5.楽しい帰り道
地面を眺めてた視線を上げて、夕暮れ前の淡い空の色を見つけた。
「おわ! ジュスタ! だいぶ空が暗いです!」
「あ、本当だ! いけない、いけない」
ジュスタも空を見上げて、慌てて集めた石をまとめ始める。
お昼ご飯を食べた後に、岩の表面に黄色っぽい亀裂が続いてるのを見つけた。ジュスタによると、鉱石の一種。ジュスタが持ってきてた道具で岩をたたくと、内側に結晶が見つかった。
結晶はギラギラした金色でとっても派手。まるで金属みたい。外からは黒に黄色が混ざった岩にしか見えないのに、中にこんなギラギラがあるのが面白くて、ジュスタと一生懸命掘ってたら、だんだん手元が見えなくなってきた。
「急ぎます! 急ぎます!」
「うん、そうだね。これ、エーヴェが持ってくれるかな」
隣でせかしてたら、道具の包みを渡された。石は全部ジュスタが運ぶらしい。
「ントゥー! お骨さまー!」
遠くでのんびりしてるお骨さまに呼びかける。
石が見つかったときはお骨さまも興味津々でのぞき込んだけど、ずっと座り込んで掘るのは退屈だったみたいで、ントゥとのかけっこから、今は尻尾でントゥの縄跳びをしてる。
――エーヴェ、どうしたのじゃ?
お骨さまがひょいひょい近づいてきた。
「暗くなるので帰りましょう」
お骨さまは空を見上げて、ぱかっと口を開ける。
――本当じゃ。お日さまがずいぶん地面に近いのじゃ。ントゥ、帰るのじゃ。
当然追いかけてきてたントゥは、あっという間にお骨さまの頭の上まで駆け上った。素早い。
「ペロー! ……お!?」
もう一人を探して周囲を見回すと、ペロは三つも石を飲み込んでる。金色の反射のせいか、ちょっとギラギラしてる。
「なんと。ペロはそんなに持って帰りますか!」
こっちじゃなくてお骨さまの気配に近寄っていくペロは、通った後に等間隔で三つの石を残していった。
「なんだ、結局要らないですよ」
拾い上げて道具の包みと一緒にリュックサックにしまう。
「おまたせ、エーヴェ。お骨さま。さあ、行こうか」
石の包みを背負ったジュスタに抱えてもらって、お骨さまの肩の上に連れて行ってもらった。
――船に帰るのじゃ。夜が来るのじゃ。
お骨さまは軽い足取りで船に向かって進み始めた。
緩やかな岩場を通り抜け、枯山水地帯に近づくころにはだいぶ薄暗くなっていた。
昼よりも溶岩のあちこちでむき出しになった中身が、赤くともったり、消えたりしてる。なんだかゆったり呼吸してる怪しい生き物みたい。
「燃えさしにふいごで風をおくってるみたいだ」
背後に座ってるジュスタの声に、うなずく。
「暗くなると、ちょっと怖いですね」
――怖いのか? それはよくないのじゃ。どうすれば、怖くなくなるのじゃ?
かたっと首を傾げたお骨さまににっこりする。
「大丈夫です! お骨さまがいるから、怖いよりも楽しいが強いですよ!」
ントゥがお骨さまの頭の上で二、三度跳ねる。同意してもらった気分。
「そうだ! 歌を歌います」
「とってもいい考えだ。エーヴェ、どうぞ」
ジュスタに応援してもらって、胸を張る。
「雷と とっても強い風の先 ぱっと ぽっかり 青い空
きれいで 浅くて あったかい
みずいろみずうみ 広がって
みんなで来ました 地面のかっか!
地面と地面がぶつかって 黒い岩山 火のお山
どろーり たくさん ひろがった 黒 黒 赤の溶けた岩
お日さま 沈んだ空の下
ゆっくりすやすや おーやすみ!」
お骨さまの背中の揺れと、歌の調子がぴったりだ。
まだまだ続く帰り道も、楽しい。
きょきょきょきょきょ……
――とっても楽しい気分なのじゃ。
お骨さまが羽をきしませた。
途中からは、歌詞を覚えたジュスタとも声をそろえる。繰り返し歌いながら、枯山水地帯を過ぎて、岩山に近づいた。
すっかり夕暮れ。岩山の上のほうだけ、赤い夕陽が照らしてる。
――山のてっぺんが赤いのじゃ。
お骨さまも同じものを見てた。
思わず、顔がにんまりする。
「――お骨さま!」
ジュスタの緊張した声にびっくりした。
知らず、視線を前に向ける。
そして、もっとびっくりする。
頂上の明るさのせいで、より暗く見える岩山のふもとに。
それはそれは、大きな影がいた。
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