11.大きな獲物
「ペロー!」
大声で呼びながら、食堂へ駆けこむ。ツボの口からうぞうぞ出るところで一時停止のペロを発見。
「おお! よかったです!」
いつかの砂漠みたいに、水が入ったツボになって、シーンとしてるかと思ったけど、出てくる元気があるみたい。
「ペロ、大丈夫ですか? 減ってませんか?」
ツボの側にしゃがんで様子を見る。船の中はもう暗くて、ぼんやりしたヒカリゴケの灯りじゃよく分からない。
ともかく、減った場合のために水をあげよう。
台所で水を器に移してたら、入口にペロがやって来た。
「やっぱり、喉渇きましたか。めーしーあーがーれー――」
かけた水は、みるみるうちにペロの体に吸いこまれる。
……いつもより、なくなるのが早いかな?
器の水を全部あけた。ペロはしばらく止まってたけど、もう水がないことが分かったのか、のそのそ食堂へ戻り始める。
器を台所へ戻してから、火種を取って、食堂のテーブルに置かれた灯りに火を付けた。
ペロの様子を詳しく見る。
「わ! ひどい!」
さっきは気がつかなかったけど、食堂の隅に変形したガラスの鉢が置いてあった。三つしかないペロの持ち物の一つが壊れて、とっても残念。
「でも、きっとジュスタが治してくれますよ」
ペロが寄ってきたので声をかける。ペロはかぶってたツボからはい出して、変形したガラスの鉢に近づいた。周りを回る。
……入るところを探してるのかな。
二周くらいして鉢にひっつき、そのまま飲みこみ始めた。もともとペロが収まるサイズの鉢だから簡単には飲みこめない。薄くなりながら全部を覆って、ひび割れを見つけてそこから中に入っていく。
「おおー」
やっぱり鉢だから中に入っておきたいのかな? ひびやらひしゃげた口から入り込むけど、反対側にも亀裂があってまた外に出て来ることになる。迷路か、巻き貝の殻みたい。進化しすぎたアンモナイトかも。
「壊れた鉢も楽しいですか?」
それとも、どんな形なのか知りたいだけかな。あちこちの裂け目から顔を出しては、引っ込めて、まだまだ探求は続きそう。
「貴様、戻れと言ったろう」
「わ!」
急に声がかかって飛び上がった。
「ニーノ!」
「ここに座れ」
命令されて、テーブルの椅子を引く。
ぐーきゅるるるるる……
さっき塗った薬草をニーノがはがす間に、お腹が鳴った。
「あー、お腹すいたね。俺もだ」
「台所に用意がある」
「はい」
ニーノに言われて、ジュスタが台所へ行く。
「ご飯、何ですか?」
「粥だ」
また新たな薬草を顔に付けられる。さっきの薬草より、とろっとした薬で、すーっと染みた。
「しばらくじっとしていろ。――ジュスタ、干しサーラスがある」
手当てを終えると、ニーノは台所へ行ってしまった。
横目で見ると、固まってたペロがまたうぞうぞ動いて、歪んだ鉢で遊びだしてた。
「いただきまーす」
暑い場所で熱いお粥は合わない気がしたけど、しっかり溶けたお粥がじんわり体にしみてなんだか元気になってくる。今日はいろいろ大変なことが立て続けに起こったから、ようやく大安心。
干しサーラスをお粥に割り入れると、魚の塩気が付いてさらに元気になる。
「滋味です!」
「はは、お屑さまが言ってたね」
ジュスタもにこにこしながら、お粥を食べてる。
「いったい何が起こった?」
お粥を口に運びながらニーノが聞いた。
「何が起こったんだっけ?」
ジュスタと一緒に思い出しながら、起こったことを順に話す。
「つまり、あの黒い竜さまが溶岩に足跡を残してたご本人……ってことでしょうか」
サーラスを噛みながら、ジュスタが言う。
「そうだな。竜ほどに大きな生き物が、たくさんいるとは思えない」
「そうだ! エーヴェ、一つ思い出しましたよ」
「なんだ」
はいはい、と手を上げると、ニーノの冷たい目がこっちを見た。
「あの黒い竜さま、エーヴェ、たぶん会ったことあります」
「え?」
蜂蜜色の目は見張られたけど、青白磁の目は変化なし。
「それは、まどろみどきでお会いした竜さまを言っているのか」
「おお、ニーノ、すぐに分かります! そうです! ぶおーって声が、似てます!」
まどろみどきのお影さまは影だったから、前肢があったか分からないけど、シルエットも似てたと思う。
「……ふーん? でも、それはどういうことなのかな?」
ジュスタは首を傾ける。
ちょっと考えた。
「分かりませんね」
ニーノが頷いた。
「貴様が言いたいことは分かった。竜さまにお話ししてみよう」
「おお、はい!」
竜さまなら、きっと理屈が分かるはず。
――おお。友が帰ってきたのじゃ。
二杯目のお粥を食べ終わったところで、お骨さまの声が聞こえた。
「りゅーさま!」
ペロが真っ先に廊下に飛び出した。さっきまで遊んでたいびつな鉢は放置。たぶん、これだとうまく進めないんだな。
食器の片付けは後回しにして、みんなで甲板に向かう。
「おお! りゅーさま、まだ燃えてます!」
甲板に出ると、岩山を越えてこちらに飛んでくる竜さま――正確には青い火が見えた。
やっぱり地面を移動するより飛ぶほうが早い。ぐんぐん近づいてくる。
「あれって……」
ジュスタが目を丸くした。
「――お怪我がなければいいが」
ニーノはちょっと険しい顔。
「ニーノ、どっちのことですか?」
隣のニーノを見上げた。
「どちらもだ」
「おお……そうですね!」
青く燃える竜さまは、親猫が口で子猫を運ぶみたいに、黒い翼竜をくわえてる。
ニーノの言葉に納得して、船の側に降り立つ竜さまを迎えた。
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