18.名付け
お屑さまが名前をじっくり考えてくださいました。
部屋に行ったけど、ニーノの姿はない。ントゥがカゴの中にくるっと丸まって眠ってる。でも、こっちに向けてふさふさの耳がさっと動いたから、眠ってないのかも?
「ニーノ、ここじゃないみたい」
「お影さまのところかもね。行ってみよう」
ジュスタのほうを振り返ると、坊主頭がいるからちょっと笑っちゃう。
見慣れない。
「どうしたの、エーヴェ?」
「ジュスタの髪がとっても短いので、面白いですよ」
「あっはっは! エーヴェも火の粉みたいだよ」
「ほー!」
火の粉頭! なんだかふわふわしちゃう。
ジュスタの周りを火の粉の気分でぴょんぴょんしながら、船の外に向かった。
「お影さまー」
布の山が船の側にうずくまってる。大きなかたまりに駆け寄る前に、目の前に人が立ちふさがった。
「近寄るな」
「おお、ニーノ! いました。頭見ますか?」
ニーノが頭を傾けて、火の粉頭を観察する。
「よし」
「うっふっふー! ジュスタもどうぞ」
ニーノが頭を上に傾けて模様あり頭を観察する。
「よし」
「よかったです」
「よかったね」
にこにこしてから、ニーノの向こうをのぞく。
「お影さま、寝てますか?」
「近寄るな。起きたときにどう動かれるか分からない」
「お! ……お影さま、暴れますか?」
ちょっと声を小さくする。
「分からない。おそらく、お怪我を治すために、眠っておられる。夕方には目を覚まされるかもしれない。だが、貴様らは近寄るな」
「分かりました」
ジュスタが頷いて、二人でそーっとその場を離れた。
よく考えると、お腹がすいてるので、お昼ご飯を持って湖の岸辺に行った。
お昼よりは日が傾いてる。ぽかぽかに温まった岩の上で、パンを食べた。干し果物も一緒だ。
ジュスタはご飯を食べず、隣でハサミの手入れをしてる。
湖の水面でときどき何かがきらっとする。丸いのがだんだん近づいてくる。
「ああ。ペロだな」
ジュスタが目を細める。
「なんでときどきしかきらっとしないのかな?」
「うーん」
じーっと水面を見る。
きらっとしてしばらく光らない。きらっとしてしばらく水面に飲み込まれる。
「そっか! 跳ねてますよ! 水の中でペロが跳ねてます」
陸だと一センチくらいしか跳ねられないけど、水の中だと水面まで飛び上がれるんだ。
「ペロー!」
ずいぶん近くまでやって来て、のそのそ岸にはい上がってきた。
「ペロ。また大きくなってるな」
ジュスタの近くにやって来て、置いてあったハサミにぞろーっと伸びかけたけど、ぱっと取り上げられた。空振りしたペロはそのまま通り過ぎる。
「ふふー!」
「細かい粉もあるだろうから、気をつけるんだよ」
ジュスタが声をかけるけど、ペロはのそのそ向こうに去って行く。
「ペロ、お影さまのところに行きますか?」
「どうだろう。ニーノさんもいるからね」
ペロは途中で止まって、引き返してきた。なんだかジュスタの言葉が分かったみたい。
*
竜さまの青い火の色がはっきりしてくる。白銀のたてがみもきらきらする。
夕方だ。
「くしゃん!」
くしゃみが出た。火の粉頭になっても、温かくはない。
「ほら、エーヴェ」
頭に布が舞い降りてきた。
「おおー! ジュスタ」
頭にくるくる布を巻き付けたジュスタがいる。真似をしてくるくる巻き付ける。
「お影さま、名前が付きますね」
「そうだね。お屑さま、どんな名前を考えてくれたかな」
「きっと素敵な名前です」
二人でターバン頭になった。
ぶーぅぅぅ
「む? なんの音ですか?」
地面に響くような音がする。
「船の向こう……お影さまかな?」
帆をかぶった首が、船の向こうからにゅっと持ち上がった。
「おお!」
ぶるっと首を振った。帆が飛んでいく。
「お影さま!」
ぶぉぉぉぉおおおおー!
「うお!」
またお影さまが怒ってます!
ぴょん、と船の後ろからお影さまが飛び出してきた。
船にぶつかったけど、跳ね返されたみたい。ニーノが船の上に浮かんでるのが、ちらっと見えた。
羽を広げて、こっちにどんどん走ってくる。
――起きたな。
竜さまの声が響いた。
ぶわっと湖から風が吹き付け、一瞬で風向きが変わる。
青い炎が目の前に降り立った。
「りゅーさま!」
お影さまの前に降り立つと、がぶっと口に噛みつく。
口を開けなくて、お影さまがびっくりしてる。
ぬぶーー!
ばさばさっと黒い羽が宙を打つ。
――焦るでない。屑が名を考えた。与えよう。
――そうじゃ! 九九九に分かたれたわしがみなで考えたのじゃ! この星の全部で考えた良き名なのじゃ!
お屑さまの声も聞こえる。
頭に洪水みたいに音が押し寄せてきた。
――ス……モフィナ……テ……デナーナ
音は大きすぎるのか小さすぎるのか、途切れ途切れしか聞こえない。
青い火の色が見えなくなるほど、竜さまの白銀のたてがみが輝く。
――ロ、ステージャヤ!
竜さまは噛みついてた口を外す。
白銀の光が消えた夕暮れの中、お影さまは羽を広げてきょとんとたたずんでた。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




