プロローグ
ようやく再開いたしました。
またも特に激しいことのない日常冒険ストーリーですが、お付き合いいただければ幸いです。
むかーしむかし、愚かな人間どもはこの世界を滅ぼしてしまいました。
でも、竜さまは偉大なので、滅ぼされません。
世界に何もいなくなったことに気がついた竜さまは、元のにぎわいを戻すために工夫を始めました。中でもいちばん長生きの竜さまは、他の世界からこの世界にいた生き物を連れてくることにしました。
草、木、鳥、虫――。それから、人間もこの世界に運ばれてきました。
世界には悪いものが満ちているので、みんな竜さまの側でしか生きられません。竜さまがいるところは竜の座と呼ばれて、生き物でいっぱい。それぞれの親竜さまの近くでみんな暮らしています。
人間は竜さまの側で生きる竜の付き人です。付き人は竜さまの力を分けてもらって、ときどき特性を持ちます。風を操ったり、物を透かして見たり、ぴょんぴょん跳んだり。特性のおかげで人間は数が少なくても社会と文化があります。
そして、今走ってる赤い髪の女の子こと、私、エーヴェは、いちばん最近この座に来たヒナです。でも、前の世界のやり方で数えるともう八歳になったので、竜さまの羽ばたきでひっくり返りません。だいぶん強いです。
エーヴェにも特性があります。でも、よく分かりません。その特性と上手に付き合うために、いちばん長生きの竜さま、古老の竜さまに会いに行きます。
なんと、今、その旅の真っ最中!
いそいそとハーネスを体につけて、はしご板を駆け上る。階段の先には、朝焼けの空が見える。甲板に顔が出ると、冷たい風が髪の間を吹き抜けていく。広がった空は、黄色から青紫のグラデーション。風でぱんっと張った白い帆は、まだほの暗い灰色。そこに描かれた青い竜さまが体をくねらせて、空を泳いでるみたい。甲板は夜明け前の空と同じ、青い灰色に染まってる。
「おはよー! ジュスタ」
舵を取ってるジュスタに声をかける。くるんくるんの黒髪が風で後ろになでつけられてる。首を揺らして応えてくれた。ゴーグルの下に隠れた蜂蜜色の目は、きっとにこっとしてる。
「おはよー! シスー!」
船尾で帆のロープをまとめて抱えてるシステーナが片手を上げた。柔らかいうぐいす色の髪が風にふくらんでる。腕から黒い線がたなびいてるから、お屑さまは眠ってるのかな。
甲板が溶けた鉄の色に輝いて目を細めると、きらっと何かがひらめいた。
船の前の空を、大きな影が飛んでる。
ぴょんっと甲板に飛び出て、両手を振った。
「おはよーございます!」
大声であいさつする。
羽をたわめると、影があっという間に迫ってきて、帆のずっと上で竜さまが船と並ぶ。
竜さまが頭を傾けた。
――うむ。エーヴェ、今朝はずいぶんと早い。
――おはよーなのじゃ。
どこから現れたのか、お骨さまがふわりと船の上空にやってくる。
朝の光でお骨さまも真っ赤だ。
「竜さまと朝陽を見たいと」
声を振り返る。
銀髪をさらさらなびかせながら、ニーノが立ってる。いつもどおりの冷たい青白磁の目だ。竜さまのほうに顔を戻す。
「エーヴェ、いつも竜さまと夕陽は見ますけど、朝陽は見ませんよ」
――ふむ。そうであったか?
ちょっと考える。竜さまの座では、一日の終わりに竜さまと夕陽を見るのが習慣だった。竜さまのいる洞からだと夕陽はよく見えたけど、朝陽は見えない。
でも、竜さまと朝陽を見たこともあるかもしれない。
「朝陽はあんまり見ませんよ」
竜さまは首をかかげた。
舳先より少し右に、すっかり丸くなった朝陽が顔をのぞかせる。
――ふぁがっ! 朝なのじゃ!
船尾から声が聞こえた。きっとお屑さまがぴこんと頭を上げたところ。
――お日さまも、おはよーなのじゃ。
お骨さまがばたばた羽を動かした。
今は船の上だから、朝陽も夕陽も見えるもんね。
――皆で見る朝陽もよいものである。
竜さまは羽ばたきを止めて、のんびりと風に乗ってる。
「はい! お日さま、おはよーございます!」
竜さまがいる世界にも、おはよう!
さあ、今日も竜さまと旅をします。
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