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17.散髪

 ニーノが姿勢正しく竜さまを見上げる。


 ――それでは、お影さまに名前をつけるのはいつになさいますか。

 ――うむ。あやつは今、寝ておるゆえ、夜がよかろう。屑が夜までに名を考えるであろう。


 竜さまは耳をぴるぴるっと震わせた。

「おくずさまが名前考えますか?」

 でも、今の竜さまはごきげんだから仕方ないかな?


 ――うむ! 美しく立派な名前を付けるのじゃ!


 お屑さま、意気軒高。どんな名前か楽しみ。

 ニーノがくるっとこっちを向く。

「貴様らは髪を切れ」

「お?」

 ジュスタと顔を見合わせる。そういえば、昨日お影さまに吐かれた火で髪がところどころちりちりになってる。

「念のため、火傷がないか確認する。短く切れ」

「分かりました」

 ジュスタは大きな掌で自分の髪をかき回す。

 むーっと頰をふくらませる。

「エーヴェ、りゅーさまが燃えてるとこ、もっと見たいですよ」

 ――うむ。

 こっちを見た竜さまの鼻からぼっと青い火が上がった。

 ごきげん竜さまの青い火、面白い。

「早く切れ」

 ニーノはいつも冷たい。


 ジュスタに負ぶさって船まで帰る。ジュスタはぐいぐい泳いでいくから楽しい。

「おー?」

「わ!」

 強い波が来て、一気に岸まで近づいた。

「ありがとうございます」

 ジュスタが後ろにお礼を投げる。

 そうか。竜さまが尻尾で波を送ってくれたんだ。

「りゅーさま、ありがとうー!」

 ――うむ。

 竜さまはばっと羽を広げた。一回火が消えて、またぼうっと炎が燃え上がった。


「さあ、じゃ、髪を切ろう。久しぶりだな」

「はい、久しぶりです」

 髪を切るのは(やしき)以来かも。

 邸では外に椅子を持って行って、そこに腰かける。頭を通す穴が空いた大きな布をかぶって、髪を切ってもらう。はさみは糸切バサミに似た形。いつも事前に湯がいて使う。ニーノかジュスタか、手が空いてるほうが切ってくれた。まだシステーナやガイオには切ってもらったことがない。でも、この二人が切ったら、どうなるかちょっと心配。

「まずはエーヴェ、どうぞ」

「はーい!」

 ジュスタは消毒したハサミを持って、じょきん、じょきんと切り始めた。

「短くしろ」

 近くを通過したニーノが言う。テーマイと一緒に船に戻るみたい。

「はーい」

「じゃあ、思い切り短くしよう」

 ハサミの音が重くなる。じゃき、じゃき、と鳴るたびに、赤い髪の毛が布の上にいっぱい散らかった。

 ちょっと頭がすーっとする。


「はい。おしまい」

 布が取られて、椅子から立ち上がる。髪の切れ端が残らないように体をふるふるしてその場で跳ねた。

「お! 気持ちいいです!」

 頭が、いい手ざわり。前の世界では試したことがないくらい短い。小学生の男の子ではよく見た髪型かな。

「あ、ペロ! ペロ!」

 ガラスの鉢をかぶったペロがやって来たから、鉢に顔を映してみる。

「おおー」

 赤い坊主頭なんて初めて見た。手ざわりも癖になる。


 頭をなで回してたら、切った髪をまとめたジュスタが、ガラスに映り込んだ。

「エーヴェ、俺の髪切ってくれる?」

「ほ!」

 思わず跳ね上がった。

「え? エーヴェが切っていいですか? ジュスタの髪、切りますか?」

「ハサミは突かない限り危なくないからね。エーヴェはもう使えるだろ?」

 消毒してたもう一丁のハサミを渡された。

 椅子に座ったジュスタの頭に手が届くように、低い踏み台を持って来て、上に立つ。

「どれくらい切りますか?」

「エーヴェとおんなじくらいに」

「分かりました」

 とっても短くするだけだから、なんとかなりそう。


 ジュスタのくるっとカールした髪を一房摘まむ。半分くらいちりちりに焦げてる。

「おー。ジュスタ、髪の毛に火が付かなくてよかったです」

「焦げてる?」

「ちりちり」

 ハサミに挟まる量をじょきんと切る。

 前の世界でも自分の髪さえ切らなかったから、本当に初めてだ。これでかっこいい髪型にしなきゃいけないとしたら大変だ。でも、髪を切る感触は心地いい。美容師も楽しそう。

 じょきん、じょきんと慎重に髪を切る。

 ぽかぽか()(ざし)でそよ風が吹いて、遠くで竜さまが湖をしっぽでばしゃばしゃしてる。

 ……とってもいい気分。

 ペロはジュスタがいるせいか、しばらく周囲を巡ってたけど、湖に行ってしまった。

 湖にガラスの鉢がのそのそ潜っていく。


「ジュスタ、切れましたよ」

 髪は長さが違うと、色が違って見える。特にジュスタの髪は黒いから、頭にちょっと模様ができちゃった。

 布を脱いで体を払ってから、ジュスタは頭をなでる。

「うん。すっきりだ」

「ペロに映してもらいますか」

 一緒に布の髪の毛をまとめながら、ジュスタに言う。

「そうだなぁ。でも、まずは髪を処分しよう」

 邸のときと同じやり方、切った髪の山に、火を付ける。切った髪の山はあっという間に火に呑まれて、火の粉に変わった髪の毛が空にも飛んでいく。焼き魚みたいな匂いは気になるけど、一気にメラメラ燃える髪は面白くて、すっきりした気持ちになる。

「さて、ニーノさんの所に行こう」

「あ、そうか。行きます」

 散髪の道具を抱えて、船を戻る。火傷がないか診てもらいに行くことにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 髪の毛の切り合いっこ、ロードムービーみたいですね。のどかです。 広げた羽に青い炎がぼっとつく竜さま、うん、カッコいい。 お屑さまはどんな名前を考えるのかな。今頃シスの腕で、うーんうーん考えて…
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