20.大きな骨と欠片
お昼休憩を取ることにして、中腹辺りの岩棚で腰かけた。リュックから布の包みを取り出す。ニーノが作ってくれたサンドイッチ。朝と同じパンだけど、中身がちょっと違う。卵の代わりに芋が入って、塩味野菜サンド。
「うむ、おいしいです」
パンの外側はしっかりしてるので、よく噛まないといけない。
ジュスタが水筒を渡してくれた。
「ントゥはご飯食べませんか?」
ントゥはお骨さまから降りて、岩を次々飛び渡る。お骨さまもントゥを追いかけて岩山を駆け回ってる。ントゥが付き人だけど、今はお骨さまがントゥについて行ってる。
「今は食べないのかな? でも、お腹がすいたら自分で狩りを始めるよ」
「きっとそうです」
ントゥは砂漠育ちだけど、岩山で食べる物見つかるかな?
ペロのほうは相変わらずお骨さまにくっついてるけど、だんだん頭の上に行こうとしてるみたい。
「ペロちょっと小さくなった気がします」
「ほんとだね。やっぱり熱いんだろう」
人間だったら、こんなに簡単に大きくなったり小さくなったりできないから、水玉は便利だ。
岩肌は黒くて、ントゥの黄色い毛並みがよく目立つ。でも、五十倍くらい大きくて目立つ白い骨が一緒だから、ントゥは骨から落ちた欠片みたい。俊敏に岩山を跳ね回る様子は、鏡で壁に反射させた太陽を目で追いかける気分。つるっとあっちからこっちに移る。
「お骨さまとントゥ、とっても仲良し」
思わずにっこりしちゃう。
「うん。素敵な付き人ができて、よかったね。お骨さま」
ジュスタもにっこりしてる。
お骨さまとントゥは、身軽なところが似てる。
にこにこもぐもぐしてたら、急にントゥが吠えた。
ヴァンヴァンと吠えるのは、怒ってる。
――ントゥ、どうしたのじゃ?
お骨さまがカタンと首をかしげた。
「ントゥ、怒ってますよ!」
「うん。――あー、たぶん、ペロがお骨さまの頭の上に行ったからだ」
一瞬、お骨さまの頭の上がきらっとした。
ガラスの鉢がいる!
そうか、ントゥにとって、お骨さまの頭の上は自分の場所なんだな。
吠えてもペロが動かないから、ントゥがお骨さまの頭に跳び移った。
「うわ!」
「危ない!」
いつもよりかなり遠い距離から跳んで、お骨さまの骨の端に爪を引っかける。尻尾と後ろ足を駆使して、なんとか体を引っ張り上げるとペロを追いかけ始めた。
ペロも慌てて逃げる。
――わひゃっ! わひゃっ! 追いかけっこなのじゃ。
二人の様子を見ようと首を巡らせてたお骨さまは、だんだん楽しくなってきたみたい。羽を広げてひょいひょい岩山を登り始めた。
「今から何しましょうか?」
ご飯を食べ終え、パンの粉をはたき落とした。
遠くでは、ントゥとペロとお骨さまがまだ遊んでる。
ントゥはペロを追い回して満足したのか、今はまた岩の上に戻って、お骨さまと駆け回ってる。ペロはようやくお骨さまの頭の上でリラックスモード。
「少し食べ物を探してみようか」
「はい!」
お骨さまたちを眺めるのを止めて、ジュスタに向き直る。ジュスタは持って来たロープを腰に結びつけ、一方の端を私の腰に結わえつけた。
「崖を登るから、念のためにね」
もう一方の端は、肩にまとめてかける。
「お! びゅん! です!」
縄の端についた鉤を見て、思わず叫んだ。前は、鉤を投げて縄で移動することもあったけど、ジュスタがびゅん! を使うのは久しぶり。
「少し改良したんだ」
「おおー!」
いつの間に!
「一緒に気をつけて行こう」
「はい!」
鍛錬の気分になってきた。
まずは岩棚をたどって登りやすい斜面を探す。
「湖の近くより、もっと草が見えないな」
向こうで見かけたイネ科の草も、ほとんど見えない。
「あ! コケはありました」
斜面で岩の隙間に乾燥した地衣類がはびこってる。
「クモが走った。少しは生き物もいるね。……ちょっと登ってみよう」
ジュスタは上の岩棚に鉤を投げ、うまいこと縄を固定する。登ってみるかい、と目で聞かれた。
岩山はもちろん全部岩だけど、それぞれ違う様子をしてる。ここは岩が丸っこくて、足がかりも見える。
飛びついて両手両足で登っていく。
「うん、いいぞ」
ジュスタも下からついて来た。
邸の周りの森だとどの辺りで休めるか、どのくらいで登り切るかわかってるけど、ここは初めて。暑さで額に汗が出て、思ったより時間がかかる。
「よーし、一区切りで……うひゃ!」
岩の出っ張りに体を乗り上げたとき、目の前を小さなトカゲが走って行った。岩に合わせて黒っぽい体。背中のボコボコしたところだけ灰色っぽい。
「大丈夫?」
「ジュスタ、トカゲでした!」
追いついてきたジュスタに報告する。
「そうか。大きめの生き物がいるんだね」
「はい、そうです! よかった!」
これなら、食べ物があるかもしれません。
それからジュスタといろんな岩の裂け目をのぞいたり、頭上を飛んでいった鳥の姿を追ったりしたけど、結局食べられそうな物には出会えなかった。でも、岩山のてっぺんまで登って見た景色は、お骨さまの背中から見た景色とはまた違って、気持ちいい。
「――ん、あ、ニーノさん」
隣の岩のてっぺんで周りを見てたジュスタが宙を見上げる。視線の先にニーノはいないから、テレパシーだ。
「ああ、そうですね。分かりました」
「どうしましたか?」
「そろそろ戻っておいでってさ」
「夕方はまだですよ!」
まだ、岩を削ったり、赤い割れ目がよく見えるところに行ったりしてないのに。
「知らない場所だから、早く帰ったほうがいい。また明日来よう。――お骨さまー! ントゥ! ペロー!」
ジュスタは、遠くで追いかけっこしてる二人プラスひっつき虫を呼ぶ。
確かに竜さまが長期お食事中だから、探検する時間はまだまだある。
――ジュスタが呼んだのじゃ。どうしたのじゃ?
お骨さまがひょいひょいやってきた。
「お骨さま、今日はもう帰ります」
――なんと。もう帰るのか?
「明日また来ましょう」
お骨さまに追いついたントゥが尻尾の上から頭に戻ってくる。威嚇されたペロがお骨さまの鼻先に逃げてきた。
――明日また来るのじゃ。あちちを走るのじゃ。
お骨さまが首を下ろしてくれたので、ジュスタと二人で登る。
ヴ……わんっ!
「わー! ントゥ!」
二人で怒られて、慌てて肩の骨まで移動した。
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