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12.ごきげん竜さま

 竜さまは船の近くに舞い降りて、どさっと翼竜を足下に置いた。翼竜は動かない。気絶してるのかな?

 竜さまが、ばっば、と口を開けた拍子に、青い炎がぼっ、ぼっと空に吐き出される。

「おおー!」

 そっか。口からも硫化ガスが出てるんだ。


 ――見よ。大きな獲物なのじゃ。連れ帰ったぞ。


 ばっと広げた羽の青い火が風圧で一瞬消えて、また燃え上がった。


 ――大きな獲物なのじゃ。友、よかったのじゃ。

 ――うむ。

 ひょいひょい近寄ってきたお骨さまも、ばっと羽を開き、竜さまは頷く。

「お見事です。お怪我は?」

 ニーノは甲板からさっと翼竜の側に飛んで行った。

 うーん、ニーノは飛べて便利です。


 竜さまが驚いたように二、三歩退(さが)る。

 ――まだ硫化ガスが出ておるのじゃ。ニーノには毒である。

「いえ。硫化ガスは出る端から燃えておりますので、ここまで届いておりません。ご安心ください」

 ――うむ。友は青い火に巻かれておるのじゃ。珍しいのじゃ。

 ニーノとお骨さまに言われて、やっと思い出したみたい。竜さまはまた、ばっば、と笑う。

 ――そうであった! この黒き竜が火を噴いたのである。よく燃えておろう。

 胸を反らして、羽を広げる。

「はい! りゅーさま、とってもかっこいい!」

 ――うむ。

「とても偉大なお姿ですね」

 ――うむ。そうであろう。

 私とジュスタに応えてから、竜さまはバターンとひっくり返った。

「りゅーさま!」

「竜さま!?」

 そのまま、ごろごろ転がり始める。

「なんと!?」

 ――満足である。

 竜さまはごろごろ転がって行ってしまう。

 ――友! わしも遊ぶのじゃ。

 お骨さまも羽を畳んで上手に転がった。

 ――友、たいそう愉快である。

 竜さまが転がると、下敷きになった岩は粉々になる。ばがん、ばがん、とあちらこちらの岩を砕きながら、転げ回ってた竜さまは、そのうち、船のほうに転がってくる。

「うわ! りゅーさま!」

 船が潰される!


 竜さまの大きな体は、見えない壁に(はじ)かれ、向こうに転がった。

「ぅわー。どきどきした」

 ジュスタが胸をなで下ろしてる。

「ニーノ!」

 ニーノが片手を前に伸ばしてる。空気の壁を作ってくれたみたい。

「竜さま、船が潰れますので」

 ごろりと身を起こした竜さまが大きなあくびをした。

 ……炎を飲み込んじゃわないかな?

 心配をよそに、竜さまは金の目をぱちぱち瞬いた。

 ――うむ。それは一大事である。

「お怪我は?」

 ――うむ。もしかすると、力加減を誤ったかもしれぬ。見てやるとよい。

 言い残して、竜さまは首を地面に預け、目を閉じた。

 心なしか、たてがみの光が弱くなる。

 ジュスタと顔を見合わせた。

「りゅーさま、なんか変ですね!」

「うん、ごきげんだね」

 ――友は寝ても、燃えておるのじゃ。

 転がってきたお骨さまが、上手に立ち上がって、ぱかっと口を開けた。


 ジュスタと一緒に船を出て、黒い翼竜の側に行く。

「うわー。やっぱり大きいです!」

 竜さまよりは一回り小さい。

 ピクリともしない体のあちこちを、ニーノが見て回ってる。

「ニーノ、どうですか?」

「お体が黒いから、傷が分からない」

 確かに星明かりだけじゃ、何がなにやらだ。

「ペロ。ちょっといいかな」

 ジュスタの声が聞こえる。見てみると、ニーノと反対側にペロがいる。

「お!」

 ペロが急に光った。

「ヒカリゴケですね!」

 ペロはヒカリゴケを飲み込むと、なぜか明るく光る。

「でも、ペロはニーノの近くに行きませんよ」

「構わん。ジュスタが傷の場所を見つければ、それでいい」

「おお、そうです!」

 せっかくなのでジュスタとペロと一緒に、翼竜に怪我がないか見て回る。

 ――どうじゃ? 黒き竜は元気か?

 お骨さまもやってくる。

「あ、ここ、血が出てます」

「こっちも怪我してますよ!」

 ニーノがさっそくやってくる。

「ニーノさん、何か手伝えることは?」

 ペロが遠くに行ったので、ニーノの手許は暗いままだ。

「いや。構わん。貴様らはそろそろ休め」

「えー!」

「食事の片付けもまだだろう」

 そういえば、食べてまっすぐここに来ました。


「お骨さま、この竜は竜さまなんですか?」

 ジュスタがお骨さまに不思議な質問をしてる。

 振り向くと、お骨さまの首から頭に移動していく光が見えた。

 ペロ、素早い。

 ――友が竜と言っておったので、たぶん、竜なのじゃ。

「たぶん?」

 お骨さまは首を傾ける。

 ――竜はみんな竜が分かるのじゃ。しかし、わしはこの竜が竜と分からないのじゃ。たぶん、名前がないのじゃ。

「竜さまの名前!」

 確か前に、竜が生まれると他の竜が名前を付けるって言ってた。竜が生まれると自然に分かるって話だったけど。

 ――名前がない竜はおらぬ。でも、ここに竜がおるのじゃ。不思議なのじゃ。

 お骨さまはかたっと首を傾ける。

「不思議ですね」

 一緒に首を傾ける。

「竜さまが起きたら、聞いてみます」

「エーヴェの話も、話さないとね」

「はい」

 謎はたくさんあるけれど、ジュスタに頷いて、食事の片付けに船内に戻った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 酔いどれ竜さま、陽気ですね。フワフワな陽気なので酔っ払ったときに間一髪のゴロゴロみたく、いろいろ武勇伝がありそうです。 山が崩壊したりだとか、山が変形したりだとか、とんでもない場所で寝こけた…
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