16.改めてお影さま
この世界は一度、いろんなものがいなくなってしまった。
草や木や虫や獣。魚や鳥や人間が。
それで古老の竜さまはこの世界にあったいろんな生き物を、他の世界から連れてきてる。
私もその一人。ニーノやジュスタやシステーナもみんなそう。
でも、今は、この世界で生まれた生き物もきっとたくさんいる。お泥さまの座にもアラセリやドミティラやロペがいる。
ただ、他の世界から連れてくる場合、私の経験から考えるに、今から別の世界に行きますよ、とか断らない。どの生き物も急にこの世界に来て、赤ちゃんになってる。植物なら種に虫や魚なら卵になってるのかな。
「この世界に、竜も呼びますか?」
元のにぎやかな世界にしたいって話だったから、竜さまたち以外を連れてきてると思ってた。
――聞いたことはない。
――竜は違うのじゃ! じゃが、古老が粗忽したのじゃ! まったく、意見有りなのじゃ! 古老に意見有りじゃ!
お屑さまはぷりぷりしてる。きっとなんにでも意見があります。
「本当は連れてくるつもりじゃなかったのに、連れてきちゃったってことですか?」
ジュスタが首を傾ける。だとしたら、黒い竜さま、ちょっと気の毒だ。
――細かく分けることは難しい。
竜さまがあげた鼻息が青い炎になって立ち上る。
――古老がどうやって連れてくるかは分からんのじゃ! 竜もこの世界におるゆえ、連れてくるかもしれんのじゃ! じゃが、意見有りじゃ!
そういえば、竜さまたちは「以前にこの世界にあったもの」というだけで連れてくる。種類は選ばない。
だったら、どうやってこの世界にあったものを見分けてるのかな。
古老の竜さまに会ったら聞いてみなきゃ。
――古老は遠くまで飛べるのじゃ。遠くから連れてくるのじゃ。
――うむ。深く高く飛ぶのじゃ。
お骨さまと竜さまは誇らしげだけど、意味はよくわからない。
「他の世界から来たら、竜の座に連れて行きませんか?」
少なくとも私は竜の座に連れて行ってもらった。
この世界では竜さまの近く――竜の座以外は謎の毒がいっぱいで、生き物は生きられない。だから、他の世界から来た生き物は竜の座に連れてこられて、大きくなると思ってたけど。
――ケンカ場では誰も気づかぬのじゃ!
「なんと」
確かに、世界中にいるお屑さまさえ入れない場所に落ちたら、他に誰も気がつけない。
黒い竜さま、とっても気の毒です。
――竜の座の近くに落ちない生き物もいます。黒き竜さまもその例でしょう。
ニーノがテレパシーで話す。
私は砂漠に落っこちて、ニーノが拾いに来てくれた。竜さまが気がつく範囲なら、拾ってもらえるけど、気がつかないところに落ちたらそのままだったのかな。
竜の座から離れたところに落ちて、そっと死んでしまった生き物のことを考えると、悲しい気持ちになる。
――火を吐くるほどに大きくなったとは、見事なのじゃ! たいそう見事なのじゃ! 早く良い名をつけるのじゃ!!
「そうですよ!」
一人だったのに竜さまと同じくらい大きくなるなんて、立派な竜さまです。
「でも、名前が付けば、この世界の竜さまになりますか? お骨さまが見ても、分かりますか?」
そもそもどうしてお屑さまが他の世界の竜だって分かったのか不思議だけど、名前がつけば解決なのかな。
――うむ。まどろみどきに自在に遊び、他の竜ともつながろう。
「おおー!」
黒い竜さま、竜さまたちとおしゃべりできるようになるぞ。
ということは、私たちともしゃべれるってことかな?
俄然、わくわく!
――竜ではあるが、まどろみどきに入れぬゆえ、影が映ったのであろう。
――山が見えぬのも道理なのじゃ! 山がまどろみどきに入ったゆえ、あやふやな影は消えてしまったのじゃ!
「なるほど。お影さま、であってたんだね」
「お! そうですね、ジュスタ!」
シャドウドラゴンじゃなかったけど、影は本当だった。
――なんじゃ? おかげさま??
――エーヴェが黒い竜さまにまどろみどきで会ったあと、そう名付けていました。
――人が呼びならわすには良い名である。
竜さまに褒められてニンマリする。
――影か! 呼び名は最初に頭に浮かぶものが良いのじゃ! ぽはっ! 呼び名が先に決まる竜は初めてなのじゃ!
「え! お影さまで決まりですか!」
――そのようだ。
ニーノがあっさり言う。
黒い翼竜、黒き竜、お化け竜さま、いろいろ読んでたけど。
「おおおー! お影さま!」
竜さまの名づけ親になりました!
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