3.足跡を追って
くぼみをもう一度見下ろす。
「これ、足跡ですか? 大変なことですよ!」
何しろ、私が寝っ転がれるサイズだ。
こんなに大きい足跡……?
「竜さまですか? もしかして、竜さまですか?」
骨の上なのに、思わず立ち上がりそうになる。
……また新たな竜さまに会えるのかな?
期待を込めてジュスタを見上げたけど、ジュスタは首をかしげた。
「どうなのかな? お骨さま、この辺りに竜さまはいらっしゃいますか?」
お骨さまも首を傾ける。
――知らぬ。きっとおらんのじゃ。
お骨さまはぴょいぴょいまた次の跡のところに行った。
――竜の気配は分かるのじゃ。わしは骨じゃが、竜の気配なら分かるのじゃ。
「おお……」
じゃあ、竜さまはいないってことなのか。
がっかりしたのもつかの間、むくむく不安になってきた。
「こんなに足跡が大きいですよ! 竜さまじゃないなら何でしょうか?」
お骨さまの足くらい大きい。そんなに大きな足跡をつける動物……。
「危険です! 危ないですよ!」
「そうだね。竜さまがた以外に、こんな大きな生き物いるのかな?」
「は! そうだ、ムカデです!」
前にお泥さまの座から邸に帰ってくる途中、座の端辺りの森ですごく大きなムカデに会ったことがある。
「端の森は木もとっても大きいです! きっとここにはすごく大きな何かがいますよ!」
竜さまの座以外の場所は、生き物が大きくなるのかもしれない。
「大きな何か! それは危ないね」
ジュスタが周りを見渡す。
相変わらず、遠くに荒れ模様の空が見える。
――ないのじゃ。
お骨さまは次のくぼみをのぞき込んで、ぱかっと口を開けた。
――跡につれて行けば、大きな何かに会えるのじゃ。
お骨さまは跡をのぞき込むのを止めて、ぴょいぴょい進み始める。
「え! 大丈夫ですか? 怖いものかもしれませんよ!」
――怖かったら逃げるのじゃ。大丈夫なのじゃ。
お骨さま、全然心配してない。
「そうだ! おくずさまなら知ってるかもしれませんよ。聞いてみます!」
きょ、きょきょ、きょきょ……
大きく開いた羽をお骨さまは小刻みに震わせた。珍しい響きがする。
――大丈夫なのじゃ。行けばわかるゆえ、聞かないのじゃ。
「えー!」
――聞かないほうが面白いのじゃ。
不満の声が出たけど、お骨さまは気にせずどんどん走って行く。
跡が続く先は、赤い割れ目から離れて、黒い岩山のほうに向かってるみたい。こっちの岩山は、湖と黒い枯山水を隔てる岩山よりなだらかで広々してる。でも、尾根は高いから、たどり着くにはずいぶん時間がかかりそう。
「あ、だめですよ。あちちじゃなくなっちゃいました」
普通の岩場に入ったので、当然足跡は残ってない。
お骨さまは地面に顔を寄せて、あちらこちらを眺めまわした。
――跡が見えないのじゃ。
首を傾けて、お骨さまは遠くを眺める。今のところ、大きな生き物の姿はない。
急にジュスタが地面に飛び降りたので、慌てて追いかけた。
私が下りる間に、ジュスタは地面に四つん這いになり、岩すれすれに顔を寄せて様子を見てる。
「ジュスタ、見つけられますか?」
「うん。なんとか。このまま先に続いてるけど、どこまで分かるか……」
――行けるところまでじゃ。行ってみるのじゃ。
お骨さまがばっと羽を広げた。
――わひゃっ!
と思ったら、お骨さまが跳ね上がる。
「あ、ペロ!」
あばら骨の先端にペロが引っ付いてる。
溶岩じゃないから、地面を歩く気になったのかな?
「降りるのかい?」
ジュスタが手を伸ばすと、どうやって分かるのか分からないけど、ぼてっと落ちてくる。地面に降ろされて、すささっと走り出した。
……あ、早速止まって黒い石を取り込んでる。
足元を見つめてジュスタが歩き始めた。
――今度はジュスタが先頭なのじゃ。
「はい! ペロも行きますよ!」
お骨さまの足元を横切ったペロは黒い石以外に、小さいクモを水玉の中に閉じ込めてる。
……クモ、大丈夫かな?
お骨さまに乗るよりずっとスローなペースで、追跡再開。
「ジュスタ、見えない足跡が見えるなんてすごいですね」
集中してるジュスタの邪魔にならないように小声で言う。
――ジュスタはすごいのじゃ。
お骨さまは小声と大声の区別がない。
移動のテンポが遅くなったせいか、ントゥもお骨さまから降りてきた。
――む! むむ!
歩くお骨さまの骨の合間を上手に飛び回っている。指の骨の間を駆け巡るントゥを見て、お骨さまはかぱっと口を開けた。
――こそばゆいのじゃー!
「わー! お骨さまー!」
お骨さまは羽を鳴らして走り出し、ントゥはそれを追いかけて走る。
なだらかな岩山で白い大きな骨と黄色のエネックの運動会が始まってしまった。
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