8.胸がぎゅっとなる
アクションシーンは筆が速いです。
何度か縄で岩を飛び移り、ジュスタは足を止めた。
肩を揺らして、大きく息を切らしてる。
「おお! ちょっと休憩!」
「うん。……思ったより、お骨さまたちから離れちゃったな」
そう言って、ちらっと背後に視線を投げた。
まだニーノと翼竜が見える。
翼竜はニーノに体当たりしてるけど、ニーノは見えない壁で体を守ってる。
ニーノは空気を固くして壁が作れる。お泥さまの座では、炎に巻かれても、酸素を減らして消火しちゃったことがあったから、きっと大丈夫。
ジュスタも同じ考えみたい。呼吸を整えると、その場に屈む。
「乗って。お骨さまのところに戻ろうぜ」
「はい!」
翼竜はニーノがなんとかしてくれるけど、お骨さまたちが心配です。
鉤を投げて崖を飛び渡るジュスタを見て、はっと思い出した。
「ジュスタ! さっき金色でした!」
体から淡く金色の光があふれてたなぞの現象。
「ああ、ちょっと縄に特性を使ってみたんだ」
「特性!」
空気に影響するのがニーノの特性なら、ジュスタの特性は大雑把に言うと「強くする」。
「俺の特性は熱くなろうとする物をより熱く、冷たくなろうとする物をより冷たくする。縄はぴんと張ってるだろ? それが強くなったら、より引っ張られるかなってさ」
「ほー!」
それで急に体が上に持ち上げられたのか!
「ジュスタ、かしこい!」
「ありがとう。こんなこと初めてやったから、俺もびっくりで、その後うまく動けなかったよ」
ジュスタは、にへらっと笑う。
咄嗟にそんなことができたのは、きっとジュスタがいろんな物を扱って、加工してるからだ。
「すごいことです!」
おんぶで肩につかまってなかったら、拍手したい。
「うん。我ながらうまくやれたかな? あ、あれ――」
岩壁の向こうに白い物がちらりと見えた。
心臓が、ぎゅっとなる。
溶岩の岸辺で、大きな骨がばらばらになってた。
「お骨さまー! お骨さまー!」
遠いのは分かってるけど、叫ばずにいられない。
「急ごう」
ジュスタも真面目な声で呟いた。
「お骨さまー!」
地面に降り立つやいなや、大急ぎで駆けつける。
「大丈夫ですか? お骨さま! 大丈夫ですか?」
炎に巻かれたと思うけど、骨は骨のままなので、けがをしてるのか、よく分からない。ともかく、お骨さまの頭を探した。
――ばあ! なのじゃ。
「うひゃ!」
上顎の骨が浮かび上がったかと思うと、覆いかぶさってきて、びっくりする。
「お骨さま!」
ジュスタも駆け寄ってきた。
――もう怒っておらぬか?
上顎がきょろきょろ辺りを見回して、瞬く間に元の形に戻っていく。
「お骨さま、びっくりしました! エーヴェ、びっくりしました!」
両手を上げて抗議した。
まだ胸がドキドキしてる。
お骨さまは足下をのぞき込んだ。
――ントゥは大丈夫か? ントゥは平気か?
はっとして、お骨さまの足下を見る。
そこには、黄色い毛の塊が頼りなく横たわってた。
物も言わずに、ジュスタがントゥに駆け寄る。
「ントゥ!」
抱え上げられたントゥは、くったりだ。いつも自分できれいにしてる毛並み。そのあちらこちらが縮れてる。
「ニーノさん、ントゥに息が、ないみたいです……」
ジュスタの報告に、緊張で体が固まる。
お骨さまも口を半開きで固まってしまった。
「はい……はい……」
ジュスタはニーノの指示に従って、ントゥを布にくるみ、柔らかい布で体をこする。
――ントゥ、ントゥ、しっかりするのじゃ。
はっとしたお骨さまが、首をかしげかしげして呼びかける。
「ントゥ、頑張ります!」
一緒になって声をかけ、ふと視界の端に見えた物に、さらにショックを受けた。
慌てて駆けつけて、拾い上げる。
ゆがんでひび割れたガラスの鉢。
空っぽだ。
「……ペロ」
ぶんぶん首を振って、周囲を見た。
「ペロー! ペロー!」
大変なことです! 大変なことです!
大慌てで駆け戻り、ジュスタに鉢を見せる。
「ジュスタ、ペロがいません!」
ジュスタの目がまん丸になる。そのまま、ぎゅっと眉根を寄せた。
「探さないといけない。――ニーノさん」
「着いた」
頭上から声がして、びっくりだ。
「うぇっ!?」
「さっきの竜は大丈夫なんですか?」
ジュスタも一瞬、息をのむ。
地面に降り立ったニーノは頷いた。
ヴおぉぉぉー――ん!
「問題ない」
「え! 追ってきてますよ!」
激しい咆哮の主は羽の一打ち、一打ちでぐんぐん迫る。ニーノは落ち着いた手つきでントゥを診た。
ふと、岩山の向こうの空に、ほの明るさを感じた。
「竜さまがいらっしゃる」
ごうっという竜巻のような風が起きた。
翼竜との間に、白銀の光が揺らめく。
ぐわぁあああああああー――――――!
「わきゃっ!」
激しい咆哮に飛ばされて、ころんっと尻餅をついた。
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