18.草の実採集
遅くなりました!
ふわふわエビフライを見て満足したので、若いアミョーたちにお礼を言って、群れを離れた。
「おくずさま、痛い実のところに行きましょう!」
――うむ、草の実じゃ!
お屑さまが張り切ってぴこんぴこんする。
「今、その実あんのか?」
――うむ! おそらくなっておるのじゃ!
「おそらくですか?」
――おそらくなのじゃ!
不安だけど、行ってみるしかない。
お屑さまの雪崩のような説明を聞いてると、草の場所はここから少し遠いみたい。システーナに運んでもらうことにして、背中に乗る。
システーナはすぐに駆け出した。
「シスは本当に足が速いですね」
「そうだぜー」
――アミョーに乗ればよかったのじゃ!
「たしかに!」
「そうだな!」
――シスはすぐに走るのじゃ! まったく愚か者なのじゃ!
お屑さまに怒られながら、大笑いして草原を走る。
そのうち、草原の草の種類が変わる。丈の高い緑の草から、システーナの膝下くらい背の高さに。さわさわした涼しげな紫がかった葉っぱの草。花畑みたいに草原の雰囲気が変わった。
「珍しい色の草ですよ!」
――ぽ! 珍しくはないのじゃ! 珍しいのは青の草と黄の草なのじゃ!
「おお、青の草!」
「へー。空と地面がどっちも青くなっちまうな」
――うむ! 青い草が多くては、地が空になってしまうのじゃ!
「大変なことですよ!」
――大変なことなのじゃ!
「空には雲があっから、見分けつくだろ」
「でも、地面には白い毛の動物がいるかもしれませんよ!」
――ぽはっ! 雲と見まがうのじゃ!
システーナの腕輪で、お屑さまがぽはぽは笑う。
慌てた様子の長い尻尾が、草むらを揺らして消えていった。
注意して見たら、風が吹いてるだけに見える草原にも、いろんな生き物がいるのかも。
――シス! 見えたのじゃ!
お屑さまがぴこんっと伸び上がる。
――あの岩の近くじゃ! 絡まったツルの一叢があるのじゃ!
「ん、あー、あれか」
私には全然分かんないけど、システーナは一段と加速してお屑さまの言う場所へ向かう。
「あ! あれですね!」
「あーたしかに、痛そーだ」
お屑さまが絡まったツタと言った通り、有刺鉄線のバリケードみたいに地面を覆った草むらがある。バラとも似てるけど、茎のあちらこちらに大きく鋭いトゲが目立つ。
――わしは竜ゆえかゆくもないが、童やシスには痛いのじゃ! じゃが、実は美味なのじゃ!
トゲトゲの草むらの前で、システーナの背中から降りる。トゲの間をのぞき込むと、赤いつやつやした実がちらほら見える。
「なってます!」
――うむ! 運がよいのじゃ!
「おくずさまは食べたことがありますか?」
――痴れ者め! わしは草の実など食べぬのじゃ!
「お屑さまは波を食うもんな」
相鎚を打ちながら、システーナが蔓の間に手を入れようとして、さっと引いた。
「うーん、腕は入んねーな」
「エーヴェがやってみますよ!」
私はシステーナより腕が細い。伸ばそうとした手を、がしっと握られる。
「おちびはケガすっぞ」
――そうじゃ! 童の腕は細いがすぐに傷つくのじゃ! シスは皮が厚いのじゃ!
「そーそー」
「むむ」
しゃがんだ膝に手を戻して、お屑さまを見る。
「おくずさまは食べたことがないのに、どうして実が美味しいと知っていますか?」
――鳥や虫やネズミやヘビに聞いたのじゃ! この草にはわしではないわしが何度か招かれたゆえ、実を食う生き物をたくさん見たのじゃ!
なるほど、体の小さい生き物なら、トゲをすり抜けて入って行ける。体が小さいから赤い実も、たっぷりのご馳走。冒険の価値があります。
鳥や虫やネズミやヘビの味覚が頼りになるのか分からないけど、それだけの証言(?)があるなら食べてみたい。
トゲの一本を指で摘まんで、システーナがぽきんと折る。
「おお、折れました!」
「けど、一本一本折るのはめんどくせーな。やっぱ切るか。おちびはちょい離れてな」
「はい!」
腰から取り出した大ぶりのナイフで、手近な茎の表面を薙いでトゲを飛ばす。そこをしっかりつかんでから、ざん、ざん、と枝を打ち払っていく。蔓が切れる度に、草のさわやかな匂いが周りに広がった。
「よし、おちび。味見しよーぜー」
実がついた枝を拾って、一つを手渡してくれる。実は、大ぶりのブルーベリーくらい。色はつやつやの真っ赤で、バラの実そっくり。
「いただきます!」
舌の上でぷちっと潰れた瞬間、ちょっぴりの果汁が口に広がった。酸っぱい。でも甘い。大きめの種が残ってるから奥歯で潰す。いい匂いで弾力のある中身がつるっと出てきた。固めのグミの欠片みたい。一生懸命噛もうとしている間に、喉に落ちていった。無言で掌を上向けると、顎を動かしているシステーナが、新しい一つをのせてくれる。
食べる。
今度は甘みが強め。種の中から出てきた中身は、さっきのより固めで甘くて、おいしい。
――美味なのじゃ!
ぴこんっとしたお屑さまに、頷く。
「……甘くて酸っぱくて面白いです!」
「腹に溜まる感じしねーけど、おもしれーな!」
「ニーノとジュスタにも持って帰りますよ!」
「そーだなー。でも、飯は別に探そうぜ」
システーナが自分の口にもう一つ放りこんで、ツルの草むらに向き直った。
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