10.青い火は特別
ニーノはてきぱきントゥを布でくるむ。
――分かったのじゃ。わしも船に戻るのじゃ。
「え? 何ですか?」
ジュスタが眉を下げた。
「ニーノさんが竜さまに、ここだと手当ができないから、戻るってお伝えしたんだよ」
見ると、青い火をまとった竜さまと翼竜は、だいぶ遠くで暴れてる。それで、テレパシーを使ったんだ。
ニーノは立ち上がり、お骨さまを見上げた。
「私は先に参ります。――貴様らはお骨さまと戻れ」
後半は私たちに向けてだ。
――わしも船に戻るのじゃ。
「はい!」
――承知した。
竜さまの声も頭に響いてくる。
ニーノのテレパシーは聞こえないけど、竜さまの声は遠くても聞こえる。偉大。
「りゅーさま、ずっと燃えてますね」
さっきから竜さまは青い火をまとってる。かっこいいけど、どういうことなんだろう?
「まだ硫化ガスが出ておられる」
ちらと竜さまに視線を向けて、ニーノはふわっと宙に浮いた。
そのまま、あっと言う間に岩山の向こうに飛んで行ってしまった。
「硫化ガス?」
……あ、そうか、竜さま硫黄食べてた。
「黒い竜さまが吐いた火が、ガスに燃え移ったんだな。あんな色の火になるなんて」
ジュスタも感心してる。
ガスがずっと出てるから、青い火をまとってる。じゃあ、ケンカのとき、いつも青い火が出てるってわけじゃない?
とっても珍しいです!
でも、ずっと燃えてるのはちょっと心配。
「お骨さま、りゅーさま、熱くないですか?」
――あれくらいなら熱くないのじゃ。
お骨さまだって火を浴びたけど、けろっとしてる。やっぱり竜は火に強いのかも。
――さあ、戻るのじゃ。
お骨さまは、いそいそ方向転換した。
「ペロはまだ、お骨さまにくっついてますか」
腰骨の裏のペロを見上げる。まだまだとっても薄っぺらい。
「ペロはしっかりくっついてるから、このまま戻ろうか。ントゥが心配だしね」
竜さまを振り返る。
ケンカは、さっきまでと比べると、静かだ。
「竜さまに任せよう」
――友なら安心なのじゃ。
「はい」
近くに行っても、危ないだけです。
「ケンカするりゅーさま見たいけど、我慢です」
「あっははは!」
ジュスタが笑って、頭をぐりぐりしてくれた。
お骨さまは大急ぎで岩山を駆け戻る。星明かりだけなのに、危なげない足取り。
振り向くと、溶岩は鈍く赤く輝き、青い火はすっかり遠い。
「りゅーさま、来てくれてよかったですね」
「ニーノさんもね」
――友はとっても強いのじゃ。
お骨さまは振り向かずにひょいひょい進む。
前方の地面に、光が見えた。
「船です!」
「湖にも星が散ってる」
お骨さまが弾むから、視界がとっても揺れる。
湖の白っぽい水は、やっぱり夜でもどこか明るい。細かな光が上にも下にもいっぱいの景色。
――急ぐのじゃ。
「うきゃー!」
お骨さまが、斜面を滑り降りた。
船に着いて、ニーノの部屋に駆け込む。
「ニーノ! ントゥは大丈夫ですか?」
叫んだ後に、吸いこんでしまった匂いに顔をしかめる。鼻につんと来た。
「骨が折れてもおかしくない高さから落ちたようだが、うまく受け身を取ったな」
「おおー! ントゥ、えらい!」
左の後ろ足を包帯でぐるぐる巻きにされたントゥは、こっちを上目遣いに見てる。
不服そう。
――ントゥ、元気か?
お骨さまが船の窓をのぞき込んでる。ントゥは耳を立てて、上体を起こした。
――ントゥ、元気なのじゃ。よかったのじゃ。
きょきょきょきょきょ……
お骨さまの羽の軋みが聞こえて、ントゥの尻尾がぱたっぱたっと治療机を叩いた。
「エーヴェ、貴様も診せてみろ」
「エーヴェですか?」
ニーノが体のあちこちを確かめる。最後に、顔にすりつぶした薬草を塗られた。
鼻が薬草の匂いでいっぱいだ。
「髪が縮れている。あとで切ってもらえ」
「おお」
触ってみると、髪がちょっとちりちりになってる。それに顔がひりひりしてきた。
火の息の側にいたんだもんな。思い出すと、ちょっと怖い。
「ジュスタはどうした」
「ペロを連れてきますよ」
なかなかペロが離れないから、お骨さまと一緒になだめてる。私はントゥが心配だったから先に来た。
……お骨さまがこっちに来たんだから、ジュスタも来るんじゃないかな?
「エーヴェも治してもらったんだね」
噂をすれば、ジュスタが入ってきた。ニーノが眉をひそめる。
「ジュスタ、貴様も来い」
明るいところで見ると、ジュスタも髪の毛が一部、ちりちりになってた。
やっぱりジュスタも軽い火傷があるみたい。
「ジュスタ、ペロは?」
ニーノに診てもらってるジュスタに聞く。
「食堂にいるよ。本当は連れてきたかったけど」
ニーノがよくいる場所に、ペロは近づかない。
「じゃあ、エーヴェ見てきます!」
「うん。ツボに入ってると思うぜ」
「はーい」
「あとで薬草を替える。戻って来い」
「はい」
返事をして食堂へ走った。
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