21.料理して食べる
船に帰ってオロムの血と肉を届けると、ニーノは眉をひそめた。
「…………」
「ニーノ、黙ってますよ」
「あたしが料理すっから」
「…………」
「何だよ~」
深々と溜め息をついて、ニーノは手を差し出す。
「私が料理する」
「ほい」
システーナは神妙に肉を渡す。
「皮はジュスタにやってくんぜー」
――ジュスタは炉の傍におるのじゃ!
何でも知ってるお屑さまの助言で、システーナは食堂を出る。
トゲの実の包みを掲げて、台所に入っていくニーノを追いかけた。
「ニーノ、トゲの実ですよ」
「ああ」
差し出した包みを見て、ニーノは頷く。
「ニーノは食べたことありますか?」
「いや。見るのも初めてだ」
初めてと聞いて、見つけたところから、トゲを避けて実を取ったあらましを説明する。
ニーノは話を聞きながら、オロムの肉を骨からこそぎ落としてる。
システーナが言ってた通り、骨がたくさんある。
鳥の肋骨みたい。作業が多そう。
「エーヴェも手伝いますか?」
「まず話せ」
それで、話を続ける。システーナが指でトゲを折る動きを真似して見せた。
「シスはエーヴェより皮が厚いです」
「そうか」
「ニーノ、珍しいから食べますよ!」
ニーノはようやく一つ摘まんで食べる。
「――いい味だ」
「おおー」
ニーノが食べたので満足して、包みを台に載せた。
「エーヴェ、手伝います!」
「では、手を洗え」
「はい!」
干し野菜を水につけたり、湯を沸かすために鍋を用意したりする。
でも、途中からは器の準備。料理はニーノ任せです。
*
受け取ったときの沈黙は長かったけど、ニーノは丁寧に料理して、そろった食事は素敵な香りの湯気を立ててる。
口の中がよだれでいっぱい。
時間がかかるのを見越して、主食は久しぶりのご飯。具がたっぷりのスープとトゲの実デザート。スープには干し野菜と、当然だけどオロムの肉がたくさん入ってる。骨からこそぎ落としたから、一見、肉団子風。味はとっても淡泊でタラみたい。でも繊維質じゃなくて、ぷるっとしてる。コラーゲンかな? でも、固まってる見た目は、鳥の肉団子。
「おいしいですよ!」
生きて動いてるところを思い出すと、想像もつかない味。
「すげー簡単に食える! 骨どこ行ったんだ?」
「取った」
「すげえ! めんどくせー! うまーい!」
「ジュスタ、骨は何かに使うか?」
台所に視線を投げるニーノに、ジュスタは首を伸ばしてそちらをのぞき、目を見張る。食事中なのに台所に飛び込んで、しばらくして感心した顔で出てきた。
「すごい数ですね。乾燥させたときの強度次第ですけど、形はいいです。使えるかも」
「皮も何かに使いますか?」
システーナが持って行ったことを思い出して、聞いてみる。
「鞣しがうまくできるか分からないけど、うまくやれば使えそうだね」
「おおー! ジュスタですよ!」
「そうだよ」
拍手すると、ジュスタは小首をかしげて笑う。
「今は食え」
「はい」
「はい」
ニーノの視線で、ご飯再開。
あったかご飯と肉団子スープで、心からぽかぽかしたところで、トゲの実デザート。
赤っぽい実の幾らかは潰されて、白い果肉と謎めいた食感の種が見えてる。ちょっと透き通っててトマトの種にも雰囲気が似てる。
一口食べて、びっくりした。
「ニーノ! 何かかけましたか!」
「そうだ」
「わ! 何です、これ?」
「トゲの実です!」
ジュスタに答えて、周囲を見る。真っ先に答えてくれるお屑さまがいない。
「お屑さまはシューマに返したぜ」
「おお!」
デザートを一口で食べ終わったシステーナが教えてくれる。
シューマ、よかったです。
もう一口、デザートを食べた。トゲの実をそのまま食べたときは実ごとに味にムラがあったけど、今は甘酸っぱいソースがかかってて、全部の味がそろってる。とくにぷにぷに食感の種とソースが一緒に口に入ると、おいしい。
「ニーノの薬は苦いですけど、料理はとっても美味しいです!」
「ぶわっはっはー!」
システーナが爆笑したけど、ニーノは眉一つ動かさない。
ジュスタはおいしそうに食べてる。
ご飯は大事
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