6.影の正体
――おお! びっくりなのじゃ!
お骨さまがばっと羽を広げた。
岩山の麓の暗がりに、大きな影が動いてる。体の長さはお骨さまの半分くらいだけど、顔の高さはちょっと低いくらい。岩の塊か巨大なクマかと思ったけど、違う。
地面に鼻を寄せてたその生き物は、羽を広げたお骨さまに気がついたみたい。
後ろに退って大きく羽を広げた。
「羽!」
そう、羽! コウモリみたいに被膜がある大きな羽。
「竜です!」
陰にいるからあまり色ははっきりしないけど、全体に黒っぽい。角が生えた頭に大きな顎をした頭。たくましい後ろ足と太いしっぽがある。
「竜ですよ! ジュスタ、竜ですよ!」
ジュスタは驚いたような緊張したような顔で、黒い竜を見つめてる。
――びっくりなのじゃ。向こうもびっくりしておるのじゃ。ばあ、もせぬのに、お互いびっくりなのじゃ。
きょきょきょきょきょ……
お骨さまはすっかり大喜び。誰かをびっくりさせるのが好きだから、自分がびっくりしても楽しいのかもしれない。
「お骨さま、竜ですよ! やっぱり、竜さま、いました!」
喜んでるお骨さまに両手を振って、アピールする。
――おお! お? 竜?
お骨さまはかたっと首を傾けた。
――竜ではないのじゃ。竜の気配はしないのじゃ。
「え?」
驚いて、もう一度、大きい生き物を見てみる。
二枚の羽、角の生えた大きな頭、恐竜みたいなしっぽ……。細かいところは見えないけど、とっても「ドラゴン」の形。
お骨さまは黒い竜にひょいひょいっと近寄る。
黒い竜は二歩、三歩と下がる。
――こんにちは、なのじゃ。わしはお骨さまなのじゃ。
あいさつして、お骨さまはじっとした。
お骨さまの「仲良くなろう」の合図。
自然と笑顔になった。
うおぉぉおー――ん!
突然の大きな音にびっくり。
後ろにジュスタがいなかったら、ひっくり返ってお骨さまの上から落っこちてた。
「わ!?」
――おお?!
お骨さまが驚いて首を立てる。
――どうしたのじゃ?
大きく吠えた黒い竜は、体をこわばらせて顎を引いた。
「お骨さま、気をつけて!」
ぅー――ヴぁん!
ジュスタとントゥの声が同時だった。
空中に炎がおどる。
視界を焼く明るさと、体の前面に急激に迫ってきた熱。
ぽかん、と口を開けた。
お話の中で、何度も見てきた光景。
炎を吐くドラゴン。
それが、目の前にいる。
「うわっ!」
お骨さまの急な動きに、体が横に揺さぶられた。ジュスタがまた支えてくれて、落ちずに済む。
――どうしたのじゃ? 危ないのじゃ。
お骨さまがかたっと首をかしげた。
ジュスタに支えられたまま、吐き出される炎が空中を焦がして消えるのを、ぽかんと眺める。
……何もないのに火が燃えるって、不思議だ。
ヴおぉぉおー――!
黒い竜が吠える。
空中で消えゆく炎が、その姿を照らし出した。
前肢がない。強い後肢で体を支えて、羽を大きく広げてる。
……ワイバーン!
「お、怒ってますよ!」
――困ったのじゃ。
翼竜が威嚇するので、お骨さまはひょいひょいっと離れる。翼竜はまた火を吐こうとしてるのか、顎を引いたさっきの体勢。
――む? なんと。
お骨さまは急に向きを変えた。翼竜のほうへ駆け戻る。
「え? お骨さま!?」
ワイバーン、きっと今から火を吐きます!
「エーヴェ、あそこ!」
ジュスタが体にロープを巻きながら、前を指す。
翼竜の前、黒い岩棚に小さな黄色が見える。
あれは……。
「ントゥ!」
お骨さまの頭の上から落っこちたんだ!
翼竜が大きく顎を開いた。
勢いよくおどり出る炎に、お骨さまは突っ込んでいく。
「ふおっ!」
支えがなくなって、宙に投げ出された。
次の瞬間には、炎の息の真上にジュスタと浮き上がってた。
そのまま、さらに上がる。まるで、漕ぎすぎたブランコみたい。
「――! お骨さま!」
炎に包まれたお骨さまが、ばらばらになって崩れる。
見えたのは一瞬で、次の瞬間には翼竜の背中にいた。
ジュスタが、さっと腕を振るうと鉤が戻ってくる。
そのまま、抱えられて翼竜の背後に降り立った。
途中な感じですみません。間をおかず、次を上げる予定です。
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