る黒い目に、ニーノやジュスタや私が映ってる。
ぶー
「お?」
ぶー……
お影さまは同じ音を繰り返した。
「お影さま、なんでお話ししませんか?」
「エーヴェ、黙れ」
ぴしゃりと言われて、口がへの字になる。
お影さまが首をかしげた。
ぶ……べ
お?
ぶー……ぶー……べ
竜さまがばばっと青い火を吐いた。
――竜の考えを人の言葉にするのは難しい。影もしばらくは話せまい。
「え?」
――竜の考えは偉大なのじゃ! 人の言葉に収めるのはとても面倒なのじゃ!
お屑さまの声が響いた。お影さまは首をあちらこちらに向ける。
――今、影は竜の声を聞いておるのじゃ。びっくりしておるのじゃ。竜がたくさんおるからびっくりなのじゃ。
――長く一人であったから、なおさらであろう。
お影さまはニーノを見て、頭を傾けた。
ぶー……
ジュスタを見る。
ぶー……
私を見た。
……べ
「――おお!」
きっと、エーヴェのことです!
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