19.溶岩の上ピクニック
黒い溶岩は動いてるように見えない。でも、ときどきあっちで赤い中身がこぼれだし、こっちで枯山水の山が高くなる。やっぱり、ゆったり動いてる。
「うわ! お骨さま、大丈夫!?」
最初は溶岩の縁をひょいひょい進んでたお骨さまが、枯山水へ踏み込んだ。
――珍しいのじゃ。……む?
お骨さまが溶岩に顔を寄せる。
「熱くないですか?!」
「溶けた岩なんて、いくらお骨さまでも――」
ジュスタはちょっと青ざめてる。
――アシュなのじゃ。向こうのアシュよりあったかいのじゃ。
「おおー……」
思わず、ジュスタと顔を見合わせた。
「さすがお骨さま」
お骨さまは頭をカタッと揺らして、前肢を眺めた
――よ? じっとしていると熱いのじゃ。……あちち、あちち。
羽を鳴らして、ひょいひょい走り出す。
「わー、やっぱり熱いです!」
両の羽を広げて、お骨さまはぐんぐん走る。
――砂漠の砂ほど熱いのじゃ。砂漠の砂より熱いのじゃ!
大慌てで、肩の骨にしっかりしがみついた。
今までの倍くらいスピードが出てる。
――砂漠の砂は中がひやっとしておるのじゃ。このアシュは中がどんどん熱いのじゃ!
「お骨さま、岩が溶けているんです。とっても熱いですから、岩山へ戻りましょう」
ジュスタの声にお骨さまは口を開けて、こちらをのぞき込んできた。
――岩が溶ける? 岩は固いのじゃ。それから、冷たいのじゃ。
お骨さまは走り回るのを止めて、足をぴょいぴょい持ち上げながら、跳ねるみたいに移動し始めた。
私たちが一緒なのを一瞬、忘れてたのかもしれない。
「俺も分からないですが、元がとても固くても高温で熱すると、やわらかくなるんです。ガラスもそうやって作ります」
――熱? では、誰かが岩に向けて火を吹いておるのか?
ジュスタは蜂蜜色の目を大きく見張った。
「ん……、そうですね。でも岩を溶かす火を吐けるのは、竜さまがたくらいですから……」
首をかしげて足下を眺める。
「この下に大きな竜さまがいる……のかも?」
「……うっふっふー!」
溶岩の下に大きな竜さまがいて、ごうごう火を噴いてたらちょっと面白い。
でも、ジュスタはやっぱり火山を知らないみたい。この世界でも前の世界でも、火山に出会わなかったんだ。だから、竜さまに結びつけてるんだな。
大規模枯山水の全部が流れ出てきた溶岩でもすごいけど、竜が溶かしたなら物語か神話みたい。
足を代わる代わるぴょいぴょいしながら、お骨さまがぱかっと口を開けた。
――竜がおるのか? こんなに溶かすのは、きっと大きな竜なのじゃ。
溶岩にまた顔を近づける。
――おるか? 誰か、おるかー?
ぴょいぴょいしながら、お骨さまは待ってる。
――おるかー?
溶岩に顔を近づけて、耳を澄ましてるみたい。じーっと待ってみる。
お骨さまが、急に羽を広げてぴょーんと飛び上がった。
――あちち、あちち!
足をぴょいぴょいして、お骨さまは岩山に向かって移動を始める。
――おらんのじゃ。答えがないのじゃ。
「はい。たぶんいません。これは地面のケンカですよ」
とっても残念だけど。
「あ、そうか。そうだったね」
ジュスタも残念そう。
「ホントは竜さまがいたら、嬉しいです。きっととっても大きな竜さまですよ」
「でも、地面の下にずっといるのはお気の毒だ」
――地面のケンカは熱いのじゃ。
岩山の麓にたどり着いても、お骨さまはまだぴょいぴょいしてる。
「お骨さま、ちょっと足を見ておきましょうか」
ジュスタが肩の骨から地面に飛び降りる。
「お! エーヴェも!」
ジュスタを追いかけて、肩の骨からあばら骨に飛び移り、滑り台みたいに内側を降りた。
――うぉっほ! くすぐったいのじゃ。
お骨さまが顎をカタカタ鳴らす。
あばら骨の先端から前足の骨に移り、ずるずる伝ってジュスタの所に着いた。
「ちょっと温かくなってるけど、けがや火傷はしてないみたいですね」
ジュスタが足の骨をなでると、お骨さまがまた顎をカタカタ鳴らす。
――わしは骨じゃもの。けがはしないのじゃ。
お骨さまが掲げてくれた足の裏を見る。
白い骨で何の変わりもない。
「きれいな骨です」
「熱くなるのもすぐだけど、冷たくなるのもすぐなのかな。よかった」
「はい、よかったです」
安心したところで、二人そろってお腹が鳴った。
評価・いいね・感想等いただけると大変励みになります。
是非、よろしくお願いします。




